14 無駄
「お姉さん、どうしたの?」
お姉さん、というのは私のことなのか。周囲を見てもそれらしい人影は存在しない。
「ああ、私か。どうもしていない。それではな」
これで合っていただろうか。考えるのは苦手だ。どうやったって思考の糸が繋がらず、意図が読めなくなってしまう。
過程などいらない。答えさえ出ればいい。その点、人間というものは難解だ。YESかNOかで答えればいいものをアナログに考えてしまうのだから。
世界なんて、あるかないかの一と零。それ以外の解は存在しない。コンピューターだってそれで計算しているのだから。
「少し、外の空気を吸いたいな」
ここには非効率なものが多すぎる。特にこの臭い、これは死のにおい、それも自分からそれを選んだ人のものだ。
人間、生きられて百年と少しだけ。それを自分から縮めてどうするのか。自分で自分の首を絞めるなど生産的ではない。私は、それを認めない。
まるで私はコンピューターだ。機械のように冷たく、機会が無ければ誰とも会話することがない。話し合いなど、非効率でしかないから。
綺麗に揃えられたスニーカーに足を突っ込む。爪先の辺りが少し濡れているのはきっと気のせいなのだろう。それくらいで怒るような精神構造を持っていないというのもあるが。
「やはり、外は落ち着く」
風が耳に当たり、若干のノイズを脳へと伝える。心地よいというのは、この事を指すのだろうか。私には理解が出来ない。
だが、他の人が言うように外というのはきっと心地よいものなのだろう。そこがたとえ数多の人間の墓場であったとしてもだ。
「思考、転換。私には一生わからないことだ」
たかが百年、されど百年。私にはそれが一瞬のように思える。この宇宙からすれば私の寿命などたった一瞬でしかないのだから。
たった一瞬で理解しようとする方が無茶だ。だから諦めた。何も考えないようにした。思考することは愚行だと切り捨てた。
何も考えなければ誰も苦しまない。零と一の羅列でしかない、私。こんなものは人間ではない。ただ計算を繰り返すだけの、はいといいえしか選択肢の無い人形。
だから人間の心はわからない。なぜこの隣にいる少女がしきりに私に話しかけてくるのかすらも。
「お姉さん、そっちは……」
「何かあるのか」
「秘密基地があるから行っちゃダメなの!」
秘密ならバラすことは無いのに。だが、興味というものは湧いてこない。どうでもいいと感じてしまう。それはおかしいことなのだろうか。
それすらも知ろうとは思えない。時間の無駄だからだ。知るためには時間を消費することになる。それはただの無駄でしかない。
無駄は嫌いだ。人間には無駄が多すぎる。だから嫌いだ。滅びればいいとさえ思う。
「……お姉さん?」
「どうしたんだ?」
「やっぱり、朝のお姉さんとは別のお姉さんなんだ……」
やはり、わかってしまうのだろうか。私は私であって私ではない。無駄を省きすぎた結果、省かれたという矛盾。
存在し得ない最小値。ニアリーイコールではあってもバットイコール。私の存在はきっとゼロにはなり得ない。だからここにいるのだろう。
「具体的に、どこが違うんだ?」
「えっと……朝のお姉さんはね」
彼女の言う朝のお姉さんというのは、私よりももっと人間らしい人だったのだとか。私よりも人間らしくない人間というのもかなりレアだとは思うが。
「あっ、あとね、ちょっと怖かった。危なっかしかったって言うのかな……」
包丁を持ったときの目が、完全に殺人鬼のソレだったという。誰かを殺したところで、時間を奪われるだけなのだから無駄でしかないというのに。
「そうか。情報提供、感謝する」
「悪いものでも、食べちゃったの?」
本来の彼女は、こういうことはしないのだろうか。だが私という感情には、それを計算する余裕などない。
「私は、いつでも私だが?」
やっぱり、間違っていたのだろうか。私は、私にはなれないのだろうか。




