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人生に疲れた俺は、シェアハウスにラブコメを求めない  作者: 城野白
夏 4章 熱は微かに、されど確かに
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5話 ワァ

 たまに忘れそうになる。


 この日々が、奇跡みたいなバランスで成り立っていること。

 人の心が、不変ではいられないこと。

 変わらないために、ずっと目をそらしていた。

 目を開けてしまえば、ヒビが入ると知っていたから。





 買い物から帰ってきた夜、財布だけ持って外に出た。

 散歩っていいよね、特に夜は特別な気がする。高校生までは親の目があったから、日付が回ってから外出することはなかった。っていうか普通に条例違反なんだっけ。


 自販機で年々でかくなる麦茶を買って、近場にある公園に来た。住宅街にある、遊具三つくらいの小さな公園。

 日中にはとても乗れないブランコに座って、ぼーっとする。


 別に憂鬱ってわけじゃないし、動揺もさほどないし、挙動不審になるわけでもない。

 ここから逃げることも、これ以上前に行くこともないだけだ。


 なんというか、やけに冷静で。

 ああ、やっぱり俺はそういうやつなんだな。みたいな、達観した自分がいる。


 差し伸べられた手をつかめば、その温かさに絆されると知っていて。

 そこに手を差し伸べれば、純粋さに心を溶かされると知っていて。


 ぜんぶどこかでわかっていて、避けるべきだと思いながら、彼女たちと歩み寄った。

 他の二人だって――


 宮野は、宮野は…………まぶだちって感じだけど。

 マヤさんは美人だし見た目はタイプなんだけど…………恐怖が勝ってるわけだけど。


 だけど、それだって。

 完全に安全じゃないわけだ。


 いやまあ、有害なのは怠惰な思想だけがモットーの戸村くんは外的な害を為すことはないんだけれど。

 内心が穏やかってわけじゃあ、ないんだよな。


 二次元はガチだけど、別に三次元が嫌いとは言っていない。一般大学生が持っている鬼の欲求に比べたら、そりゃあ岩にへばりついてる苔くらいのもんだろうけど。

 それだって、完全にゼロなわけではなくて。


 あの場所にいつまでもいたい、あの人たちと一緒にいたい、その思いは、同時に未来を押しつぶすほどの不安を連れてくる。

 ペットボトルをつまんで、上を向いて、額の上にのせる。


「大人になりたくねえ……」


 変わりたくないという願いは本物で、けれど変わっていくものはあって。

 結露したペットボトルの水滴が目に入って、痛い。





 一年前の俺だったら、これで毎日テンパりまくっていただろうけど、今の俺はちと違う。前回のクリスマスで過ごした無の期間が、感情のコントロールを覚えさせてくれたのである。

 特に、何も考えない、心を無にすることに関しては仏僧に勝るとも劣らない能力を持つ(自称)。


「戸村くん! スイーツの遠征に付き合ってください!」

「ワァッ」


 めっちゃ変な声出た。

 どこ行ったんだよ無の心はよ。


「前から気になってたんだけど、けっこう田舎にあるお店でね。電車の最寄り駅もすっごく遠くて、丸一日かかっちゃいそうなんだけど……いいかな?」

「ワッ、ワッ、ワァッ」


「えっ、いいの!?」

「ワァ~」


「いつもありがとねえ。本当に君には助けられてばっかりだよ」

「ワワァ……」


 なにこれ? 心優しいバケモノと少女の会話?

 っていうかなんで古河は一ミリも動揺しないんですか。もしかしていつも俺ってこんな感じ? 


 ……こんな感じかもしれない。

 今だってすっごい自然に謎言語が出てくるし。二十四時間くらいなら「ワァ」だけで生活できちゃいそう。俺、小さくて可愛すぎ。


「それでね、よかったら利香ちゃんも呼びたいなぁって思ってて」

「ふむ」


「あ、日本語」

「ワァ」


 しまったキャラがぶれるところだった。俺は心優しいバケモノ。ミンナトモダチ……。


「はて、利香さんとはどんな人だったか」

「戸村くんの親友だよ!」


「そんなになった覚えはねえよ?」


 ちょこっとお話ししただけだ。友達かどうかすら怪しい。友達、友達……トモダチの定義ってなんですか?


「利香ちゃんが一緒に連れてって、って泣きわめいてたんだよ」

「バケモノじゃん」


 俺らの年でそのだだのコネ方は許されないのよ。いかなる美人であっても。


「なるほどなぁ。利香さんも来たいのか……」


 男女比1:2。普段から1:4をやっている身としては、全然ちっとも恐ろしかったりしないのだが、いやほんと、怖いとか緊張するとか思わないんだけれど、3人ってのがよくない。3っていう数字は不吉なんだ。アホになる。


「だったら、あいつに声かけてみるか」


 夏だし、大学生だし、運転手の二枚目がほしいし。

 ガチ陽キャ先輩でも、呼んでみますかね。

日々さまざまなeverythingに圧殺されそうになりながらなので、まだゆっくり進行です。。。

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― 新着の感想 ―
[一言] お疲れ様ですー 彼も色々悩んでいますねえ。 考えすぎて、なかなか一歩進むことができないでいるみたい。
[良い点]  いよいよ戸村君の物語が動き始めたかな。  楽しみですなあ。
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