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人生に疲れた俺は、シェアハウスにラブコメを求めない  作者: 城野白
夏 3章 ちゃんと、君のことを見てるから
110/173

10話 女子高生と森の中

「さあ行くぞトム先輩。出陣だ!」

「え、今日?」


 夕食後の団らんに一段落がついたところで、宮野がおもむろに立ち上がって宣言する。

 行こうと言われてから、なんだかんだ五時間ほどしか経っていない。


「思い立ったが吉日というだろう」

「誘う場合は相手の都合を考えろよ」


「柚子くんの勉強、夜の部はないと聞いたが」

「俺の予定は俺に聞け」


 なんで毎度毎度、七瀬さんのほうに聞くんだろう。外堀? 外堀を埋めればいいと思われてる?


「確かにそれも一理あるな」

「全部だよ。なんで一つしかないと思ったんだよ」


「全理か」

「すごく強そう」


 必殺技についてそうな響きがして、厨二病センサーが反応しちゃうね。


「ボクは行く気満々だが、着いてきてくれるだろうか」

「……わかった」


 俺が行かないで一人で行かれても心配だ。言っても宮野は女子高生。夜道に解き放つわけにはいかない。一般の方々に害が及ぶ。

 渋々頷くと、宮野は力強くガッツポーズ。ずいぶん対照的なリアクションだ。


「では改めて、出陣!」

「うぇーい」


 事前の予定通り、引きずられながら出発。







 世の中には虫取り網を持ってニコニコする女子高生がいる。というのは、なんとなくわかる。趣味なんて人それぞれだし、虫取りに情熱を注ぐ人だってたくさんいる。かつては俺も、そういう時代があった。


 しかし同じ屋根の下にいるとは思わないわけで。宮野悠奈というJKのポテンシャルの高さを、またしても見せつけられる結果となった。手札がゲームしかない俺とは格が違う。ハーレムクイーンは伊達じゃない。

 まあ、そのハーレムメンバーは辞退してるわけだが。当の本人は気にするでもなく。


「虫、虫、むっしっし~」

「かつてないほど楽しそう」


 ルンルン気分で網を揺らしながら、暗い林道を進んでいく。俺の声が聞こえているかは、けっこう怪しい。

 懐中電灯は俺。他の荷物はだいたい宮野。ここまでは自転車で来て、駐車場の隅にとめてある。


「トム先輩、ヘラクレスオオカブトはいると思うか?」

「いないだろ」


「では、ヘラクレスリッキーブルーは?」

「昆虫王者でしか見たことない」


 つよさ200の最強生物。対して日本のカブトムシつよさ100。今になって思えば、なんでやねん案件ではある。


「仕方がない。無難にアルビノミヤマクワガタを探すとするか」

「難易度が一ミリも無難じゃないんだよなぁ。そもそも、このへんミヤマいんの?」


 宮野がミヤマを探す。宮野ミヤマ宮間。なるほど。なにが?


「なにを言っているのだトム先輩。普通の森にはいるだろう」

「いや、俺はあんまりイメージないけど」


「そうなのか?」

「うん」


 俺が育った街はこのへんではないけれど、よく見る昆虫はカブトムシ。運がよければコクワガタ。誰かが逃がしたオオクワガタって感じだった。


「あのさ、宮野」

「いかがした」


「お前が育ったのって、わりと田舎だったよな」

「な、なぜそれをっ!」


「俺が聞きたいよ……」

「あ、そうか。トム先輩は来たことがあったのだな」


 あわや一泊二日。あの気まずさとなんとも言えない諸々は忘れないぞ。


「確かにそれほど栄えてはいないが、果たして田舎と言うほどだろうか。人はいるぞ」

「無人島以外は全部都会みたいな考え、嫌いじゃない」


 だがハードルが低すぎだ。その理論だと戸村くんまで勤勉な学生になってしまう。筆箱持ってるから優等生、みたいな。


「いいか宮野。大学がないところは、だいたい田舎だ」

「な、なるほど! 言われてみれば、ボクの地元に大学はない」


 明らかに間違った理論に、迷いのない納得。いつもなら慌てて修正するが、これは別にいいや。


「して、なんの話をしていたのだろうか」

「ミヤマクワガタがいるかいないか」


「実在する!」

「実在はするだろうよ」


 勝手にハードル下げんな。


「問題はこの森にいるのか、だろ」


 けっこう自転車を漕いだとはいえ、田舎の森ではない。


「深い山にいるからミヤマ。ってのをネットで見たんだけど、ここはなぁ」

「むぅ……」


 露骨に落ち込む宮野クワガタ。間違えた。宮野。


「ま、いたら超ラッキー。いなくても落ち込まないでくれ的なあれだから。そんなにへこまないでほしいんだけど……」

「うむぅ……」


 かつてないほど落ち込んだ様子の宮野。こいつ、自分の生き方みたいので悩んでた時より深刻な顔してやがる。お前にとってクワガタってなんなんだよ。中学生アイドルの芹沢さんなのか?


「トム先輩。ボクは、気がついてしまった」


 重苦しい表情で、彼女は言う。


「お、おう」


 辛うじて返事をする俺。どうしよう。泣いちゃったらどうしよう。こんな森の中で女の子泣かせたら一巻の終わりじゃない? 社会復帰は可能ですか?


 しばらくの沈黙。

 息が詰まりそうな中で、ぽつりと続きをこぼす。


「ミヤマと宮野では、韻が踏めない」

「帰れ」


 キレそうでござる。

つづく

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― 新着の感想 ―
[一言]  こいつら傍から見ればカップルが深夜にいちゃついてる様にしか見えんな。  いーなー。
[一言] 脚韻だけではなく、頭韻というのもあるのだ。むしろ頭韻のほうがゆるくて、子音が合うぐらいでいいらしい。 というわけで、頭韻なら問題なく踏めるのだよ。宮野くんに教えてあげよう。
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