第6話:最強魔術師は旅立つ
俺とミーアは十五歳になり、成人を迎えた。俺の方が誕生日が遅かったので、彼女には少し待ってもらっていた。玄関口で、別れの挨拶をしているところだ。
「シオンが冒険者とはなぁ」
「十五年って早いものね」
父さんと母さんは、どこか寂しそうな顔をしていた。それもそうか、十五年も同じ屋根の下で過ごした家族が今日からいなくなるのだ。
「近くに来ることがあったらまた寄っていくよ。俺もちょっと寂しいけど、またいつか戻ってくる。だから、待っててくれないかな?」
俺がそう言うと、涙を浮かべた。
震えた声で、声を掛けてくる。
「ミーアを大事にしてやるんだぞ?」
「体には気を付けてね」
「大丈夫、じゃあ、行ってくる」
俺は別れを告げて、外に出た。
家の前には、荷物を持ったミーアが待っていた。出会ったころに比べて金色の長い髪がさらに伸びて腰まで届いている。俺の予想通りかなりのナイスバディに成長し、豊満な胸を揺らしている。
「待たせたな、ミーア」
「今来たばかりだから、大丈夫よ」
付き合いたてのカップルみたいなやりとりをして、ついに俺たちは村を出た。
村を出てからすることは決まっている。
ここから二十キロほど離れた場所のミミス村に移動し、ギルドに登録するのだ。一定以上の人口の村には、魔物の討伐依頼などを冒険者に紹介する自治組織――ギルドが存在する。
俺たちの村は人口が足りず、この辺一帯の依頼は全てミミス村で請け負っている。ギルドに登録するだけならどの村でも構わなかったのだが、ミミス村に決めたのは別の理由もあった。
「この魔法の時代に剣で魔物を倒すなんて……本当にそんな人がいるのかしら」
「剣聖ミーシャか。十五歳の少女にして、剣を極めたって話だったな。その話が本当なら、ぜひとも仲間に引き入れたい」
俺たちの目的は剣聖ミーシャを一目見ておくことだった。千年前の時代には魔術師と剣術師はありふれた存在だった。今の時代は、魔術師だけでなく、剣術師もその存在が消えている。
「剣で魔物を倒すのは可能だ。……普通じゃすぐに刃こぼれしてしまうが、剣術師が使う魔術みたいなものがある。それを使うことで、剣だけで戦えるようになる」
「魔術と剣術ってどっちが強いのかしら?」
「魔術……と言いたいところだけど、剣術も達人はめちゃくちゃ強いからな。やってみるまでわからないよ」
「そういうものなのね」
そんな話をしていると、ミミス村に繋がる森に入った。
人が通れるように道は整備されているが、少しでも横に逸れるとジャングルになっている。森の木々が太陽の光を遮り、暗くなっていた。
この森には、奥に入ると野生の魔物がうようよいることで知られる。この森があるせいで、十五歳未満は村の外への立ち入りを禁じられているのだ。
転生してからは初めて見る景色。
……とはいえ、千年前とそれほど景色は変わっていない。どこをどう通ればいいのかは勘でわかった。
「よし、次はこっちだ」
「そっちは道じゃないよ?」
「こっちの方が近道なんだよ。ほら、普通に歩くとかなり遠回りだろ?」
この道はミミス村だけに続いているわけではない。途中で分かれ道がある関係で、少しだけ遠回りになっていた。
「確かに道はうねってるけど……」
道なき道を行くということで、ミーアは不安そうにしている。
「万が一迷うことがあったら、ここに戻ればいい。そうだろ?」
「うん……わかった!」
俺とミーアは道を逸れて、ジャングルの中へと入った。
長年放置されていたせいで、足元はかなり悪い。
「魔物とか出ないといいんだけど……」
「魔物くらい出てくると思うぞ。出てきたらミーアがなんとかしてくれ」
「ええ――!? 私!?」
ミーアが素っ頓狂な叫びをあげ、俺を二度見する。
「一人で充分倒せるようになったはずだよ。気づいてないかもしれないけど、ミーアは強くなった。できるはずだ」
「で、できるかなぁ……」
その時、三メートルほど離れた場所からガサガサッという音がした。
「どうやら、お出ましみたいだぞ? ミーア、出番だ」
「ええええ!? もう来ちゃったの!? どうしよう、どうしよう!」
「落ち着くんだミーア。敵はブラックウルフ。凶暴な魔物だぞ」
「それでどうやって落ち着くのよ! シオンのバカ!」
ミーアは俺の肩をポンポン叩いた。
「どうだ、緊張は解れたか?」
「……おかげさまで」
ミーアはブラックウルフをキッと睨むと、魔術を組み始めた。
その魔術は、俺が彼女に最初に見せた魔術、【ウォータークロー】。森への影響を考えて水魔術を選んだのだろう。なかなか優秀じゃないか。
当然詠唱することはなく、【ウォータークロー】がブラックウルフに飛んでいく。魔物は身体がバラバラになり、ピクリとも動かなくなった。
「ミーア、お疲れ様。それにしても瞬殺だったな」
「魔物って……脆い?」
「そんなことはないぞ。ミーアが強いだけだ」
俺はミーアの頭にポンと手を置き、優しく撫でる。
彼女はくすぐったそうにしながらも、嬉しそうに受け入れた。
「さて、ミミス村まではもうちょっとだ。一気にいくぞ」
「うん!」
途中何度か魔物と遭遇することがあったものの、一度自分で魔物を倒すことで実力がついたミーアは次々と魔物をなぎ倒し、先に進んだ。
朝に出発して、昼には到着したのだった。