コンプレックスの始まり
あさみの両親は共働きで、いつも家にいなかった。といっても鍵っ子だったわけではなく、いつも隣に住んでいた祖父母が身の回りのお世話をしてくれていた。
5つ年の離れた姉のまきはあさみが物心着く頃には、成績優秀で容姿端麗な近所でも有名な出来のいい姉だった。
この姉の存在があさみのコンプレックスを加速させることになる。
小学生だったある日、近所の人が、まきの見た目とあさみとではちがいすぎるというような内容を話しているのが聞こえてしまったのだ。
「まきちゃんは美人やのに、妹のほうはねぇ…。連れ子かいね?」
「いやぁ、そんなことないよ。まきちゃんもあさみちゃんもあこのご夫婦の子供よ。」
「そんならあさみちゃんは、残念なんやねぇ。」
そうか。私は残念なんや。
子供ながらにショックだったのを覚えている。
家に帰ってまじまじと自分の顔を鏡で見て、姉との違いを考えた。
目が…小さいな。鼻が低い。顔がなんかでかい。あとは、あとは…。なんか違う。
もう少し大人になったらお姉ちゃんみたいに鼻高くなるんかな?目も二重になるんかな?
そんなことを考えていた。
時々母親に聞いてみると、
「大丈夫や。大人になったらお姉ちゃんみたいになれるよ。」
とだけ返事。
子供ながらに無責任な返答に不安と怒りを感じていた。
ただ、願うばかりではなく、私は様々な努力をした。
目が二重になるように、指で押してみたり、鼻が高くなるよう、洗濯バサミで鼻をつまんでみたり。
しかし、そのどれも効果はいまいちだった。