プロローグ:最強魔術師は転生する
延命魔術で延ばした寿命も、一億年目の今日で尽きようとしていた。
才能の無かった俺は三千年を修行に捧げ、二千年かけて魔王を倒した。そして、一億年たった今。世界中の人々が手を取り合い、自国の利益よりも世界の利益を優先するまでになった。
俺の夢だった世界平和は実現した――。
もう、思い残すことはない。
思い残すことをあえて挙げるのならば、童貞を捨てられなかったことくらいだ。それ以外は、全てを手に入れた。
俺は自室にあるふかふかのベッドに潜って、足を伸ばす。
人は死んだらどうなるんだろうな。
一説には、別の世界に転生すると言われている。魔法の代わりに科学という概念があり、そこではこの世界よりも遥かに高い文明があるとか――。
また、一説にはこの世界に別人として転生すると言われている。
その他には無になるとも言われる。自分という存在が消えるのは、少し背筋がゾクッとしてしまう。……でも、平和になったこの世界で俺がやることはもうない。
「消えてしまっても、思い残すことはない」
そんなことを考えながら、俺は最後の時を迎えた。
意識が遠のいていくのがわかる。強烈な眠気が俺を襲い、命を刈り取った――。
◇
「……ん?」
死んだはずなのに意識がはっきりしていた。目を開けてみると、知らない天井があった。もしかして死にきれなくて病院に運ばれたのか? だとしたらちょっと恥ずかしい。
「んん……ん!?」
身動きが取れない。より正確に言えば、動かそうと思えば動かせるのだが、思うように動かないのだ。首に力を入れても、持ち上がらない。
ここまで筋力が低下してしまったというのか!
次の瞬間。なぜか俺の身体が浮き上がった。……そんなはずはなく、誰かが俺の身体を持ち上げたらしい。柔らかい腕に抱かれて、とても心地いい。
「は~い、シオンちゃんおっぱいの時間でちゅよ~?」
女の声がして、俺の口が彼女の乳頭に押し付けられる。口の中にミルクが流れ込んできて、思わず飲んでしまう。えっと……なんでこの歳になって赤ちゃんプレイしてんの俺!?
あ、おっぱいは美味しかったです。
この女に言いたいことは山ほどあるのだが、言葉が出てこない。……言葉すらも話せなくなっていた。
俺が何度かげっぷしたのを確認すると、女性は俺をベッドに戻した。
その時、女の顔がはっきりと見えた。若くてきれいな女性だった。
「シオンちゃん、ぜんぜん泣かないからお母さん不安になっちゃうわ……大丈夫かしら」
女は、俺のことを『シオン』と呼び、自分のことを『お母さん』と呼んだ。
それはつまり、ここは病院じゃなくて……転生したってことなのか!?
新作です。
初日は複数話投稿します。