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人生に疲れた俺は、シェアハウスにラブコメを求めない  作者: 城野白
夏 3章 ちゃんと、君のことを見てるから
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1話 ビッグバンハンバーガー

 七月の頭。駅のところにあるバーガーショップにて。

 俺と宮野悠奈は、決戦の日を迎えていた。相手はこの店自慢のビッグバンバーガー。バーガーのくせに高さは二郎系ラーメンくらいあり、真ん中を貫く串がなければあっという間に崩壊してしまいそうだ。


 古河には「あとで感想教えて~」と流され、七瀬さんには「正気かこいつら」みたいな目を向けられ、マヤさんはゲラゲラ笑っていた。


 その、ビッグバンバーガーである。


「これが……創世のバーガー」

「なんだって?」


「ビッグバンは宇宙の誕生。すなわち創世、よってこのバーガーは創世を意味しているのだ」

「食べな」


「うむ。いただきます」


 大人しく手元のナイフを持つ宮野。ネタをへし折っても落ち込まないあたり、どんどんメンタルが強靱になっていやがる。そのうちスベることに快感を見出してそうだっていうか、既にその域に達してそう。


 バーガーをナイフで食べる。本場アメリカだったら「日本人の手には毒があるのかい?」と笑われそうな文化だが(勝手なイメージ)、ここは日本なのでオッケー。


 さて、俺も自らのビッグバンに向かい合わねばなるまい。なにこの高さ。雰囲気。格が違う。だが俺はこれでも一般成人男性。社会的に見れば若者であるため、食べようと思えば食べれる……はずだ。頑張れ俺の消化器官。


「いただきます」


 食べてる間の記憶?

 必死すぎてなんも覚えてねえ……。







「どうして……俺はこんなことを…………」

「後悔先に立たず……とは、よく言ったものだ……」


 なんとか完食はしたものの、近くのベンチで動けなくなってしまった。腹が、苦しい。朝食を軽くしておいてよかった。いつも通りだったら、間違いなくあの世へ連れて行かれてた。


「帰れる気がしないなぁ」

「うむ。全くもって歩ける気がしないな」


「どうする?」

「どうもしようがないだろう」


「確かに」


 ずーんとしたムードで座り込む男女が一組。傍から見たら完全に別れる数分前とかだろうか。すっと離れて歩く人々。

 なにが辛いって、今笑えないってことなんだよな。笑ったら窒息する。


「トム先輩」

「どうした」


「大喜利をしよう」

「殺す気か?」


「カリギュラ効果だ。やっちゃダメだとわかっていることほど、やりたくなる」

「とことん恐ろしいやつだな」


「ではモノマネをしよう」

「なんの?」


 問うと宮野は少し悩んで、くいっと眼鏡をあげる。


「ボクはトム先輩のモノマネを」

「当人に見せてどうすんだよ」


「盛り上がらないか」

「本人がいないから面白いんだって、ああいうのは」


 俺の真似とか、本当にやめてほしい。日常のどの場面を切り取られても、やるせない気持ちになってしまう。その辺でばったり寝転んで「トム先輩の休日」とか言われてもその通りだもんな。


「……とうとう万策尽きてしまったか」

「まだ二つ目だったろ」


 そんな深刻な顔をするんじゃない。


「トム先輩の名案をお聞かせ願おう」

「ハードルぶち上げるのやめて」


 なんで常に俺への信頼がマックスなんだよ。そういう類いの精神攻撃ですか? めっちゃ効いてますそれ。

 しかしこのまま座っていても、埒があかないのは事実である。はてさてどうしたものか。


 ううん。


「……一生懸命頑張って、帰って倒れる」


 鉛のような沈黙の後に、「まあ、それしかないのだろうな」という返事があった。

 正論を言うのが、先輩の役目なのかなって。


 ため息を吐きながら、重い腰を上げる。


「立てるか?」

「四足歩行なら、なんとか」


「よし。今から俺とお前は他人だ」

「頑張る、頑張るから」


「ほら。掴まっていいから」


 右腕を差し出す。肘を曲げて腕をL字にして、手すりみたいに。

 宮野は申し訳なさそうに手を伸ばすと、


「では」

「全体重をかけろとは……言ってねえ!」


 思いっきり預けてきた。ざけんな。

 温厚な戸村くんが久しぶりに大きな声を出してしまった。


「す、すまない。重かっただろうか」

「違う。違うけど、自分でもちゃんと立ち上がろうとしろ。杖に全体重を預けようとするな」


「松葉杖には預けるが」

「足折れてんのかよ」


「内臓は破裂寸前だ」

「俺もなんだよなぁ」


 なので思いやりってやつを見せてほしい。日本人だから得意だろ?


 差しだした腕はそのままに、今度こそは。そっと重さを預けて、「っしょ」と立ち上がる宮野。よくできました。気分はイクメンだ。でかいなこの幼児。


「さあ、腕を放せ」

「これはボクの腕だ」


「猟奇事件やめて」


 なんとか奪還すると、やや残念そうな顔。お前にはお前の腕があるじゃん……。

 のっそりのっそり歩いて、時間をかけて家に向かう。


「後悔はしてるけど、さ」

「?」


「反省はしてないよな」

「ああ。そうだな」


 これはこれで楽しかったです。俺たちはアホなので。

 ちなみにアホなので、古河と二人で出かけたことの報告とか、ぜんぶ聞き忘れた。

 しょうがないね。

七夕エピソード……間に合ったら…………

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― 新着の感想 ―
[良い点] 人間パラメータが上がりそうな店名
[一言] アメリカでも、紙包みでないのは、ナイフとフォークで普通に食べるとか? 菅首相に出されたものも、多分そういうやつかと。一節によるとあのランチはトランプ前大統領を象徴するもので、それに手を付けな…
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