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ホワイトスクール  作者: tommy
6/8

ホワイトスクール5

次話も遅れます

付き合っていただけると幸いです


 自分の中でどこまでは友人かを区別するのは存外難しい。自分は友達だと思っていてもそいつはそう思っていないかも知れない、そんなことを考え出すともはや泥沼だ。そこで俺が提唱したいのは、自分の中で尻を蹴飛ばしても心が傷まない人間をそう呼ぶことにしたい。

 まぁ、これは、おそらく同性にしか適用できない上にやられた側は時と場合によってはかなり苛つくものなのだが。ソースは俺。ならやるなと言うかもしれないが、傷つける覚悟を持ってこそ友人といえるのではないか。加害者の御用達理論でこの説を収束させ、俺は前の奴にその理論を実証した。


「久しぶり、砂糖。おい、おまえ学校来るのいつぶりだよ」

「……ああ、新堂くん、おはよう」


 わりかし本気で蹴ったのに何の痛みも感じていないかのように振舞われる。蹴れば吹っ飛びそうな体をしているが、こいつの身体能力には目を見張る物があるのでむべなるかな。


 それにしてもこいつはいつまで経っても小さいままだ。はっきり言って俺の身長は170少しと、高いとはお世辞にも言えないが、こいつはそんな俺の二まわりは小さい。髪型がショートボブなのは寝る時に最適だそうだから。傍から見ると、漫画でよく見る、チビのくせにやたらと頭脳スペックが高いやつだが、そんな奴らとは違いこいつの目は眠そうに、急に外に出た時のような目をしている。


「そもそも学校に行く意味が感じられないんだよね。学校にいたってずっと寝てるし、先生も注意してこないし。あと、皆も自分の世界入っちゃってて話しかけても面白くないしね」

「お前が言うな。夢の世界に入り浸ってるくせに」

「あはは、やっぱ面白いね。座布団ないから代わりに枕あげるよ」


 ちっとも笑わずによくそんなことが言えたな。そして薄々気になっていたことをこいつに聞く。


「まぁそれはどうでもいい。その後ろにランドセルみたいに背負ってるの何だよそれ」

「あはは。身長をイジるのはやめてほしいなぁ。あ、これ?これが枕。学校の机寝心地悪いし」


と、ここでネタバラシ。俺は流石にいきなり知人の尻を蹴っ飛ばしたりするほど変人ではない。奴の背中になんか緩衝材みたいなものが挟まっていることが確認できたからこういった暴挙にでられたのである。だが俺も流石に、教室に自分の等身大ほどもある枕を持ってこようとしているというのは予想だにしなかった。

「勉強道具は?」

「持ってくると思う?」

「だよな」

 そもそもこいつ賢いし。ずっと前の定期考査では学年二番だった記憶がある。


 やつが大きなあくびを連発するので、こっちまで眠くなってきた。はぁ、と俺は溜息をつく。

「眠そうだぞ」

「実際眠いんだけどね」

「寝過ぎで疲れたんじゃないか?」

「かも。最近一週間くらい寝ててさ。いつの間にか月が変わってたんだよね。ウケるね」

「ウケねーよ」


 ああ。

 こいつの異常性癖も、しんどそうではある。


「大変そうだな、睡眠性愛……ソムノフィリアも。最初はネタとしか思えなかったが」

「だね」


 睡眠性愛、ソムノフィリア。こいつ、佐藤数の、異常性癖。前にも言ったように他人の異常性癖を尋ねるのはほぼタブーなのだが、こいつは入学初日にそれについて皆の前でふれた。


 曰く、一日20時間、週では150時間以上眠らないと気が触れるとか。


 異常性癖もここに極まれり、という感じだがなんのことはない。入院中に睡眠中毒になるというのはありふれた話で、こいつはそれが先天的に起こっているだけだ。それとも、蝉の遺伝子が混ざっているか。


