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夢をみるのも楽じゃないっ!!  作者: 木ノ下乃雨
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 何をしているのか、いったい何故そんなことをしているのか。所長エレガーの格好似合い過ぎですよとても似合ってますよ抱きしめたいですよそれ犯罪だな等々、様々に溢れる疑問と欲望の前に僕は宣言した。いたってシンプルに。

 「かえります」

 呼び出され、それなりに覚悟していた。先ほどの熊野でないがお叱りのいや、お叱られの準備をしていたのに。やらかしてなどないけれど。

 蓋を開けてみればこの有り様じゃ。もうわしゃ知らんわっ!

 もはや其処には、むしろ底には、地引き網でかっさらったように見事なまでに無かった、上司に対する敬意が。皆無。いや大漁に引き揚げられたというべきか。

 優雅にエレベーターを降りながら、彼女、所長は言う。

 「ほんの気まぐれさ、気を悪くしたのならすまないね」

 しかし、まあこの一言でリリースされてしまう。やはりこの人は俺の上司であり、恩人であり、仇敵なのだ。間違ってなんかない。

 「わかっています。僕も冗談ですよ」

 「そうか」

 「そうです。にしてもどうしてエレガーなんですか。似合ってますね最高です。一生エレベーターに乗っていてほしいくらいです」そして会心のスマイル。

 適当な十人を集めるとイケメンになる説なんてのがあるがご存知だろうか。しいて言うなれば僕の顔はその合成される十人の一人のような顔と言っておこう。

 「似合っているのは当たり前だ。私に似合わぬ衣装などない。かの小林○子の舞台装置も着こなして、いや超越する美で圧倒してしまうからな。まったく美しさは罪というが、私には大罪に思うね。いったいどれほどの罪を私は犯してしまったのだろうか。この罪はきっと来世にも引き継がれてしまうにちがいない。すまない我が子孫達よ。罪な私を許しておくれ…

 けれど、一生エレベーターなぞ私はごめんだ。人生起伏が面白いが、ただただ物理的に上下運動するだけの人生なぞ求めとらんわ。ん?ふと思ったが一生エレベーターって生クリームみたいな字面だな。美味しそうじゃの!!」

 「所長、やっぱ帰ります」

 「あと生クリームで思い出したが、生麦生米生卵とあるだろう?そろそろ世代交代してもいいんじゃないかと思うんだ。いつまでもスリートップでいられると他の生鮮食品が可哀想だろ。現代、生麦も生米も食べないし」

 「まあ、確かに食べないですが、それは早口言葉であって言葉の意味より言いにくさ、を求めた結果でしょう」

 「にしても、私はもっと相応しい物があると閃いたのだ」

 「生ビールなんて言わないでしょうね」

 まさか、生ビール生ビール生ビールなんて、ねぇ?

 「…ちょっと待っておくれ。ど忘れしてしまった」

 「………」

 「生春巻き生キャラメル生暖かい」

 「嫌だなぁ。ポケットに入れてたんでしょうか。現代人の食文化に合わせてますが、あまり食べたくありませんね。微妙に言いにくいのがこれまた憎い」

 「生ハ○生チ○○生セ○○○」

 「アウトオオオオ!!!ナニ言ってるんですか。それ言いにくいどころか言ったらダメなやつですよ!」

 「言いにくい言葉だろう?」

 「言いにくいの方向が違うんです!どうするんですか子供が真似したら!滑舌が追いつかないようなのですよ!さっきマトモなの答えてましたよね!?」

 「うっさいなぁ童貞。私はさっき生ハム生チョコ生センベイと言ったんだ。ナニ考えてんのか知らんが、ちっと黙っておれ」

 「言ってねええ!僕が○で隠したのをいいことに中身の責任を僕押し付けるな!」

 「私のお腹の中の子が貴方の子じゃないって言うの!?」

 「人聞き悪いことを言うな!僕は童貞だっ!」

 「そういえば童貞だったな」

 「やかましかっ!!」

 さらっと童貞と2回呼ばれた。

 さらに自分で童貞宣言。

 四字熟語って格好いいよね。童貞宣言、格好よくない?

