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人生に疲れた俺は、シェアハウスにラブコメを求めない  作者: 城野白
夏 2章 投げ捨てることだって、簡単では無かったけれど
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番外編 穂村荘RPG

「やっぱり一番興奮するのは、剣と魔法の世界に飛ばされたときだなぁトム先輩」

「サンドイッ〇マンの掴みをパクるんじゃないよお前は」


 重厚な甲冑に身を包んだ我が後輩。宮野悠奈は、初っぱなからアクセルを踏み砕いてきやがる。


「やけにテンションが低いじゃないか。痛いのは嫌なのか?」

「痛いのはもちろんだけど、疲れるのも難しいのも、さらには頑張るのも嫌いなんだよ俺は。引きこもりゲーマー舐めんな」


「そうか。ならばここで待っているといい」

「しれっと置いてかないで?」


 歩くペースを早める宮野に置いて行かれないよう、重い体を前に進める。

 細かい説明は省くが、ここは剣と魔法、およびモンスターの存在する世界。その世界で俺たち五人は冒険をする。ということになった。


 マヤさんがやけに乗り気だった。ということを言えば、なぜこうなったか理解してもらえるだろうか。……ま、どうあれもう下がれないんですけどね。


 冒険をするには、パーティーを組む必要がある。俺たちは最初から五人いたので、人数は問題なし。大変だったのは、誰がどの役割につくか。

 なんといっても、女性と男性の比が4:1である。まさか俺が後衛に下がるわけにもいくまい。


 全自動で剣士になることが決定した戸村くん。いやマジで、辛いの無理なんすよ俺……。

 一人で前に出るの嫌だなぁ。怖いなぁ。と思っていたら、自らパーティーの盾に立候補した漢(女子)がいた。それが宮野である。わりかし才能があるらしく、パラディンのおっさんから気に入られてた。


