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04 夜の城

「ほな、いこか。」


 何の迷いもなく、彼のバイクに乗り込む。人間といえるものはどこにもいない。どこかの空虚な商店街。シャッター商店街とも違う空しさがあった。放棄されたコンビニ、無人のゲームセンター。中の機械はまだ生きているようで、虚しいだけの機械音がそこらじゅうに響く。遊びに来る人間などはいない。遊んでいる余裕などどこにもないのだから。


「どこに行くんですか?」


 行きとは明らかに違う道を通っている。より正確にいうと、川を遡っていく鮭のように北へ北へと。答えは沈黙という名のものであった。それでは全く答えになっていない。それこそが答えだと言わんばかりに。


 ついたのは小さなお城だった。もちろん由緒正しい方ではなく、比喩表現としてのそれは、人々の営みの中に組み込まれているソレであった。私が知らない世界、むしろ知りたくもない世界がそこにはあった。


「若い娘が(うち)におって、何も感じないほうがおかしいやろ。」


 彼は、私の腕が千切れそうになるのも気にせず、そこに入っていく。いや、正確には逃げようとする私の腕を強引に掴み、引きずり込もうとしている。


 そこは夜のための城、決して私が足を踏み入れていい場所なんかじゃあない。灼熱の太陽はいつの間にか大いなる海に吸い込まれていく。純白なる心を別の白さで染め上げる、子供が絶対に立ち入っちゃいけない夜が始まろうとしていた。


「誰か、助けてーーーー!!!!!!」


 街には、(あり)一匹ですら存在しえない。もちろん、私を助けに来てくれるヒーローなんているはずもないから、私自身でなんとかしないといけない訳だが。


 男の力は見た目以上に強く、腕を振り払おうとしたって、手が空を切るだけになってしまう。ある程度は護身術の心得があるとはいえ、がっちりと羽交い締めにされた状態から抜け出す術などないに等しいのだから。


「黙れってんだろ、このアマがぁ!」


 高校生女子の平均より少し軽いとはいえ、五十キロ近い物体は普通に考えれば空を飛ぶことはない。だが、彼は私を道路へと投げ飛ばし、


「ぐはっ――――」


 肺の中の空気が体外に吐き出された。背骨がミシリと嫌な音を立て、指先の感覚が徐々に消えていく。熱いのか寒いのかさえも感じ取れない。ただ、恐怖、それだけが私を支配していく。


「ホントはもっとお上品に食べたかったけどなぁ、生憎、学がねぇもんでテーブルマナーなんてモンは知らんわけや。」


 近づいて来るのは本当に人間なのだろうか。私には、人間の皮を被っただけのただの卑しい獣にしか見えなかった。


「来ないでっ!」


「こっちはもう限界なんや。南条の顔が屈辱で歪むのを見るとさぁ、ホンマに癒されるわぁ。」


「ひっ……」


 涎で汚れていくのは何の言葉も発することがないコンクリートの地面。男の瞳には何が映っているのだろう。南条は南条でも、多分私ではない南条さん。


 私が寝かされているのはとっても硬いコンクリートのベッド。そこには何のムードもクソもなく、ただ食われるのを待っているだけのウサギが存在するだけ。


 あと三メートル。後ずさろうにも、体に力が入らない。そもそも指一本ですら動かせないのだ。後ずさることなんてできるはずがない。


「チッ、テメェ、なんでこんなところにおるんや。」


 辛うじて動く首を回し、何が起こったのかを確認しようとした。だが、結果としてそれは私の首を苦しめるだけとなる。


「なんで、と聞かれましても、この末法の世に救いがないのは必然。であれば、」


 ――――救いの手をさしのべられるのは人間だけでしょう?


 どこか狂気を孕んだその音はいつまでも私の耳にとどまり続ける。脳裏に映るのは赤い首輪をつけた黒猫の姿。私はそれをどこかで見たことがある。でも、いつ(when)どこ(where)という情報が頭の中からすっかりと抜け落ちているのであった。

またおかしいのが増えやがった。

お読み頂きありがとうございます。

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