ホワイトスクール 3
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この学校では、自分がどのような嗜好を持っているかどうか聞くのは禁忌とされている。だが見ただけで分かるやつもいる。コプロラリアなどがその代表だ。まぁそんなやつそうそういないのだが。
いつものように昼休みが終わり、退屈な2科目を終える。この学校は、授業自体は静かだ。なぜなら真面目に聞いている人が少ないから。ほとんどの人が寝ているかスマホをイジっているかしている。先生たちは注意してこない。何故なら逆上されたら困るから。刺激を与えないように、先生は注意しないよう上層部からお達しが来ているようだ。
ならばなぜこのような高校が存在しているのだろうか。更生するわけでもないのに。ぬるま湯のような環境に俺らは浸かっている。俺らはそれに疑いを持たない。
そんなどうでもいい事を考えていたらいつの間にか授業は終わっていた。俺は勉強はできる。名前が神童なだけある。わぁい。中学校のとき「みんな、俺の偏差値の礎になってくれてありがとう」とか言って嫌われただけある。
その頃から俺は異常だったんだろうな、そんなことを思い顔を顰めた。過去の思い出が断片的にフラッシュバックしてくる。
虫の死骸。腐りかけた牛乳の匂い。鉄臭いバケツ。赤い血。学校の古いタイルに染み込んでいって、
「帰るか…」
俺は追憶をやめる。過去にはろくなことが無かった。
本当は三角と帰ってもよかったのだが、あいつは部活だ。どうせ準レギュラーだし、辞めてもいいんじゃないかと俺が言うと、あいつは少し拗ねる。……まぁ、何でも、打ち込めるものがあるのはいいことだ。この学校での唯一の希望となるから。
まぁ帰りが一人なのはいつものこと。他に帰宅部の知り合いが一人なのでそれは必然か。厳密に言うとクラスには帰宅部の人はいるのだが、俺よりカーストが低いのでしゃべるのは遠慮している。この学校なんてそんなもんだ。どこの学校でもそうだろう。
徹底したカースト制。
だから水無月のようなにんげんはめずらしい。特に女子なのに、同性の同カーストと戯れないというのは。正直言って、俺の顔は悪くはないがそこまでいいといえはしない。三角もそうだ。しかし水無月は、二年女子の中でも人気ランキングを作ればまず5本の指に入るほどの人材。自分のカーストを過信していないからこそ、俺は、そのことについて単に光栄とは思えないのだ。
そんなことを考えていると、誰かに叩かれた。思わずびくりとして、奇妙な動きをしてしまう。もしかして海道だろうか。あいつは誰彼構わず目に付いた人間にちょっかいをかけるのだ。流石に今日結構荒ぶったので、しばらくは学校謹慎のはずだが……。
「新堂、帰る?」
「……水無月、部活は?」
「ん、今日はなんかないみたい。で、部活の子たちが映画見に行くみたいなんだけど、興味ないから帰ってきちゃった」
てへぺろ、と頭を叩く水無月。正直言ってブスがやるとただの自傷行為にしか見えないが、彼女がやるとやけに様になった。少し見惚れていたのを誤魔化すように俺が白い目を向けると、水無月が顔をそらす。
「帰ろっか。何ならどっか寄ってもいいけど」
「寄りたいところがあるのか?」
「いや別に?言ってみただけ」
彼女は上履きで靴を蹴る。俺は顔を引き締めた。そうでもしなければ顔がにやけてしまいそうだからだ。
「そういえば新堂っていっつも一人で帰ってるの?」
「三角がいないからな。別に一人がいいとかそういうわけじゃない」
「三角以外にも友達作ればいいじゃん」
水無月は呆れたように言うが、そううまく行くものかよ。流された話を少しくやみつつ、俺は適当に言葉を紡ぐ。
「ほらあれだ、仲間は作ろうと思って作るものじゃなくて自然にできるものだろ?」
「……くっさ」
うん、そうですね。俺も自分で言ってて思った。自然発生的にできるってなんだよ、黴かよ。
「そもそもそれ、作りたいという意志があって、なおかつ友達が多そうな人にしか当てはまらないし」
「そうだな。そしてそういうできた人は自分から話しかけに行くしな。…じゃあその言葉の存在意味ってなくないか?」
「存在意味がない言葉なんてたくさんあるじゃない。存在価値がないような人もたくさんいるんだから」
「それアナロジーでとっちゃだめだろ……」
そして辛辣すぎる。確かに的をいてるんだが。俺が思わず苦い顔をすると、水無月はくすっと微笑む。
「大丈夫、新堂は私にとって意味のある人間だよ」
「何その上から目線の言葉…」
