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11話 ホモ・サピエンスと五種族① ドワーフの物語

 ドワーフはヒトという存在にいつでも興味津々だった。

 ドワーフは現存する生物の中で最も旧い。45億年もの間姿形が変わらず、族長のサヘラなどは45億年間ずっと生き続けている。

 ところが近頃は造物主である滅竜山が語るドワーフよりなお旧い「‘前’の世界」の物語に登場したヒトなる生き物が今大地を闊歩している。世界最古の物語に登場するキャラクターが最も新しい生き物として歩いているのだから興味を惹かれない訳が無い。


 高熱環境を好み専ら火山や地下のマグマ溜まり付近に石の街を作って暮らすドワーフだったが、稀に地上にも街を作る事があった。ドラゴンクリスタルを使えば石造りの建物を丸ごと暮らしやすい焼け焦げた空気で包む事など造作も無かった。

 そういった地上の街は決まって人間の住処の近くに作られた。わざわざ地上に人工高熱を発生させてまで住む理由といえば人間との交流以外にない。


 ドワーフは基本的に人間を舐めていて、自分達によく似た面白い野生動物ぐらいに思っている。

 当然と言えば当然だった。

 人間は呼吸しないと死ぬ。水を飲まないと死ぬ、体に火がつくと何故か死ぬ。風邪とかいうよく分からない原因で死ぬし、体の中を流れる赤い水がたくさん零れても死ぬ。ドワーフより不器用で足が遅く力も弱い。寿命も50年生きれば長老だ。ドワーフの十分の一である。

 これで自分達と同列と思って接しろという方が無茶だ。

 滅竜山は人間の住居の近くに街を作って住むドワーフ達の事を「猫が好き過ぎて猫島に住んでるやつら」と評した。


 ドワーフは人間に興味津々だが、深い関係を築く事は滅多になかった。

 言葉が分からないし(声帯が違うのでお互いの言葉を覚えようとしても難しい)、ケガをして動けず泣いている人間や捨て人間を拾ってきても大抵は世話のやり方を間違えて殺してしまう。


 人間側は自分達と似ているが全く違う種族を恐れた。一見して人間の子供か小さなおじさんに見えるドワーフは一人で自分達の一族を滅ぼせる。マンモスやサーベルタイガーより恐ろしい存在だった。

 騎竜も恐ろしい。よく躾けられた騎竜は忍び寄る人間を敏感に察知し、触ろうとでもすれば鋭い牙で食い千切ろうとしてくる。

 ドワーフは人間に親切だったが、その親切さは巨獣が小動物をうっかり踏みつぶしてしまいかねないような危なっかしさをはらんでいた。


 だから両種族の接触は「ちょっかいをかける」程度の枠に収まった。

 偶然出会った野生動物にエサをやったり、撫でてみたりするように、ドワーフも人間にちょっかいをかける。

 そのちょっかいとして人間はドワーフから気まぐれに火を与えられ、芸を仕込むように扱い方を仕込まれ、やがて使いこなすようになった。


 火は人間に光と熱を与え、それは文明へと編み上げられた。

 火の最も大きな貢献は食料を増やした事だった。毒のある食べ物を無毒化し、硬く消化の悪い生肉を変性させ柔らかい焼肉に変えた。より上手く調理するために石のかまどやナイフ、煮炊きのための土器が作られた。

 道具が、つまり財産が増えた。

 鋭いナイフや軽く丈夫な土器、立派な毛皮の服は大きな価値を持った。


 そして自ら様々な道具を作り始めた人間はドワーフの高度な財宝の価値を理解し目をつけるようになっていった。

 これが諍いの始まりだった。


 人間にとってドワーフの街に忍び込んで財宝を盗み出すというのは鳥の巣から卵をとってきたりマンモスの墓場から骨をとってくるのと同じだった。

 ドワーフの街には食料こそ無かったが、美しく丈夫で使いやすい便利な道具がたくさんあった。煌びやかな金属や宝石は人間を魅了した。ドワーフは山の民であり、地中から掘り出し精錬し磨き上げた財宝をそれこそ山のように持っていた。

 人間はそれを盗もうとした。


 ドワーフも全く無防備ではなく、ドワーフの留守を狙っても大抵は宝物を守るドラゴン――――ドラゴサウルスがいた。人間は石の槍や弓を使いこれを打ち倒そうとしたが、大抵は無理だった。ドラゴサウルスは人間に慣れない。

 恐竜の生き残りであるドラゴサウルスは強靭な骨格と鱗、筋肉を持ち、ドワーフに1億年以上飼いならされた結果火にも強くなっていた。原始的な人間の武器の尽くを跳ね返し、盗人を食い殺した。


 しかし偶然泥棒が成功する事もあった。

 ドワーフが出かけていてドラゴサウルスが寝ているとか。ドラゴサウルスが老齢で衰弱しているとか、偶然目を潰す事ができ悶えている隙にとか。


 そうした時のリターンは莫大で、人間は素晴らしい富を得た。

 ドワーフの財宝やドラゴン殺しは伝説的栄誉だった。

 部族の間で語り草になり、語り継がれ、壁画や記念品で長く讃えられた。


 一方でドワーフは盗み癖がついてしまった「人間ちゃん」に頭を抱えた。

 追い返しても追い返してもまたやってくる。盗まれたものを取り返しに行けばまるで部族を滅ぼす災厄の獣に襲われたような馬鹿騒ぎになる。

 他にも街はずれの空き家に勝手に住み着いてしまったり、ドラゴサウルス用の餌を横から掠め取ったり。


 やがてドワーフは追い払ったり取り返しにいったりするのが嫌になり、地上の街を放棄して地下に戻った。地球上のあちこちで同じ事が起き、氷河期の到来も影響して、数万年もするとドワーフは地上からすっかり姿を消した。

 ドワーフは壁画と財宝、そして伝承にのみ僅かに存在の痕跡を残し、人間が鉱山採掘を発達させ地下深くを掘るようになるまで長い間忘れ去られた。 

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― 新着の感想 ―
ヒトカスさんェ、、、
[一言] 人と魔の邂逅ゥ!
[一言] 人間が決死の覚悟で行う大冒険が、ドワーフ側からすれば犬猫に日用品持ってかれた位の認識なんだろうなと容易に予想がついて草。
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