2.巨大湖
さて、粗方準備を済ませたので、奥へと進む事にする。
ライトスティックのせいで少し歩き辛いが、このぐらいなら全然平気だ。
足元の明かりを頼りに歩き続けていると、何やら水溜りの様な場所に着いた。
傘を地面に置き、靴に突き刺したライトスティックを一本抜いて前方へ突き出した。
どうやら辺り一面水で覆われているようだ。
「これは…どうしたら良いんだ?」
抜け道が無いか探してみるが、そのような物は見当たらない。
仕方ない……壁をつたって行くか。
そう思って壁の直ぐ下を見る…しかし、歩けるだけの隙間が無い。それどころか地面が無い。辺り一面全部水だ。
泳いで向こう側まで行くか…?
いや、そんな事をすれば松明は使えなくなり、パンもびしょ濡れ。身体も持たない。
そもそも泳げない。
「…困ったな、この道は諦めるか?」
諦めて別の場所を探そうとしたその時、ふと一つの案が頭をよぎった。
…壁をつたっていく。
かなりの苦行になるだろうが、水に浸かるよりかはマシだろう。……落ちたら全て水の泡になるが。
しばらく考えた後、俺は一つの答えを出した。
「……やるか」
正直、このほぼ垂直な壁をつたって向こう側まで行くというのはかなり気が引ける……というかしたくない。
しかし、生きるか死ぬかの瀬戸際にいる俺には手段を選ぶ事など出来ない。
こうしてもたもたしている間にも、食料や日常必需品の入った宝箱は他の連中にどんどん取られていってるんだ…!
俺はやり遂げると決意し、壁の窪みに手をかけた。
「…っ!」
少し痺れが残っているようだが、これくらいなら耐えられるだろう。
いけると判断した俺は一旦壁の窪みから手を離し、準備に取り掛かる。
まず初めに傘を広げて逆さまにし、その中に小袋から取り出した服とズボンと、パンと松明が入った小袋を円形に配置して水に浮かせた時にバランスが取りやすいようにした後、軽い準備運動をしてから、再び壁に手をつけた。
「……良し!」
剣を抜き、傘の取手をズボンのポケットに掛け、終いにライトスティックを一本靴から取り出して口に挟めば準備は万端だ!
「ふごごっ!」
ーーーーーーー
「はぁ、はぁ……着いたぁ!」
壁をつたっていく事数十分…バランスの取れない様な場所や窪みの無い場所には剣を突き刺したりして、何とかここまで来ることが出来た。
もう限界、とその場で仰向けになる。
地面の砂が汗でべったりと付いて気持ちが悪い。
しかしそんな事今は全く気にならない。
疲労感より達成感が上回っている。
真っ暗な天井をただただ見つめる。
俺は生きていけるのだろうか。
そう思った刹那、暗い夜空に一筋の光が差し込んだ。
「…希望の、光……? ……いや、そんな訳無いか」
その光を俺は手で遮った。
…真っ赤に腫れたその手で。