3.湖の先には
「……こんな事してる場合じゃないよな」
俺はゆっくりと立ち上がり、壁に立たせていた剣と傘を手に取る。
そして、ライトスティックの僅かな光を頼りに奥へと進む事にした……。
ーーーー
「……おっと、これは」
しばらく砂浜を歩き続けると、大きな坂が姿を現した。
恐らく第一層最後の砦だろう。
「ふぅ。 今日はここで一晩過ごすか」
俺は適当に安全な位置を決め、そこにライトスティックを一本、地面に差し込んだ。
「……とは言っても、こんな汗ベタベタな身体で
寝られる訳無いよな……、良し、予定ずらして今行くか!」
そうと決まれば早速移動開始だ。
差し込んだスティックはそのままにして置いて、剣と傘を持って来た道を引き返す。
地面が砂浜という事もあり、傘を引きずって行くだけで歩いた道のりが分かるという親切設計なだけで無く、入り組んだ場所も一切無いという正に「上級者の安息の場」の名がふさわしい場所だ。
だからという訳じゃ無いが、とにかく今日は敵にも一切出会わなかったし、さっぱりしておきたいし……つまり今がチャンスという事だ!
俺は自分を納得させると、地面に視線を移す。
「引きずった跡は、っと……あった!」
その引きずった跡は、足元付近についていた。
濃く、しっかりとしたその線は、来た道に向かって真っ直ぐに伸びている。
「足跡も残ってるみたいだけど、やっぱ道具入れてて重くなった傘の方が濃く残ってるみたいだな」
こんなキャリーバッグみたいな使い方、ダンジョンに入らなかったら絶対使わないよなぁ…親父に感謝しないと。
…親父、元気にしてるかな。
そんな事を考えながら、先へと進んでいった。
……折角だから、親父の事を思い返してみる。
俺の親父はダンジョンハンターだ。
顔は痩せ細ってて、筋肉は全然付いて無くて、足もひょろひょろで。 おまけに眼鏡まで付けてるもんだから、他のダンジョンハンターから良くたかられていたらしい。
実際怪我する事も多くて、「何でダンジョンなんかに入るんだろう」とずっと思っていた。
辞めて欲しいとも思っていたけど、親父が話してくれた武勇伝が楽しくて、面白くて、…羨ましくて。
いつからか俺も親父と同じ道を辿りたいと思うようになっていった。
…けど。
俺はある日を境にダンジョンの事を一切考え無くなってしまっていた。