 俺? 柄悪い剣士たちと地獄の日々を送ってたよ。「うりぃぃいい!」って叫んでた記憶しかねえ。Sっ気の強いお姉さんはファンタジーの中でもファンタジーなのかな。


 残る三人は後衛職。まあ、攻撃を受けにくい場所からサポートをする役割だ。


 マヤさんが黒魔術師。火とか雷を落としまくるらしい。俺ごと消し炭にされそうだぜ。

 七瀬さんが白魔道士。回復を担当してくれる。心の回復も、ほぼ彼女頼りである。

 古河は狩人。「自分で食材を集めてみたかったんだよねえ」とのことである。


 それぞれが訓練を受け、今日、再集合の日になった。というわけだ。


「レディを待たせるなんていい度胸じゃない」

「はっ、すまない! ボクとしたことが」

「お前も区分上はレディだろ」


 ナチュラルに紳士的な振る舞いをしそうになる宮野。俺がツッコむまでワンセット。どこに来ても変わらんね。


「それで、真広はどんなヒノキの棒を使うの?」

「俺の武器が金属製じゃダメですか?」


「違うわよ。縛りプレイ」

「命賭けてやることじゃないんだよなぁ」


 軽くて扱いやすく、鈍器としてはわりと優秀かもしれないが。耐久性という面では不安が残る。壊れたらどうすんだよって話。


「そういうマヤさんは、どんな即死魔法を覚えたんですか?」

「真広特攻」


「需要が狭すぎる。あと怖い」

「だ、大丈夫です。私が蘇生できますっ!」


「無限ループ?」


 命の輪廻が完成しちゃったよ。


「古河は?」

「毒キノコは避けられるよ!」


「せめて動物を狩ってくれ」


 戦闘があるんだよ戦闘が。くっ、のほほんとした顔してやがる……。


「っていうか七瀬さん、蘇生できるのすごくない?」


 ほんの少しの期間で極めすぎでは? 俺とかまだ、一般成人男性くらいの力しかないんですけど。


「はい。でも、うっかり生かしすぎちゃうことがあって……」

「待って怖い。聞きたくない匂いがぷんぷんする」


 生かしすぎちゃうってなに? オーバーキルの対義語ですか? にしてもわからんが。


「落ち着きなさい真広。こっちは殺しすぎれるわ」

「仲間としては大変好ましいんですが、なんですかね。後ろは歩かないでもらえます?」


「背中はトム先輩に任せろ。ということだな」

「もうそれでいいよ」


 ということで、探索の列は俺が一番後ろになった。集団登校の副班長ポジションだ。班長は宮野。


 当然だが、街を出たら二歩でモンスターとエンカウントする。みたいなことはない。モンスターを倒したらお金がドロップすることもないし、売れるような戦利品なんてほぼない。

 依頼を受けて、それをこなしてお金を貰うのだ。依頼は街が出すもの地主が出すもの、様々あって、結果として周辺のモンスターが減らされている。ということらしい。


 ので、道中はほぼピクニック気分である。


「こっちの食べ物は、料理が難しいんだよねえ」

「古河をもってしてもか」


「うん。野菜も熱で固くなっちゃうみたいで。タンパク質が多いせいなんだと思うけど」

「ぜんぶ大豆みたいな?」


「そう。そんな感じらしいよ。だから弱火でコトコト煮ないとダメなんだけど。火も一定にするのが難しいし。キッチンが恋しいよぉ」

「大変そうだな」


「戸村くんは、なに食べてたの?」


「焼いた肉」

「焼いた肉」


 沈黙が流れて、うーむと唸る古河。


「君はあれだねえ。あんまり食べ物に執着ないもんね」

「正直な。食べられればいいって節はあるけど」


「けど?」

「古河の飯は食いたいな」


「私も」


 だな。と返して軽く笑う。彼女の料理を一番楽しみにしているのは、間違いなく彼女自身なのだ。それこそが古河水希の原動力である。


 和やかなムードで歩くが、それも街を離れるにつれて大人しくなっていく。

 不気味なのだ。周囲に感じる気配が、明らかに人や獣のそれではなくなる。邪悪で粘着質な、危険なものへと変わる。


「先輩。今日の依頼って、なんでしたっけ」

「森に住み着いたワームの巣を破壊することだよ」


「ワームって、細長いのですよね」

「残念ながら、太長いやつらしい」


「無理かもしれないです」

「ま、弱いらしいから後ろで見ててよ。宮野がなんとかしてくれる」


「先輩は活躍しないんですね」

「想像できる? カッコよく戦う俺。ちなみに俺はできない」


 厨二病も期限切れだ。多少の後遺症はあるものの、自分に無限の可能性があるとかはない。右腕に魔物もいない。目も邪眼じゃない。伝説の剣は抜けない。


「ワームは木を主食にするらしいのでな。開けた場所があるらしい」

「木って美味しいのかな」

「早まるな古河」


「食べないよ?」


 え、食べないんですか? マジで食うかと思った。この問題、古河検定一級に出せる難易度だ。


「要するに、キモいだけで簡単なクエストってことね。余裕よ余裕」

「マヤさんそれ、よくないフラグ立つからやめましょう?」


「フラグなんてあるはずないじゃない。いつの時代に生きてんのよあんた。これからはへし折ってなんぼの時代なの。メタっていきましょ」


 まさに恐れ知らず。マヤさんの心臓、毛が生えてるとかそういう次元じゃない。勝手に出歩いててもおかしくないレベルだ。は?


