20 回想輪廻
「全部、思い、出しました。」
ミーちゃんのことも、文芸部の先輩達のことも全部。でもここには誰もいない。優しかった先輩たちも、面白い先生もここにはいない。
全て、消して、消されてしまったのだから。他ならぬ私によって。
「ミー、ちゃん? そこにいるの?」
鳴き声どころか風の音すらも聞こえてこない。街には誰もいないのだ。当然といえば、当然なのだろう。私によって全て無にかえってしまったのだから。
手に残っているのは、ミーちゃんの温もり。ただ、それさえも彼女の生み出したただの幻想でしかない。そんなことはもうわかっている。
「知ってたよ。ミーちゃんはもういない。」
確認をとるように一人で呟く。その瞳に映るのは懺悔。芽生えるのは罪の意識。今さらなその感情。
「ミーちゃんはあの日――――」
私が悪いんだ。全部、私が悪かったんだ。ミーちゃんは私のせいで、私の、せいで、
自然と膝が踊り出す。それは彼女のためだけの軽快なワルツであり、レクイエムでもあった。
被られた猫が取り払われる。そこにあるのは、南条静乃だけ。壊れた人間の悲鳴が閉ざされた空間に響く。
「あっ、アァーーーー、アッ、ゲホッゲホッ、あっーーーー!!!!!!」
自覚する。ここで起こったことの全てを。
自覚した。私がやらかした全てを。
瞳は涙でにじんでいく。そこにはいつからか雨が降っていた。雨はいつまでも止みそうになく、それは地面へと吸い込まれていく。いつの間にか風景が白一色に変わり、私の手はだらりと重力にしたがって落ちる。
「なんで、なんでよ。ミーちゃん、そんなに私のことを憎んでるの?」
誰かに否定して欲しかった。でも誰もいない。私を否定する人はここにはもういない。だってここは「猫」が支配する国なのだから。
「――――私が、嫌いなの?」
返事などあるはずなく、その声は虚空へと溶けていく。空は濁りきった灰色で、それは私自身の心を映し出しているように思えた。
「私のこと、殺したい?」
――――ミーちゃんを殺したのは、きっと私なんだ。
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そう、それはある暑い日のこと。
私は体育の授業の時に熱中症で倒れた。水分補給が足りていなかったのかもしれない。とにかく、私は砂ぼこりの中で倒れたそうだ。
私は一人暮らしで、家にはミーちゃんしかいなかった。出かける前に一日分の食事は置いていたし、水も十分に残っている。何の問題も無いと思っていた。そう、それが言い渡されるまでは。
私はそのまま、救急車で病院に運ばれたらしい。意識が朦朧としている私に抵抗など出来るはずがなく、病室に閉じ込められることになった。
診察の結果、三日間の入院が言い渡された。重度の熱中症。私は病室とその近くのエリアにしか行くことが出来なくなった。当然だが家に帰ることはできない。頼れる人がいない私にはどうしようもなかった。
人間でさえも、音を上げてしまうほどの環境。当然エアコンなどという贅沢なものは私の家についているはずがないし、そもそも扇風機すらそこを冷やすことをあきらめてしまう程の気温。
当然ミーちゃんに耐えられるはずがなく、
私が帰ってきた時には、既にソレは、こと切れていた――――
私の手に残っている感覚。グニャリとした肢体、開かれた瞳孔、動こうとしないしっぽ。ミーちゃんは、もういないんだ。もう、どこにもいないんだ。
私の心にぽっかりと空いた穴、それはきっとミーちゃんの形をしているのだろう。脳裏に浮かぶのは赤い首輪を着けた黒猫の姿。
「ミー、ちゃん。もう一度だけでいいから、会いたいよ。」
――――会って、謝りたいよ。
そろそろ、完結。