 …

 ……

 …………

 「性交が成功ではありませんからね。僕はよくわかっているつもりです」

 「よくわかっていると断言しないのだな」

 「ええ、そこまで自身に自信が持てません」

 「さすが童貞」

 「ありがとうございます」

 もう破れかぶれだ。

 「破れかぶれもなにも被っておるだろう」

 「心の声を読むな。それと僕は被ってない」

 もう嫌だこの会話。

 でも何故だろうM心が満たされて嬉しい僕がいる。

 「よかったの」

 「はい」

 だからナチュラルに僕の心を読むでない。

 変なことを考えられないじゃないか。

 …いやこれは寧ろ考えろってことだろうか。

 モンモンもんもん。

 ふわんふわんフワンフワン。

 想像、妄想中。

 ダメだ。

 童貞の想像力、妄想力には限界がある!

 くっ、罵ってくれ。不出来な僕を!

 所長の冷めた視線が最高です。


─────


 で、どうして僕を呼び出したんですか?

 「とうとう声にだすのを止めたな。心は読めるが疲れるんだ。できれば音を発してくれ」

 嫌です。

 …ああ、ジト目いいですねぇ…

 ゾクゾクしますぅ。

 最高っ!興奮する!幸福だ!降伏だ!

 一生見下してくださいいい!!!

 「言うこと聞けばイジメてあげよう」

 「で、どうして僕を呼んだんですか?」

 「教えてあーげないっ」

 「思ってたのと違います、なんだか和みます。イジメでなく子供の意地悪じゃないですか。所長可愛いです」

 歳のくせに。

 「ほぉ?」

 「すみませんでしたああああ」

 素直に土下座する僕がいた。

 素土。素○みたいに流行らないかな。

 「もともとソレも流行っとらんわ」

 …あ、この姿勢なんだか落ち着くなぁ。

 でも何かが足りない。

 なんだろう。

 ………

 ああそうか!

 愛が!!

 愛という名の頭を踏んづけてくれる足が足りない!!

 あの心地よい感触が!

 「さあ所長!どうぞ!!」

 「何がどうぞだ、阿呆が」

 所長は一歩後ろに下がった。

 ああ、足が足が足が足りない。

 「で、どうして僕を喚び出したんですか?」

 「セリフ「だけ」みると格好いいな。私はどこのサモナーで、お前はどこの悪魔だよ。土下座はもういいわ。面をあげよ」

 「で、どうして僕を呼び出したんですか?」

 上からの所長の視線。

 控えめに言って最高。

 「改めて気持ち悪いな。お前起立しろ」

 「で、どうして僕を呼び出したんですか?」

 「上から見下ろされるの腹立つわ。お前正座してろ」

 理不尽っ!でもイイっ!!

 僕はくずおれる。

 正座。

 見下される…イイっ!!

 「やっぱお前帰れ。私も疲れたわ」

 「わかりました」

 エレベーターへと歩く。

 遮られる。

 「冗談だ。着いてこい」

 「はい」

 身長150のエレガーさん、

 もとい初瀬所長の後をついて所長室へと向かう。


 …エレベーター内でのボケ連打。キツかったなぁ。

 何も無かったかのように振る舞う所長可愛い。

 今更恥ずかしくなって耳赤いの可愛い。

 弱いボケだった。せめてツッコミの隙があれば…

 駄々滑り系ヒロインとか新しいな!

 僕も滑って白い目で見られたい!

 蔑まれたい。蔑んで頂きたい!

 前を歩く所長がくるんと僕を向く。

 後ろ歩きしながら、指を指す。

 「お前、後で覚えてろyふぎゃっ」

 うわ、こけた。

 さすが所長。可愛いです。


─────


 大量の書類が所長室を覆っている。

 文章におくとこれだけであるけれど、実際そんなに易しいものでない。

 二十畳程であろう部屋の左右には本棚が高く聳え立ち、まるでヒマラヤ山脈のようである。絶妙に詰まった本書類がいまにも崩れ落ちそう。いや落ちている。本棚にいっぱいいっぱい詰まった上で、入りきらなかった分が本棚の前に山山山。なんとか中央付近は谷となっており、道のような役割を果たしている。

 



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