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最近エドワード様が私と一緒に寝起きしている皇太子用の部屋に帰ってくることが減った。
執務で忙しいということだが、本当だろうかと思ってしまう。
以前だったら執務の合間にひょっこりと顔を出していたのに。
やはり、マコト様やユキ様がいらっしゃったから・・・?
あの夢のとおりになってしまうのかしら。
「あら?あなたはクロ様?」
部屋で物思いに耽っていると、不意に足に触れてくる存在がある。
下を向くと、真っ黒な猫のクロ様が私の足にスリスリしていた。
めずらしい。
クロ様が一匹で私のもとに来るなんて。
なにか、あったのかしら?
「にゃあ。」
クロ様は一声鳴いて、私が座っているソファの上に飛び乗った。
「ふふっ。可愛い。」
私の顔を見て、「にゃあ。」と小さく鳴き、ピタッと私の身体に自分の身体をひっつけた。
まるで、撫でてと言っているように頭を胸に擦り付けてくる。
私は、クロ様の頭をゆっくりと撫でた。
ふわふわとした毛並みがとても気持ちいい。極上の手触りだ。
そして、人間よりも少し高い体温も安心する。
とても柔らかい猫の身体。
うっとりする肌触りの毛並み。
クロ様を触っていると何故だか気持ちがすごく落ち着いた。
先程までの不安が一気に吹き飛んだようだ。
クロ様は私にされるがまま、撫でさせている。クロ様も気持ちがいいのか、ゴロゴロと喉を鳴らし始めた。
「可愛いわ。」
ずっと、クロ様を撫でていたい。そんな気分にさせられる。
「ありがとう。私のところに来てくれて。」
「にゃあ。」
お礼を言うと、「どういたしまして。」というように、クロ様は返事を返してきた。
まるで、人間のいう言葉がわかるようだ。
とても賢い猫。
「あっ!クロいた!!」
ゆったりとクロ様を撫でていると、急に部屋のドアが開いた。
ビックリしてドアを見ると、ユキ様がこちらにやってきた。
どうやら急にいなくなってしまったクロ様を探していたらしい。
「クロ様ってとても可愛いのね。」
「そうよ。ときどき憎たらしいと思うこともあるけど、不思議とすべて許しちゃうのよねぇ・・・。」
「憎たらしいと思うことがあるのですか?」
「あるわ!呼んでも返事をせずに知らんぷりしているときとか。私のおやつをかっさらったりするときとか。朝なんて早く起きろとばかりに寝ている私のお腹に飛び乗ってくるんだから。」
「まあ。うふふっ。」
ユキ様は必死になってクロ様に抗議しているが、クロ様はどこ吹く風で、ゆったりと毛繕いを始めてしまった。
なかなか猫と暮らすのも楽しそうである。
ユキ様も口では文句を言ってはいるが、その目にはクロ様に対する確かな愛情がある。
「ねえ、ユキ様。最近エドワード様がいらしてくれないの。目も合わせてくれなくなってしまったわ。」
誰にも言えなかったエドワード様への不安。それを何故かユキ様に言ってしまった。
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