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08話 ドラゴン・クリスタル・ウェポンズ

 ここ最近数百万年ほどの間、俺はアンモナイト・コレクションにハマっていた。遠い記憶の彼方になった人間時代に化石でしか見た事が無かったアンモナイトが泳いでいる姿を見れるというのは感動もひとしおで、マーメイドとドワーフ合作で滅竜山にアンモナイト専門水族館を作ってもらうぐらいには熱中した。


 アンモナイト水族館の何が楽しいかといえば、一口にアンモナイトといってもめちゃくちゃ種類がある事だ。深海のアンモナイトと浅瀬のアンモナイトでは大きさが違う。海域によって殻の色が違うし、触手の数も違う。殻の右巻き左巻きも違い、三つの殻がくっついた三つ子アンモナイトなんてヤツもいる。

 もちろんアンモナイトと聞けば誰もが想像するコテコテフォルム手のひらサイズのアンモナイトが群れを作って漂うのを見ているのも楽しい。アンモナイトを見ればどの海域のどの年代のものか分かるぐらい俺はアンモナイトに詳しくなった。


 そして道連れにサヘラもアンモナイト博士になった。

 まあね。俺、アンモナイトの餌やりとか水槽掃除しろって言われても手も足も出ないから。サヘラに任せるしかない。

 一時期は滅竜山をアンモナイトの水槽で取り囲むという頭の悪い計画も進行していて、サヘラが脳死OKして全く俺を窘めずに工事を進めるからめちゃくちゃな事になっていた。結局は水槽の強度設計ミスで全部割れて水が全部滅竜山地下ドワーフ街に流れ込んで危うく大量溺死事件を引き起こしかけ、それ以来水槽の数を20個に厳選して絞って細々とやっている。

 その一件以来、ドワーフの間で大洪水はアンモナイト巨大水槽自壊事件を指すようになってしまった。こういう馬鹿話が歳月と共に神話になるの何百万回も見てきたんだよな。恥ずかしい。


 とにかくそういう訳で、厳選した少数精鋭のアンモナイトを飼う以上はレアンモナイトにしたい。アンモナイトは海水かよくても汽水にしか生息していないため、俺は淡水アンモナイトに懸賞をかけていた。

 その流れで見つかったのがドラゴンクリスタルだ。


 陸地は既に森林に覆われ、エルフは森林があるところならどこにでもいるため、五種族随一の人口を誇っている。懸賞の話を聞いてアンモナイト探しに勤しむエルフも多い。

 そのエルフの一人が滝壺に潜って川床にアンモナイトが隠れていたりはしないかと石をひっくり返していたところ、大きな赤い水晶のようなものを見つけた。


 ドワーフは随分昔に色付きガラスの生産に成功しているし、滅竜山直営公共博物館にも展示されているから、滅竜山旅行をした事があるなら一度は見ている。

 が、彼は発見した赤い水晶のようなものをガラスではないと見抜いた。ましてや大粒のルビーでもガーネットでもない。エルフの審美眼は確かだ。


 赤い水晶はエルフ族長アルヴィンの元に送られ、アルヴィンは水晶から創造主に似た力を感知。そしてアルヴィンが俺のところに配達してきて存在が発覚した。


 一目見てすぐに分かった。

 赤い水晶はドラゴンの成れの果て――――言うなればドラゴンクリスタルだった。


 かつて世界を覆い尽くしたドラゴンの死骸の山が長い年月をかけて風化。地下で岩盤の圧力によって鉱脈になり、地殻変動によって隆起した大山脈の山肌に現れ、水流に削られ川床に流れてきたのだ。

 調査隊を送ると、案の定最初のドラゴンクリスタルが発見された川の上流にドラゴンクリスタルの大鉱脈が見つかった。


 ドラゴンクリスタルは美しく、懐かしく、力強く、どこか物悲しい宝石だった。日の光の下ではただの赤い宝石だが、暗がりに置くと宝石の中にぼんやりと炎の幻影が揺らめいているのが見える。

 ドラゴンは原始地球最初の生命であり、灼熱の星の熱を吸い上げて覇を唱えた炎の申し子だ。その核の成れの果てであるドラゴンクリスタルもまた莫大な力を宿している。握って祈れば俺の劣化コピーのような技さえ使えた。つまり、疑似的な創造だ。

 本家本元の俺の創造と違い時間経過で消えてしまう幻ではあるが、消えるまでの間はちゃんと触れるし本物の物体であるかのように振舞う。


 要するにドラゴンクリスタルは魔法石で、握って念じれば魔法が使えるのだ。

 すごい!!!


