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「エドワード様、いったい何があったのですか?」
エドワード様が血まみれでいた理由、ロビン様が血まみれでいた理由がわからずに確認する。
しかし、エドワード様は口許に手をあててにこりと微笑むだけで、決して教えてはくださらなかった。
今までだって、女の私には婚約者であるにもかかわらず政治にはいっさい関わらせてくれなかった。
今もきっと隣国にいるからには、政務に関することなのだろうということは、なんとなくたがわかる。
それに、私を関わらせたくないんだってこともわかっている。
もっとも、今のこの姿では私がレイチェルだということに気づいていないようなので、得体の知れない女に情報を渡せないと思っているのかもしれない。
ポッと出てきた見知らぬ女。
治癒の魔法でエドワード様の傷を治しはしたけれども、それこそが油断させるための手段かもしれないし。
すぐには信じることなどできないだろう。
「私は一度、国に帰る。もう、足元はふらつかないし、君に来ていただかなくても大丈夫だ。」
エドワード様は微笑みながらそう、言ってくる。
一見私のために提案してくださっているような内容だが、私を寄せ付けないための言葉に思える。
特にその笑みが胡散臭い。
「いいえ。私には行く宛がないのです。一緒に着いていっても?」
この国にいても、私のこの身体を借りている人物の記憶がない。
どこに住んでいるのかもわからない。
それであれば、エドワード様に厚かましくもついて行ってしまおう。
「君はこの国の民であろう?」
「さあ。私には記憶がないのです。この森の湖の畔にいつの間にか倒れておりました。倒れる以前の記憶がないのです。」
レイチェルとしての記憶はあるけれども、この身体の持ち主のことは全くわからないから、あながち嘘でもない。
エドワード様は訝しげにこちらを見つめてくるが、知らんぷりをして笑顔を作り続ける。
「・・・わかった。だが、不審な動きをしたら容赦はしないからな。」
「ありがとうございます。」
エドワード様はしぶしぶと許してくださった。元々エドワード様は女性に甘いところがある。
ここに置いていかれても仕方がないので、エドワード様が頷いてくれたことはとても嬉しい。
治癒の魔法でエドワード様の傷は治ったが、服は破れたままだった。
このままでは目立ってしまうということで、エドワード様には森に隠れていてもらい、私がエドワード様用の服を一式調達してくることになった。
私はエドワード様から洋服代を受けとると、町に足を向けた。