 そんな彼女は、もう一人の勇者たる宮野と並んで先頭を行く。

 そしてとうとう、開けた場所に出た。


「「「「「…………」」」」」


 五人揃って押し黙る。

 開けた場所には、確かにワームの巣があったらしい。過去形。もうない。


 今、そこにいるのは――


「ドラゴン?」


 ギロッと、巨大な眼球が俺たちを見据える。巨大なトカゲのような、翼のある生物。一口で並の人間なら、体半分はもっていかれそうだ。


「これ、逃げられるやつか?」

「ボクは装備が重いから、絶対に無理だろうな」

「やるしかなさそうね」


「フラグのせいですよこれ」

「…………」


 珍しく返事がない。マヤさんも気にしているらしかった。


「ま、やりますか。経験値はうまそうだ」

「おう」


 前衛二人で前に出る。ガシャンと音を立てるのは、宮野の装備。俺のはほぼ革の防具なので、軽くて静かだ。ただし、まともに食らえば……はい。

 幸いなことに、ドラゴンは小さめ。このサイズなら戦えると、訓練してくれたおっさんにも言われている。さんきゅーパッパ。


 陣形を組んで、睨み合う。


「……あれ、古河は?」


 ふと確認すると、姿が消えている。

 次の瞬間、ドラゴンが苦悶の声を上げる。直前に目に映ったものから、矢による攻撃だと気がついて、それが誰のものかまで理解。


 戦慄したように、マヤさんが口にする。


「聞いたことがあるわ……ドラゴンの肉は、美味しいって」

「どういうバフですかそれは」


 WoW! WoW! って感じのやつかな。


「ま、先制したのはでかいか」


 無駄口を叩きながら、前に走る。訓練の賜だ。怖くても足が動く。いや、めっちゃ怖いんすよ。だからいろいろ考えて、紛らわせてるだけで。

 で、俺の仕事はけっこう大事。まずは古河へのヘイトを逸らさないといけない。


 ポケットから小さな塊を取り出し、前へ放り投げる。同時に空いた手で、軽い炎の魔法。


「せっかくドラゴンとやるなら、考えときゃよかったな――カッコいい決め台詞!」


 塊へと着火、瞬間、激しい音と共に弾ける。

 こっそり材料を買い集め、作っておいた音爆弾。苛立ったドラゴンが尻尾を振り回す。


「やるなトム先輩!」


 颯爽と現れ、受け止めるのは宮野。頼もしさが尋常じゃない。


「そっちこそ、完璧すぎて怖いよ」

「センスだけは、昔っから恵まれているのだ」


 横目でしかわからないけど、こう、体の使い方というか。衝撃のいなし方が様になっている。サーファーが波に乗るくらい、簡単なことに見える。


「足一本もらうわよ」


 後ろから声がして、ドラゴンの動きが鈍った。右足を軸にして、がくんと全身が傾く。


「重力操作が得意なのよ。さっさと片付けなさい」

「俺以外強くないですか?」


 このままじゃ追放される日も近い。ガチの無能だもんな。


 俺ももうちょい頑張らないとだ。

 ナイフを取り出して、投げつける。ダーツに似ていると言えばいいのだろうか。ちなみに俺、ダーツやったことないです。


 皮膚の柔らかい部分は、古河が攻撃した場所から推測できる。三本投げて、一本刺さった。


「トム先輩、あれは?」

「神経毒。麻痺って違和感でりゃ御の字だ」


「剣はいつ使うのだ?」

「気が向いたらだよ」


 俺は自分の剣術を信用していないのでね。必要とあらば壁にはなるが、それ以外で頑張ろうとは思わない。いや、成長しようとは思ってるんだけども。

 これじゃ剣士ってより盗賊だ。戦い方が汚いったら。


 下位のドラゴンは火を噴かない。マヤさんと宮野のおかげで、相手の動きは鈍い。俺が意識を攪乱して、外からちくちく古河が体力を削る。


 陣形は完璧に機能していた。

 だが、それにしても。

 どこも痛くないんだよな。


 避けてはいるが、掠りはするし。倒れるようなことも一度や二度ではない。

 なのに、どこも怪我をしてる感覚がない。

 もしかして、これ……。


「七瀬さんのおかげ?」

「はい。回復魔法は最初にかけておきました。しばらくは怪我をしても、すぐに治ります」


「生きすぎるって、持続回復のことか」


 まったくもって末恐ろしい子だよな。今度俺に教えてくれないだろうか。こっちじゃ俺のがよっぽど生徒側だ。


「なら、安心して剣士やれそうだ」


 やっと抜いた剣を片手に、前へと突っ込んでいく。おっさん達から学んだ蛮族剣術。品性はママのお腹に置いてきたんだよなぁ!?