 俺は自分のクソデカ高純度透明結晶を持っているからドラゴンクリスタルなんて劣化品以外の何物でもないのだが、俺にしかできなかった創造を疑似的な劣化コピーとはいえ誰でもできるようになったのは正に大革命だった。


 まず、ドワーフを除く四種族が真っ先にぼくのかんがえたさいきょうのぶきを創り始めた。

 サヘラが持っているオーバースペックハンマー、決して溶けず壊れず奪われない「ミョルニル」は有名で、今まではサヘラにだけ許された特別な武器だとされていたが、ドラゴンクリスタルがあるなら話は違ってくる。ミョルニルとまではいかずとも、各種族の族長が持つに相応しい特別な武器は作れる。


 マーメイドの族長・ローレライの武器は三又の鉾『トライデント』になった。

 ドラゴンクリスタルと黄金をドワーフの技術で溶かし混ぜた特殊合金を深海の水圧で1000年間じっくり押し固め続けて完成させた一品だ。城サイズだったトライデントは水圧で圧縮されてローレライの身長と同じぐらいのサイズになっている。

 トライデントを振れば海が割れ、突けば渦潮を呼び、掲げれば津波を起こす。海の種族を取り仕切るローレライに相応しい神の如きパワーを持った武器であると言えよう。


 なお、ローレライが自慢げに見せびらかしにきたトライデントを見てサヘラが興味本位にミョルニルで小突いたため、三又の槍の穂先のうち一本はちょっと欠けている。珍しくローレライがブチ切れてサヘラはたじたじだった。


 ウェアウルフの族長・ライカンの武器は鉤爪『ムーンハウル』になった。

 月の核から掘り出した太古の金属とドラゴンクリスタルをライカンが食べ、胃で溶かして混ぜ体に取り込み、右手に集中させ凝固したものを斬り落として完成させたちょっとグロさを感じる一品だ。

 ムーンハウルは月の族長が地球の族長代理に贈り、以来、ウェアウルフの族長代理は文字通りの「族長の右腕」となった。

 ムーンハウルで切り裂いたモノは決して直せず治らない狼の呪いにかかる他、左腕の爪にぶつけてかき鳴らせば吹雪を呼ぶ事もできる。


 なお、族長代理が鼻高々に見せびらかしに来たムーンハウルを見てサヘラが興味本位にミョルニルで小突こうとしたため、ローレライが慌てて止めて叱っていた。


 ハーピーの族長・ハルは武器ではなく楽器を作った。風のハープ『アネモイ』だ。

 地上に初めて上陸した植物から引き出した繊維を紡いで弦を作り、それを大きな一塊のドラゴンクリスタルから削り出した型に嵌め込んだだけのシンプルな造りをしている。しっかりと重量はあるはずなのに持ってみると羽よりも軽く感じる不思議なハープだ。

 アネモイをつま弾けば風が凪ぎ、奏でれば風が吹き、かき鳴らせば竜巻が起きる。

 空を舞いながらアネモイを奏でるハルは天使のようだ。


 なお、ハルは賢いので興味本位にちょっかいを出される事を警戒してサヘラの不在時にアネモイを見せびらかしに来た。


 エルフの族長・アルヴィンの武器は赤い木の杖『アロン』だ。

 細かく砕いたドラゴンクリスタルをすき込んだ肥沃な土壌で1000年かけて育った大樹の芯材を削り出し、先端には磨き上げた珍しい透明に近い薄紅色のドラゴンクリスタルの球を取り付けてある。

 アロンの石突で大地を叩けば不毛の砂漠もたちまち緑あふれる草原に変わり、掲げて命ずれば草木が従順に動き出す。


 かくして五種族の象徴が決まった。

 ドワーフは鎚。

 マーメイドは鉾。

 ウェアウルフは鉤爪。

 ハーピーはハープ。

 エルフは杖。


 族長の武器が出来上がると、自然に一族全体で同じデザインのものを持つようになった。もちろん族長の物ほど手のかかった一品はもたないが、デザインは同じだ。

 鎚を持ち歩くエルフや鉾をぶん回すハーピーもいるものの基本は変わらない。

 聞いたところによると、どうやら推しと同じ物を持って喜んだりお揃いの服を着て楽しくなっちゃうような感覚らしい。なんとなく分かる。滅竜山地下ドワーフ街のお土産屋の一番人気は『1/100000スケール滅竜山くんフィギュア』だもんな。俺の成長や山肌の変化に合わせて十年に一度ぐらいのペースでバージョンアップされるので、新バージョンを求めるリピーターの買い足しも多い。


 意外にもドラゴンクリスタルを使った特別な武器が普及しても、ドラゴンクリスタルそのものの疑似物質創造魔法能力の活用に興味を持つ者は少なかった。

 だって消えるんでしょ? 偽物でしょ? という訳だ。

 便利で面白いと思うんだけどなあ。我が子達ながらよく分からない。


 ドラゴンクリスタルは莫大な量が埋蔵されていて、ドワーフを中心にした埋蔵量調査が行われた。

 その過程で地中深くで起きている事が判明する。大陸の衝突によって沈み込んだ岩盤が溶岩溜まりに落ち込み、反動で破滅的な大噴火が起きようとしていたのだ。

 それは再び地球環境が激変する前兆だった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 作った子達のやりとりが見ていて和む それに比べて前話の最後でドラゴンクリスタルの兵器転用による種族間戦争かなと予想した人類・・・ [一言] 普通は1000年かけて作った武器って聞くと凄そ…
[一言] え、めっちゃ面白い……
[一言] シベリアトラップによる地球環境の激変期がきますか。 ドラゴンクリスタル、一か所に集めすぎると放射性物質みたいに臨界反応とか起こしそうだな。 元々、滅竜山のコピーですから、必要な質量集まったら…
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