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人生に疲れた俺は、シェアハウスにラブコメを求めない  作者: 城野白
夏 4章 熱は微かに、されど確かに
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2話 エッチすぎる

「……………………」

「……………………ゴスロリドレス、ですか」


 永遠にも感じる沈黙の末、七瀬さんは小さく呟いた。口元に手を当ててなにかを考えるその姿は、千年前の遺跡に立ち向かう考古学者のように真剣だ。

 だが、真剣だからこそ取り返しがつく。圧倒的な困惑が勝っているおかげで、七瀬さんからまだ軽蔑の波動を感じない。


「本気ですか?」


 撤回するならここだ。気合いを入れろ!


「口が滑っただけで――」

「ゴスロリとは、我が国が生み出した気高き文化なのだ!」


 はい。

 薄々気がついてたけど、この店を一通り見て退屈になった宮野がやってきた。沈黙が長すぎたせいだ。


 頭を抱える俺の横で、アホみたいな熱量の演説を始めるJK。目立たないようにちゃんと声量を抑えているのが憎たらしい。なぜその配慮を俺に回してくれないのか。


「つまるところ、和服のようなものだから柚子くんが着てもなにもおかしくはないぞ!」

「和服を着てたら目立つと思いますが」


「ではボクが和服を着よう」

「…………」


 意味不明な宮野ワールドに目を白黒させる七瀬さん。

 ため息をついて、アホの頭頂部に軽くチョップ。


「みーやーの、年上からそのノリで押されたら困るだろ」

「あうっ」


「ごめんね七瀬さん。こいつは俺がちゃんと教育しとくから」

「トム先輩はボクの先生にもなってくれるのか?」


「なんで嬉しそうなんだよ」


 この変態はもうなんでも喜ぶな。無敵の人より強い説ある。


「先輩」

「はい」


「私以外の生徒を持つのは教育的浮気にあたります」

「教育的浮気とは」


 およそマッチしない二つの単語が融合。想像もつかないミラクルが起こるのは、七瀬さんも一緒なんだよな。脳がいくつあっても足りないぜ。


「もういいです。それで、服はどれがよさそうですか?」


 悩んでいる間にタイムアップ。話題は元に戻される。ゴスロリお化けは俺の背中に封印しているので、もう悪さはしないだろう。


「七瀬さんの服かぁ。正直もともとのセンスがいいから難しいんだよな……」


 腕組みして考えつつ、後ろでカサカサ動くJKを牽制し続ける。

 ったく、こいつは暴走すると止まらないからな。見た目はイケメンで服もキレイめなのに――ん。


「あ、そっか。宮野が買うようなの試したらいいんじゃない?」

「ボ!?」


 異音を発して姿勢を崩す宮野。よっぽど驚いたのか、背中を両手でたたかれた。振り返ると、眼鏡の奥で瞳がぐるぐる回っている。


「ボクの服を七瀬さんに着せるなど、そのような冒涜があっていいはずがないけれど憧れないわけではないペアルックみたいな感じだからよし行ってみよう!」

「だって。行こうか七瀬さん」

「先輩、……すごい慣れてますよね」


 バグった日本語からちゃんと意味を抜き取り、即座に理解してしまう俺。

 七瀬さんの視線はもちろん尊敬。ではない。







 七瀬さんの服を選ぶ宮野は、かつてないほどに真剣な顔をしていた。俺がベストアニメヒロインを決めるときと同じものを感じる。十二歳以下しか勝たん。


「これって結局、先輩が選んでないですよね」

「バレた?」


「バレてますよ。私は先輩に選んでほしかったのに」

「うーん……」


 自分から店員ごっこを始めただけに、そう言われると心苦しい。だが実際、夏服って難しくない? 冬だったらいい感じのマフラーとか指させばよさそうだけど、夏はそうもいかない。シャツとかスカートとか、一つ一つがミスれば致命傷になるものばかりだ。


「じゃあ、後で帽子でも見に行こうか。ってのはどう?」

「許しました」


「よっしゃ」


 しっかり許されていくわけですよ。このあたりの機転の利かせ方はちゃんと学んでいる。戸村くんだって日々進歩しているのだ。ホモサピエンスなのでね。

 そうこうしているうちに、宮野は準備できたらしい。


「決まったぞ。あまり自信はないが……」

「はい。着てみますね」


 渡された服を持って、七瀬さんは試着室に入っていく。入れ替わりで宮野がこっちへ戻ってきた。


「おつかれ」

「ああ。久方ぶりに熟考したのでな、少しめまいがする」


「どんだけ本気振り絞ったんだよ」

「負けヒロインを応援するときくらいだ」


「とんでもねえ本気度じゃん」


 想像を絶するほど過酷な戦いだったらしい。


「そこまでやったのに自信ないって、なんつーか、宮野らしくないよな」

「ははっ。少し勘違いしているようだな、トム先輩」


「なにを」

「柚子くんに似合わない服を選ぶ方が難しい。素材がいいのでな」


「ほう」


 力説する宮野博士。めちゃ真剣なところがキモくて良い。


「ボクはただ、あれを着た柚子くんを見て理性を保つ自信がないだけだ」

「念のためにおまわりさん呼んどくか」


「いざという時は頼んだ。ボクを止められるのはトム先輩だけだ」

「誠に遺憾なんだよなぁ」


 こんなはずじゃなかったマイライフ。

 宮野はどんな服を選んだのだろう。受け取ったときの反応からして、やばいのじゃないのは確かだ。布面積が小さいやつだったら、いまごろ七瀬さんが飛び出してきて怒っているだろう。


 となると……なんだ。ちっとも思いつかん。

 思考を巡らせていると、試着室のカーテンからひょこっと顔だけだす七瀬さん。


「着ましたけど。これでいいんですか?」

「うむ」


 不思議そうな顔されてるけど、大丈夫なのかよ。


「そうですか」


 カーテンが開かれ、出てきた七瀬さんは大きめのTシャツを着ていた。2サイズほど上のものだろうか。ズボンはもともと横に広いタイプらしく、ベージュで涼しげだ。


「こ、これは……」

「うむ。想像以上の破壊力だ」


 すぐに宮野の狙いを察し、静かに戦慄する。


「ちょっと大きいと思うんですけど」


 七瀬さんが首元を気にして持ち上げれば、ちらっとのぞく細い鎖骨。


「ぐはっ」

「宮野ッ!」


 心臓を抑えて苦しげにうめく変質者。だが、その顔は清々しい。


「ボクはもう……満足だ」

「宮野ぉおおおお」


 穂村荘のお騒がせJKは天に召された。

 死因:七瀬さんの彼シャツスタイルが可愛すぎたから。

あけましておめでとうございます

もうすぐ1周年ですね


ってことで、現状の推しヒロインを教えてください(複数回答可)

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― 新着の感想 ―
[一言] 真面目で勉強頑張ってるかわいい七瀬さん推しです。
[一言] 古河とは正統なラブコメしてくれそうで期待感持てる。 それはそれとして宮野は親にも紹介して、信頼得てるから優位だしなし崩し的にずっと居そうで見てみたい。 七瀬さんはまあ…受験、頑張ってください…
[一言] 一周年ですね。おめでとうございます? うーん。一番常識人そうで、苦労していそうな七瀬さんに一票入れておきましょう。 おかあさんは安定しすぎていそう。
感想一覧
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