 泣く子も黙るオラオラ剣術で、斬ると言うよりは叩く叩く。マヤさんに言われたとおり、ヒノキの棒でも変わらんかもしれない。


 だが悲しいかな。蛮族剣術は雑魚相手にしか効果がない。ドラゴン相手に、致命傷は与えられないのだ。古河もその点においては同じ。


 弱らせて逃げるしかないか。

 そう思い始めた矢先、マヤさんがふらっと前に出た。


「真広、悠奈、下がりなさい」


 背の高い杖を持って、ツカツカとドラゴンへ近づいていく。疲弊しきった敵は、辛うじて最後の抵抗をしようとする。


 が、


「これが私の、即死魔法よ」


 振り上げた杖を、真下へ降ろす。

 グシャリと卵を落としたような音が響いて、あたりが静寂に包まれた。


 くるりと振り返るマヤさん。落ち着いた表情。


「重力操作の応用よ。杖の先端を重くして、叩きつける技【メガトンストライク】」


 即死魔法(物理)ってマジ?







「――という夢を見たんですよ」


 マヤさんとの呑みで、酒のつまみにした話だ。脳にアルコールが回っているせいか、いつもより長くなってしまった。

 あるいはマヤさんが、思ったより真剣に聞いてくれたからか。


「……で、いつ真広は裏切るのよ」

「なにが悲しくって自分を悪役にしなきゃいけないんですか?」


「見たいわぁ悠奈と対峙する真広。泣きながら真広を斬る悠奈と、後ろでほくそ笑む私」

「宮野気をつけて。黒幕は後ろにいる」


「あとは、水希の覚醒とか」

「十分強かったでしょ」


「まだ腕が二本しかないじゃない」

「覚醒したら生えてくるんだ。スティ〇チかな?」


「天〇飯もよね」

「どちらにせよ化物なんだよなぁ」


 古河のそんな姿見たくないよ俺。


「アンデッドになって再び現れる真広」

「使い回されると来た。蘇生されて改心フラグですかね」


「今度こそ私の手で葬るわ」

「なんか重大な秘密を握ってたんですかね、俺」


「実家で『結婚はまだか』と言われるストレスの矛先よ」

「理不尽すぎる」


「覚醒する悠奈」

「なんで?」


「闇堕ちする柚子」

「やめて?」


「そして世界は、光の勢力と闇の勢力に二分されるのよ」

「マヤさんの鬱憤で俺がやられてしまったばかりに……」


「水希は街で定食屋を始めるわ」

「ハッピーエンドの範囲が狭い」


「続きはこんな感じでどうかしら」

「ダメですね」


「注文が多いわよ」

「欠陥が多いからですって」


 350ミリリットル缶を傾けて、残ったぶんを流し込む。


「ま、また機会があったら」

もし200話いったら、またなにかやりたいです


次回から夏3章

らぶこめの「ら」

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― 新着の感想 ―
[一言]  追いついたー。  100話おめでとうございます。  穂村荘の面子は真広がいてこそじりじりと前?に進んでいるように感じます。  次章からどう物語が動くのか楽しみにしてます!
[良い点] 100話おめでとうございます!!!
[一言] うーん、夢オチかあ。すこし残念だあ。 まあ職業とか、キャラに合わせると決まっちゃうものねえ。女性陣剣士じゃないから、チェーンメイルも着てもらえなかったし/w 見た夢をストーリー立てて話すっ…
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