11話 いません
拍子抜けするほどのアホ発言に、ぷんすこ激怒マンの戸村くん。怒りを鎮めるのにかかった時間はコンマ三秒。あまりに早い脱力。俺じゃなきゃわからないね(それはそう)。
だらだら林道を進み、それらしき木を探す。俺たちと同じ目的の人もちらほらいるらしく、子連れの家族なんかともすれ違った。ちらっと聞こえた感じ、カブトムシはいるらしい。
先を行く宮野に黙ってついていく。俺はNPC。
森の中なので、ある程度は道に従わないと遭難してしまう。宮野は生命力強そうだけど、俺は一時間もあれば倒れる自信がある。よって道を外れてはいけない。
「いそうか?」
「樹液は見つかるのだが、肝心のギラファノコギリクワガタが見つからない」
「日本だからな」
生息地、東南アジアなのよな。
「夢のないことを言うな。可能性はゼロではないだろう?」
「名言の使い時が致命的に違う」
拾った木の枝を拾って、鼻歌を歌いながら行進するJK(?)。楽しそうなのは相変わらずだが、後ろの大学生はけっこう疲れてきた。
頼む頼む。早く見つかってくれ。
そんな願いをくじくように、宮野は振り返って言った。
「行きやすい場所はもう、取り尽くされているかもしれない」
「あー、まあそっか……」
予想はできていたが、ちゃんと言われると辛いものがある。不合格だとわかっていた単位も、あらためて不可って書かれると悲しいみたいな。
「これが実家の山であったら、自由に動けたのだが」
「実家の山」
「トム先輩の家庭にもあるだろう?」
「ないって。俺んち田舎じゃないから」
「意外だ」
「おい」
誰が田舎に住んでそうだよ。都会ってほどじゃないが、山が標準装備されているほど田舎でもない。郊外ってやつだ。
「で。肝心の昆虫王者は厳しそうか」
「残念だが」
ちゃんと見よう捕まえようと思ったら、トラップを設置したりしなきゃいけない。ってことか。世の中そんなに甘くないわな。残念ながら。
カブトムシだって真剣に生きてるんだもんな。みたいに言えば丸く収まりますか?
……ぶっちゃけ、カブトムシを見られなかったことはそんなに残念ではないのですが。俺はインドア大学生なので。
とはいえ、宮野が残念そうにしているのは、あまりいい気分じゃない。なんかうまいこと探してやれたらいいのだが。
「歩きスマホとはトム先輩らしくない悪行だな」
「逆に俺らしい善行ってなに?」
「砂漠に井戸を掘る」
「人生に余裕ができた金持ちかよ」
俺も余裕できたらやるけど、現状は募金で許してほしい。今度おつりを入れとこう。そうしよう。
「誰ともぶつからないからオッケー説ない?」
「足下が不安だから、やめておいたほうがいいと思う」
「それもそうだな。じゃ、ちょっと止まってくれ」
「うむ」
道の端によって、検索を再開。小さい頃からの記憶を頼りに、よさげな場所を探してみる。ここから近いほどいい。
便利な世の中になったもんだ。スマホ一つあれば、地図が開けて自分のいる場所がわかる。森の中でもオッケーって、ちょっと昔のカーナビより高性能だもんな。
「見つかりそうな場所あったぞ」
「ペットショップだろうか?」
「逆に聞くけど、それでいいのか?」
「よくない」
「だろ。普通に外だよ」
ペットショップでいいなら、いくらでも連れて行ってやるが……。いや、やっぱり一人で行ってくれたら嬉しいかな。ハイテンション宮野が周りの目を引くの、想像したら恥ずかしくなってきた。
「これ以上あてがないなら、そこ行くでいいか?」
「うむ。トム先輩が選んだ場所ならば、虫たちもこぞって集まるだろう」
「来ないでくれー」
その体質、呪われすぎだろ。下手に霊感あるよりキツくない?
スマホで位置を最終確認して、胸ポケットにしまう。向かう方向を懐中電灯で示す。
「んじゃ、行くぞ」
ぼちぼち、またよろしくお願いします。




