6.水溜りの中に眠る物
さて、身も清めた事だしそろそろ寝るかな。
俺は水風呂から上がる。
凄く冷たい…風邪引きそうだ。
急いで白い布を使って体を拭き、宝箱に入っていた服とズボンを身に付ける。
(まじで擬態用だな…)
鞄からパンを一つ取り出して、豪快に被りつく。
このパン、相変わらず固い。
目の前に広がる綺麗な景色を前にパンと悪戦苦闘していると、何やら水の奥に光る物を見つけた。
俺はライトスティックをその光る物目掛けて投げると、見事その近くに落ちた。
どうやらあれは宝箱のようだ。
しかも今までの茶色の宝箱では無い、青色をしている!
しかしどうやってあそこまで移動しようか…
その水の中には見るからにやばい肉食魚がうじゃうじゃいる。
少し考えた後、俺は一つの方法を思いついた。
その方法は至って簡単。
さっき掘って作った水風呂を改良し、魚が入り易くする。
その中に餌となるパンを細かく砕いて入れれば、多少数は減らせるし気を晒す事が出来る。
そしてこの服装も泳ぐ方向とは全く別の場所に投げ飛ばせば、身を潜めていた草食魚が飛び出て、ついでに肉食魚の餌食になってくれる!
この二段構えで何とか宝箱まで辿り着いた俺は、その宝箱を持って急いで引き返した。
宝箱は異常に軽かったが、中を見るより先に戻らないと後に引けなくなる。
ーーー無我夢中で泳ぎ切った俺は、仕掛けた罠を見て血の気が引いた。
葉っぱをイメージした服とズボンは、結局模様でしかない為食われなかったが、代わりに匂いで釣られた草食魚が無惨にも食い散らかされ、死体が大量に浮かんでいた。
そして改造した水風呂も肉食魚で一杯になっていたのだ。
俺は服もズボンも血生臭かったので諦め、ボタン式松明を使って体を温めながら宝箱を目の前に置いた。
中身など入っていなさそうなぐらい軽かったが、開けてみると意外にも沢山入っていた。
コバルトの兜、鉛の盾、空の瓶とライトスティックが3本、パンが2個。
そして蒼い宝石が埋め込まれたネックレスと、棘が着いた靴に……鞘に入った青く輝く長剣が。
「松明は無しか、ちょっと心苦しいな」
身体を拭いた布を地面に拡げ、松明を側に置く。
そして青い宝箱を放り投げようとした時、何か音がした。
宝箱の中に手を突っ込むと、これまた青く輝く宝石が2,3粒程出てきたのだ。
この宝石を見て、俺は思い出した。
もともとはこれ等金品を集める為に地獄の門を叩いた事を。
「俺は帰れるのかな」と呟いてみる。
月の様に見えるのも、ただ落っこちた穴でしかない。
漂う緊張感の中、俺は眠りに着いた。