4.過去
中学三年の夏、俺は家族に思い切って「ダンジョンハンターになりたい」と相談した事がある。
親父は相当喜んでくれたみたいで、「大きくなったら一緒にダンジョンに潜ろうな」と言われた程だ。
…しかし、他は違った。
俺の家族は親父、母さん、兄、妹、そして俺の5人家族なのだが、妹は罵倒し始め、兄は軽蔑し、母さんは怒り狂った。
何故そうなったのかと言うと、妹は成績優秀な俺を他の連中に話し回り、褒められたり羨ましがられたりされていたようで……つまり、家族自慢が出来なくなるからとことん罵倒して進路を変えて貰おうとしたって事だ。
兄は俺がダンジョンハンターになると言う前は本当に俺の事を尊敬していたらしく、これまた周囲に自慢していたようだ。
まあ、兄と妹はその日以降話さなくなって、特に嫌がらせとかされなかったから良かったが……問題は母さんだった。
母さんは俺の話しを聞くなりビンタをかまして来て、「絶対に許さない」と言わんばかりの激しい罵倒、暴行をし始めた。
俺が「ごめんなさい…ごめんなさい…」と涙ながらに言うと、今度は親父に矛先を変えた。
その結果、親父は「ダンジョンに潜ってくる」と言ったっきり帰って来なくなってしまった。
…家族を崩壊させたのは自分だと思う度にダンジョンの事を考えるのが嫌になり、存在自体を忘れる事にした…が、中々記憶が消えず、それどころか家族の顔を見ただけでダンジョンの事を思い出してしまうようになってしまった。
それから俺は鬱になり、最高偏差値の高校を僅か三ヶ月で中退。
トイレに風呂、キッチンまで完備されている親父の部屋に引き籠り、筋トレとパソコンを使うだけの生活を送っていた。
ーーーそしてネットで仲良くなった彼奴等からダンジョンの話が出て盛り上がって…今に至る、と言う訳だ。
…さて、そろそろ目的地に着く頃だ。
俺は地面に描かれた線に意識を向けながら歩き出す。
すると、線が二つに分かれている所を見つけた。
「ここだ…!」
俺は分かれている方の線に沿って歩いた。
…しばらくすると、足元に茶色の物体が見えた。
間違いない、宝箱だ!
一番奥に行くまでに何者かの足跡なんかを見つけた時、その足跡を辿って寄り道をしていたのだが、見事に当たって宝箱が沢山見つかった。
その数四個。
しかもその内の一つは金色をしていたのだ!
「宝箱より安全、拠点の確保が先だ」という親父の言葉を鵜呑みにして後回しにしていたが、今考えると他の連中に取られる可能性もあって危険だと思う。
…取り敢えず金色の宝箱以外は中身の確認を終わらせているので、さっさとお目当ての物を取ってしまおう。
俺は宝箱を開け、必要な物を取って行く。
パンが三つ、白い布が二つ、ボタン式松明が二つ、角砂糖が三つ、そして…
「あったあった、これだ」
手を伸ばしたのは、青色の液体が入ったフラスコ瓶。
これがあれば、色々と楽になる…!
俺はそのフラスコ瓶の液体を手の腫れた部分に掛け、空になった容器の出っ張った所を剣で切り落とした。
「こんなもんで良いかな…」
金魚鉢の様になった瓶をスティックライトで照らしながら確認する。
どうやら綺麗に切れたようだ。
「ここにある瓶はこれを含めて後一つ……もう後四つは欲しいな」
俺はもう一つの瓶も持って行く事にした。
宝箱に残ったのは緑の服とズボン、空色のワンピース、そしてスティックライトが三本。
他は全部傘に入れて持って行く。
重さを気にしたが、服とズボン以外は小物ばかりなのが幸いした。
「…次に行くか」
俺は再び線に沿って歩き出した。