4.旅の先輩
少女との出会いから数十分後。
わたしはバックパックを揺らしながら高原を道沿いに歩いていた。
すると、先の道が三つに分かれているのが見えた。
前方、左、右に伸びており、その場所の案内だろう立てかけられた看板には、矢印とそれぞれに名前が刻まれている。
【始まりの高原】案内図
↑第二都市【ブロッサム】
↓第一都市【始まりの街】
←キャンプ場
→照らしの泉
ふーむ、なるほど……最初にログインした街が【始まりの街】、このフィールドが【始まりの高原】という名前なんだね。
このまま真っ直ぐに進めば、次の都市。左がキャンプ地? 右が照らしの泉? おお、何だ何だっ? 凄く気になる!
うーん、どっちから行こうかな……。
……よし、まずは左から行ってみよう!
『おらァッ!!』
『でりゃあッ!!』
『おんどりゃあッ!!』
何だか荒々しいプレイヤーたちの狩りを横目に、わたしは左に進んでいく。
先には木々のアーチが待ち構えていた。乾いた土のような香りを味わいながらその中を潜っていくと、やがて広いエリアにたどり着いた。
木々に囲まれたこの場所は柔らかな芝のみで構成されていて、寝転んだら気持ちよさそうだ。
「……ん?」
その中に一つ、ぽつりと何かがあった。
大きな三角形の布……あれはテントだ。
側には焚き木が組んであり、その上に金網状の台が設けられている。まるで何かを置くための物のような?
「ふあ〜ぁ、そろそろやるかぁ」
あくびをしながらテントからプレイヤーが出てきたのは、そう考えている時だった。
女の人にしては短い銀髪に、どこか落ち着いた雰囲気のある女性。さっきの少女とはまた違う大人っぽさがあった。
ラフな衣服に身を包んだ彼女は、ん〜〜、と上半身を伸ばして、
「お?」
わたしに気づいた。
そのままゆっくりと姿勢を戻していき、
「や、こんにちは」
明るい笑顔を見せてきた。
「こんにちは」
「お嬢さんもキャンプに来たのかな?」
「キャンプ、ですか?」
「ありゃ違ったか、それじゃセーブかな?」
「セーブ、ですか?」
「それも違うか。そうなると――」
女性は、少しだけ悩む素振りを見せた後、
「場所の見学に来た初心者さん、かな?」
「そーです!」
「おお大正解。私、名探偵の素質があるのかもね」
はは、と女性は柔らかい笑顔を作って、
「お嬢さんはもしかして、冒険というよりも旅行を目的としているのかな?」
「ええっ! な、何で分かったんですか!?」
こ、これは素質しかない!
「バックパックさ。普通のプレイヤーだったらデメリットしかないこのシステムを利用なんてしないからね」
「め、名探偵だぁ……」
「……ふ、ははっ。君は可愛いね」
可笑しそうに笑いながら女性は振り返り、テントの中に手を突っ込んだ。
引き抜かれると、バックパックが飛び出した。
「私も同じ目的でゲームをしているんだ」
そうだ、と言葉を続ける女性。
「どうだろう、もしよかったら一緒に」
そう言い彼女が指差した先は、焚き木セット。
「これから料理をするんだ。食べていくかい?」
「料理……!」
そうだ、このゲームには食べ物があるんだっけ。
特に食べて効果は現れない、ただの娯楽。そうお姉ちゃんから教えてもらったけど……やっぱり旅といえばご飯! ずっと気になっていたんだ!
「いただきます!」
だから答えは決まっていた。
「よし、それじゃおいで」
手招きに誘われて、わたしは駆けていった。