「さ~ね?」
そうした、くだらない話を駅に入るまで続ける。駅に入ったとたん、俺たちは、少し黙る。
「うっわ、あれホワイトスクールの制服だよね」
「ホントだ。マジでいるんだね。やっば」
前には別の高校の生徒がいた。案の定俺らの話をしている。それは俺らに聞かせているようにも取れた。俺らの制服は特徴的だ。胸にデカデカと、菊の紋章がついているからだ。それ故目立つ。目立たせるのを意図しているかのように。
「それにしても、マジで帰りの電車でホワイトスクールの奴らと一緒とかありえないんですけど」
「ほんとそれ。電車爆発とかさせそー」
「あ、それあるよねー」
何があるのだろうか……。考えるまでもなく、明らかにこのセリフは俺らに聞かせるためにわざと大きくはなたれていた。だから低能は嫌なんだ、何をするかが分からないから。これを俺らに聞かせて何になるのだろうか?自分のほうが上だとマウント取りに行ってんの?あった瞬間マウント取りに行くとかお前らゴリラかよ。
「水無月、行こうぜ」
アイツらに関わってる時間が無駄だ。そういう意図を込めていう。しかし、水無月はそうは思わなかったようだった。瞳に冷たい光を宿した彼女は、少し微笑んで、待ってて、と呟いた。
「おい水無月、関わるな。その価値もない」
俺がそういうものの、水無月は聞く耳も持たない。
「ねぇ、ちょっといいかな?」
「……な、何?」
まさか話しかけられるとは思わなかったのか、彼女らはおどおどしながら返答する。大概こういう悪口は相手が応答しないからこそ成立しているのだ。こういう悪口を言うやつは、得てしてクズが多い。かと言って陰口を叩くやつも純粋にクズなので、俺の悪口を言うやつは全員首を吊って死ねばいいと思う。
「えっと、今なにか私達の悪口を喋ってたから話しかけに来たんだけど、どうしたの?私は君たちの顔なんて知らないんだけど。なにか言いたいことがあったら直接言ってほしいな」
「いや、別に何も、ないです……」
「いやいや、何もないわけ無いじゃん。ほら、言ってよ。早く。さっき大声で言ってたようにね。よくきこえなかったんだ。ごめんね」
正直言ってこいつらよりも水無月の方がスタイルもいいし顔もいい。それで顔を直視されこんなことを言われると、目をそらさねばならないのも必然か。
「……ごめんなさい」
「いやいや、謝ってほしいわけじゃないって」
怖い怖い。顔は笑ってるものの目は全く笑っていない。能面のような。感情を悟らせようとしない。
ずっと黙っている女子たちを見て、水無月は軽蔑したかのように見下した目で彼女らを睨め回す。
「ふーん、ならいいけど」
そして水無月はこっちに戻ってきた。
「じゃあ行こっか」
通り際彼女らの脇を通る。俺が横目で睨むと、彼女らは最初の威勢はどこへやら、怯えて肩をすぼめていた。
十分彼女らと距離をとってから、話し始める。
「……わざわざあいつらに言うことなかったのに」
「そう?私はああ言うやつがいたらすぐ言うことにしてるけど」「それゃ凄い」
特に初対面の人間に、なんの気後れもなくああいけることが。
「意味わかんない人に馬鹿にされても面白くないしね」
彼女はニヤッと笑う。
「そーいやさ、新堂はなんでこの学校に入ったんだっけ?」
「あ?」
突然出す話題ではないことに一瞬意味を捉え兼ねたが、彼女のその底冷えするような、それでいて無邪気な笑みに意図を読み取る。
「何度も言っただろ、俺を馬鹿にしたやつを殴り殺してしまったんだって」
ちらり、と後ろを見るとさっきの女達がこちらに驚愕の視線を向けていた。
「我ながらサムい芝居だと思うけどな」
「そーだね。でもまぁ、これくらいしないと、私だけで帰ってるとき何されるか分かんないし。流石に男に私一人ではたちむかえないなぁ」
そして水無月は、何か面白いことを思いついたかのように笑った。小悪魔のように、甘く、蕩けそうな声で。
「それとも新堂はこれからもずっと私を送迎してくれる?」
俺は口を開けたまま固まる。本来ならば言うべき適切な答えがあるのだろうが、見つけられない。適当な言葉が思い浮かばない。クソ、こんな見え透いた嘘にここまで動揺するなんて女性免疫がなさすぎる。多分新型ウイルスとどっこいどっこい。
「なんてね、冗談だって。じゃ、私ここだから、バイバイ」
図ったかのように停車する電車。水無月はドアから出て、こっちに一回手を振る。それだけで、その挙動だけで俺の心はなびく。
……そうならば、それはきっと。俺の心はやっぱり。そうなのだと。
改めて自覚する他なかった。




