第6話
「しかし君、俺は左腕がない。雑用には不向きだ。とっとと殺して食ってしまえ」
男は何とかして死ねないか考えた。この際食われてでもいい。
しかし少女は何くわぬ顔で返した。
「それについては心配するな。私の妖術で再生させてやろう」
その言葉に男は思わず苦笑いした。さすが人喰らい。何でもアリらしい。
「し、しかし俺はきっと不味い……」
「もういい。どちらにしろお前は簡単には死ねないし、何と言おうと私はお前に雑用をさせる。いいな」
男の最後の説得は少女によって遮られた。もう諦めざるを得なかった。
「そういえばまだ名前を聞いていなかったな」
ふと少女はそんなことを言った。
「人喰らいに名前はあるのか?」
男は半分冗談で少女に聞いた。内心男は妖怪に名などないと思っていたからだ。
「名か。雪だ。氏はない」
「ユキ?雪ってあの降る雪のことか?」
「そうだ」
なるほどと男は思った。確かに彼女の肌はそれこそ雪のように白かった。名前は人を体現するとはよく言ったものだ。いや、この場合は妖怪なのだが。
「で、お前さんの名は?」
「あ、ああ。熊田雄一。ユウは雄大の雄だ」
男、熊田雄一はそう答えた。
「そうか。いい名前じゃないか。熊田、これからはこき使ってやるから覚悟しておけ」
雪はいやにニヤリと笑った。
熊田は笑えなかった。