エドワード視点9
「皇太子殿下はいらっしゃるかしら。異世界からの迷い人のマコト様を案内してきたのだけれども」
執務室でレイチェルに会いに行きたいのを我慢しながら、目の前に積まれた書類に目を通しながらサインをしていると、急にレイチェルの声が執務室のドアの外から聞こえてきた。
ついっと視線を上げ、ドアの方を見る。
「エドワード様?書類はドアにはございませんよ。机の上です。しっかりと目を通してくださいね。」
視線をドアに移しただけなのに次期宰相と名高いアルフレッドに注意された。
「いや、レイチェルの声が聞こえたんだ。」
「そうですか。ついに空耳まで聞こえてきたんですね。貴方様のレイチェルバカもいい加減にしてほしいものです。さっさと仕事を終えればレイチェル様に会いに行けますよ。しっかりきっちり仕事をなさってくださいね。」
アルフレッドに書類を差し出されて釘を刺される。
たまに、本当にたまにアルフレッドの目を盗んでレイチェルに会いに行ったことがアルフレッドには頭に来ているらしい。
まあ、レイチェルに会いに行ったらすぐに帰ってくることなんてできないからね。
離れがたくてついついレイチェルの側にいてしまうから、仕事が進まなくて怒られるようだ。
「アルフレッド様。レイチェル様がいらっしゃってます。お通ししてもよろしいでしょうか。」
執務室を警備していた近衛兵からアルフレッドに声がかかる。
「ほら。アルフレッド。空耳なんかじゃなかっただろ?」
得意気にアルフレッドに告げれば、軽く睨まれた。
「お通ししてください。」
アルフレッドがそう言うと、レイチェルがドアから顔を出した。
レイチェルはいつ見ても美しい。
こちらの様子を伺うその憂いを帯びた目もとても魅力的だ。
「レイチェル嬢、どうしたんだい?さあ、中に入って?」
「エドワード様、先ほど道に迷っているマコト様とお会いしたのです。連れて参りました。余計なことでしたか?」
「ありがとう。レイチェル嬢。マコト、案内のものが遅れてしまったようですまないね」
レイチェルに言われて、レイチェルの後ろを見るとマコトが申し訳なさそうにこちらを見ていた。
レイチェルにばかり気をとられていて、マコトがいることにレイチェルに言われるまで気づかなかった。
気づかなかったことをごまかすようにマコトに作った笑みを向ける。
「私の方こそすみません。お約束の時間に遅れてしまうかと思い、皇太子宮で会う方々に尋ねていけばいいと思って来てしまいました」
「そうか。こちらの落ち度なのに気を使わせてしまったな。すまない」
「いえ」
事務的な会話をマコトと交わす。
レイチェルが側にいるのに、仕事の話をしなければいけないだなんて。
内心がっかりしながら、マコトと相対する。




