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ネコのVRMMO世界ゆったり観光旅行  作者:
【第一章】世界旅行の始まり
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6.初めての戦闘

 これまた道の先にあった木々のアーチを抜けると、キャンプ地と同じくらい広大なエリアに着いた。


 大地もこれまた同じ芝だけど、その大半が埋め尽くされている。

 中央に設けられた、巨大な泉によって。


 汚れを一切感じさせない水は夕方を知らせる黄金の空を映し出し、宝石のように輝いている。


「わぁ綺麗!」


 思わずわたしは駆け出して、


「あ」


 ぴたり、とすぐに足を止めた。


 すでにたどり着いていた先客に気づいたからだ。


 栗色のロングヘアー、真紅の瞳。加えて冷ややかな印象の美少女とくれば間違いない。


 また会えた!


「ん」


 お、向こうも気がついたみたい。


 チラッとこちらを見て、すぐに視線を泉に戻す。


「こ、こんにちは」

「ええ」


 相変わらず、少女は泉を見つめている。


「……何?」


 しばらくそのままでいると、彼女はこちらを見た。

 ……何だか不機嫌そうに。


「あ、え、えーっと……さっきはありがとう!」

「別にお礼を言われるようなことはしてないけど」


 静寂。


「……こ、ここで何を?」

「何も。私も今ここに着いたばかりだし」


 静寂。


 話のネタがつきました、ぐすん。


 しばらくそんな無音状態が続いた後、


「――あなたは何をしに来たの?」


 少女の方から、そう尋ねてきてくれた。


「えっと、この場所が気になって」

「そう」


 静寂。


 悲しいことに、何も進展はなかった。


「何もないなら、私行くから」


 素っ気なく言った少女は、ゆっくり歩き出す。


 わたしの横を抜け、木々のアーチを抜けていく。


 ……いいの? このままで。


 お礼をしたくて、せっかく会えたのに。


 またいつ会えるかも分からないのに……!


 だから、わたしは地を蹴った。


 アーチを抜け、まだ近い彼女の背中に、



『ブモォッ!』

「ふわああーっ!」



 豪快な叫び声をぶつけた。


「ほにゅっ」


 地面に激突した際の、潰れた叫びも。


 振り返れば、先ほど吹き飛ばされた相手とまったく同じMOBの姿があった。


「またお前かー! このお!」

『ブモォッ!』

「ふわおあーっ!」


 回転しながら吹き飛ぶわたし。


 先ほどの料理に回復効果がついていたらしく、HPは緑に戻っていたけど、黄色に戻るのは一瞬だった。


「ぶぁ」


 墜落。さらに削れていくHP。


 ぐ、ぐぬぬっ、このイノシシめー!


「……さっきから何を遊んでいるの?」


 地面に倒れていると、足音が近づいてきた。


 見上げれば、少女の姿が。


「あなたの腰にある武器はオモチャなのかしら」

「あっ」


 言われて気がつく。


 そうだ、対抗できる道具を持っていたんだった。


 鞘から引き抜き、露出した剣先をイノシシに向ける。ふっふっふ……こっちに来たら痛いぞー?


『ブモォッ!』


 結果、まったく怯えてくれなかった。


「わわあっ!?」


 なんとか横に跳んで、突進を回避する。


 そ、それにしても勇敢なイノシシだなぁ……。


「持ち方」

「へ?」

「こうやって逆さまにしてみなさい」


 そう告げてくる少女の手には剣が握られていた。けど、持ち方が異様だった。柄の頭が反対になっていて、小指の方から刀身が出ている。


「小太刀はリーチが短い分、素早い動作で攻撃を行うことができるの。加えて逆手持ちにすれば普段よりも攻撃に十分な力を乗せやすくなるわ」

「な、なるほど」


 見様見真似で、逆手持ちにしてみる。


 う、うーん……ちょっと持ちづらいような?


「ほら来るわよ」

『ブモォッ!』


 デジャヴを感じる唸り声。


 見れば、荒々しい顔と足音が迫っていた。


 ど、どうしよう、どうしたら?


「反撃よ。敵の攻撃を回避しながら攻撃して」

「う、うん!」


 言われた通り、わたしは武器を構えて相手を待つ。


 もう慣れた突進を横に跳んで回避。そして、


「ていっ」


 空いた横腹に剣先を振り下ろした。


 鮮やかな音が響き、刺さった箇所に赤いエフェクトが発生する。


 同時に、頭上に表示されていたHPが減少を始めた。


『プギッ!?』

「後ろに跳んで!」


 今までとは違って、鋭く大きな声。


 反射的に小太刀を引き抜き、後方にジャンプ。


『ブギルルッ!!』


 イノシシが暴れ始めたのは、その直後だった。


 あ、危なかったぁ。あのまま近くにいたら確実に吹き飛ばされていたよ……。


『ブモォッ!』


 やがて体制を整え、再び突進を開始するイノシシ。


 不思議と脅威は感じなかった。慣れてきたのかな?


「迎え撃ちなさい、走りながら敵を斬り裂いて」

「うん!」


 わたしもまた、走り出す。


 相手の鼻先が体に届く前に回避し、速度を保ったまますぐ横を駆け抜ける。


 その際に腕を持ち上げ剣先を押し当てていたため、ザザザッと赤いエフェクトが刻まれていく。


 最後尾までたどり着き、力強く振り払うとイノシシはふらふらと体制を崩しながら前に進んで、すぐに倒れ込んだ。


 HPはもうすでにマッチ棒ほどの量しか残っておらず、突いただけで消滅してしまいそうだ。


「トドメ」

「うんっ!」


 反撃される前に倒さないと!


 腕を振り上げ、向けられたお尻を小太刀で貫く!


『プギュー!?』


 どこか驚いた声を上げたイノシシはHPを空にさせ、淡い光を放ち、姿を消滅させた。



スキル【小太刀】Lv.UP!


【生肉】ランク:F

効果

①このまま食べることはできない。

②熱を加えたり調理道具を利用することで、料理を生成することができる。



 右下のログが、二つの文字列を表示させた。


 一つ目はスキルのレベルアップ、これで少し小太刀の威力が上がったのかな。


 二つ目はええと……ドロップアイテム? つまり戦利品ってことかな? それにお肉! やったやった、料理の素材だ!


「スキルレベルはどう?」


 気がつけば、少女が近くに立っていた。


「えっと、一つ上がったよ」

「そう、それじゃあと四つね」

「四つ?」

「ええ、レベルが5まで上がれば『奥義』が使えるようになるから。それを使えばもっと楽に戦えると思うわ」


 奥義、か。

 対象は武器のスキルだけなのかな?


「それじゃあね」


 そこまで言うと、少女は背を向けて歩き出した。


 ああ、また行っちゃう……どうしようどうしよう。


「――あっ」


 間の抜けた声が聞こえたのは、そんな時だった。


 その声は目の前、少女のものだった。


 彼女はこちらを振り返ると歩み寄ってきてーー何を思ったか再び木々のアーチを潜り始める。


 その途中で、ぴたりと足を止めた。


「……ここに来た目的を忘れていたわ……」


 呟く少女の顔は、微かに赤みを帯びていた。



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