「ってかさ、僕ってさ、凡人と比べて人生が3分の1以下なんだって。やばくない?寿命に換算したら僕33くらいで死ぬ計算じゃん」

 一瞬考え、なんのことはない、起床時間に対する人生について述べているのだと悟る。

「まぁあれだ、自分の人生が3分の1って捉えたら負けだろ。逆に凡人の人生がお前の人生を三倍に薄めたものだって捉えればいい。良かったな、人より三倍も濃い人生送れて」

 佐藤は苦笑いする。

「そこで基準を僕に捉えるのが新堂らしいよ。やっぱこの学校来てよかったね」

「ああそうだな」


 別にこの学校に特に問題はない。問題なのは俺達なのだから。


「じゃあね。僕ちょっとよって行くところがあってさ」

 校門に入ったあたりで告げられる。 

「職員室か?」

「ううん。ちょっと、ね。海道くんのところ」

「海道?あいつ昨日あんなんしておいて謹慎処分くらってなかったのかよ」

「らしいね。で、今は校舎裏でなんかしてるみたい。ちょっと挨拶してくる」

 ちなみに海道とこいつは仲がいい。まぁ海道もこいつのことを本当にそう思っているのかは甚だ疑問だが。傍から見ていると仲が良さそうではあるのだ。

「宜しく言っておこうか?」


 馬鹿いえ。そう小突くと奴はニコッと笑った。

「今日は調子乗らないし、やっぱ屋上で寝とくよ。まだ帰宅部でしょ?帰り迎えに行くよ」

「ほんとに何しにきたんだかな」

「久しぶりに人と喋るため、かな」

 そう言い残し佐藤は走り去った。


「今の佐藤か?」

「……三角、いたなら話しかけろよ」

 入れ違いのように三角が俺の方を叩いてくる。

「同じクラスとはいえ全く喋ったことないしな。そもそもあいつ二年になってから一回も来ていないんじゃなかったか?姿も忘れていたぞ」

「だな。一年の時はもうちょい、一週間に一回は来ていたんだが」

「それでも一週間に一回なのかよ」

「どっちにしろずっと寝てるから関係ねぇよ。今日も授業サボって屋上で寝るらしいし」

「羨ましい生活だな。こちとらこの性分のせいで学校をサボろうとは思えないっつーの。……しっかし、見ている限り普通だな。……格好を除けば、だが。随分噂と違うもんだ」

 三角は目を細める。彼を見極めるかのように。


「あいつが仁科を自殺に追い込んだってガチだよな?」


「ああ。本当だ。一年のときだからお前は別のクラスだったもんな、三角」

「ああ。一年のとき、その噂を聞いたときはかなりビビったんだがな。aクラスの佐藤はやばいって」

「まぁな。普通に接している分には無害だぞ。ただまぁ、あれだ、ハンニバルレクターみたいだな」

「らしいな。海道に仁科を拘束させ、過去のトラウマを刺激しまくったそうだな。で、奴は屋上から飛び降りた、と。……よく考えれば自分が自殺に追い込んだ奴の死に場所で寝ようとするのかよ」

「佐藤はそんなの気にしないぞ。一回あいつトイレの床で寝てたりしてたからな」


 俺は少し笑って、黙る。


「まぁ、仁科もアレだったからな」

 そう。俺は仁科が嫌いだった。

「ああ、なんだっけ、動物虐待癖?」

「ビースティアルサディズムって言ってる。つーかあんなやつもこの学校の収容対象なんだな」

「だな。まぁガチのネクロフィリアがいる時点でもうお察しって感じだ」

 そう言いながら三角は腕を伸ばした。

「あいつらは海外のグロサイト見てウキウキしてるだけだから構わないけどな」

 同感だ、と俺は言う。全く共感できないとはいえ、それくらいならまぁ。


「まぁ佐藤もあれなら俺でも話しかけれそうだ」

「そりゃ良かった。お前の性癖に興味はないが、いきなりカバンから拷問死した猫の死体を取り出して奴に投げつけるなよ。キレたら海道引き連れてお前に襲いかかってくるからな」

「仁科そんなことしたのかよ、そりゃ殺されても文句いえんわ」


 本当に。

そのおかげでクラスは入学式初日からメチャクチャになってしまった。

 

「あ、俺職員室寄ってくわ。お前も来るか?」

 三角が気軽に言う。

「行くかよ」

「だよな。じゃ」


 今度こそ俺は一人になり、足を教室に進める。脳裏にちらつくのは、一年のときの記憶。海道、佐藤、仁科。猫の死体、叫び声。誰かの。


 悪いクラスではなかった。別に。まぁ、今のクラスで三角や水無月に出会えた事はそれも素晴らしいことではあるのだが。


 これ以上は求めていけないと、そう分かっているものの。


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