1.落ちた先には
…気がつくと俺は地中の奥深くの水面に仰向けに浮かび上がっていた。
周りは薄暗く、何も見えない。
ただ、唯一目に見えたのは、天井にぽっかりと開いた穴から見える松明の灯りだけだった。
「…とりあえず、安全な所に避難するか」
そう意気込んだのも束の間、自分の身体が全く動かない事に気づいた。
(う…動かない!?)
手足を動かすよう脳に命令するも、動く気配はまるで無い。
このままでは不味いと頭の中で必死に策を練っていると、何やら下から光る物体が浮いてくるのをその目で捉えた。
…発光クラゲだ、しかも赤色をしている。
普通の発光クラゲは青色をしており、比較的簡単な難易度のダンジョンでしか見ない種族なのだが、この赤色のクラゲはそいつらとは違い、攻撃力に特化している。
その特化した攻撃力の威力は体当たりで人間を吹き飛ばすほどと言われており、ダンジョン攻略者に「ダンジョンに入ったら水に気をつけろ」とまで言わせた程らしい。
ーーーーまぁ、これらは全て「冒険の書」と呼ばれる書籍から引用しただけで、自分の体験談などでは無いので嘘か本当かは分からないのだが。
…いや、今はそんなことはどうでも良い!早くここから抜け出さないと!
必死で解決策を探す。しかし、手足が使えないこの状況ではどんな現実的な策もたちまち不可能になってしまう。
ーーー死を知らせる紅い光。
その奥には更に青い光が4、5つ。僅かだが、確実に此方に向かって来ている。
(あぁ…助かったと思ったのに、結局は死ぬ運命なのか)
その後、俺は目を閉じて考えるのを辞めた。
ーーーーーーーーーーーー
……気が付くと、俺は暗闇の中にいた。
死んでしまったのかと思い、不意に身体を動かそうとする。
すると、意図も容易く手足が動き出した。
(若干痺れは残ってるけど、水面に浮かんでいた時とは大違いだな…)
俺は無意識に手を開いたり閉じたりして、感覚を取り戻そうとしていた。
(手も動くみたいだし取り敢えず、周りに何か光る物が無いか探ってみるか)
両手をゆっくりと動かし、感覚だけを頼りに探りを入れる。
すると、左手の中指に何かが当たった。
(何だ…これ?)
魔物である可能性も考慮し、慎重に触って形状を調べる。
…硬い、そして四角い。
上部は丸くカマボコの様な形をしている。
(…これは、もしかして!)
丸くなっている所と四角になっている部分の境目を人差し指でなぞり、突起物が無いか確認する。
すると、人差し指が何かにつっかえてしまい、なぞれ無くなってしまった。
(あった…!)
人差し指はそのままに、親指でその突起物の真ん中を押す。
……ガコンッ!
大きな音と共に、綺麗な青白い光が一斉に飛び出した。
思った通り……此奴は「宝箱」だ!
青白い光で包まれたその宝箱は茶色の極普通の物だったが、まともな道具すら持っていない俺にとっては返って好都合だ。
急いで身体を宝箱に近づけ、中身を確認しに行く。
痺れよりも好奇心の方が上回っているらしく、不思議と身体が動くようだ。
「えっと、中身は……葉っぱをイメージした様な服とズボンと黒の傘と小袋に、青く細長い剣が一つ、後は青く光ってるライトスティックとボタン式松明とパンが3つずつ、か…」
見た所、やはり茶色の宝箱には探索用の道具等がメインのようだ。
普通なら嵩張る為食糧以外の物はそのまま放置するのが上級者のやり方らしいが…今はそんな事気にしている場合では無い。
先ずは松明に付けられたボタンを押して火をつけた後、濡れている服とズボンと靴を脱ぎ、身体と一緒に温める。ついでにパンも剣にぶっ刺して焼いて食べる。
充分に温まったら、乾いた靴と宝箱の中に入っていた服とズボンを装着する。
「…完璧だ!」
松明を一本消費してしまったが、この程度なんて事は無い。
後は適当に袋に詰めるだけ……だったが、問題が発生した。
袋が小さ過ぎる!
剣と傘はそもそも入らないから手に持つとして、パンを二個入れただけでパンパンになってしまう。
色々工夫して、何とか全部入れようとしたが…
やはり、入らない。
仕方が無いので、入るだけ入れて後は置いて行く事にした。
「やっぱりパンは必要だよな…でも松明が無いと加熱出来ないし、ライトスティックも捨てがたいし…」
松明は火が出るという事もあって凄く便利な道具だ。
しかし欠点もあって、燃料が切れると使えなくなってしまう。
その点ライトスティックは、その様な心配が無い。
生活用品として使うなら松明。
照明として使うならライトスティック。
さて、どうしたものか。
取り敢えず、初めから入れる予定だった服とズボンとパンを袋に入れる。
そして考える事数分、俺が出した答えは…
「そうだ!靴の隙間にライトスティックを挿せば良いじゃないか!」
…「全部持っていく」だった。