表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ネコのVRMMO世界ゆったり観光旅行  作者:
【第一章】世界旅行の始まり
25/25

23.再会

 もうしばらく釣りをしようとも考えたけど、やはり旅を続けることに決めたわたしは、トンネルを抜けていく。


 晴れた視界の先の景色は、すっかり明るくなっていた。


 波の音をバックに、歩いていく。


 砂浜を進んでいくにつれてMOBの姿が見られるようになってきたけど、結構プレイヤーの数も多くて速やかに移動できそうだった。


 だからバックパックを出現させても大丈夫だよね?


 釣竿をゲットして、思う通りに旅ができて、気分が高揚するのは必然だった。


 るんるん、と鼻歌を歌いながら駆けていく。


 そして地面に柔らかさがなくなり、硬い地面に変わった頃だった。第三都市の側までやってきたのは。


 がっしりとした石の壁は、思い切り上体をそらさないと頂上が見えないくらいに高い。


 と、遠くから見るよりも迫力が凄いなぁ……!


 外壁でこれだと、中身も期待しちゃうな。きっと凄い街が作られているんだろうなー!


 ウキウキしながら街の入り口に向かう。


「あっ」


 そして、気づいた。


 街の門から往来を繰り返すプレイヤー、その中に見知った人物がいたことを。


 栗色のロングヘアーに怜悧な印象の美少女。


 それは、ナギに間違いなかった。


「よし!」


 今度こそフレンド登録だ!


 そう決意し、一気に街の入り口へ駆け出す。


 でも人の数が多くて、思うように近づけない……あ、どうやらナギは街の入り口から右、つまり海と正反対の方向に用があるみたい。


 わたしはとりあえずプレイヤーたちの周りを走るようにして背中を追いかけると、もうナギはかなり遠くの位置で歩いていた。


 も、もー! 人多すぎるよー!


 慌てて追いかけ、追いかけ続ける。


 見ればナギは、街から少し離れた場所にある荒地に向かっているようだった。近づいてみるとそこは、元々小さな町があったような……そんな成れの果てだった。


 瓦礫だらけの寂しい荒地を見学して回る。


「……あれ、ナギは?」


 だから、目的を忘れていた。


 お姉ちゃんに、一つのことに集中できない、と注意を受けたことがあるけど……痛感するなぁ。


 でもそれほど規模はないから、すぐに見つかると思うんだけど……、


「ん?」


 あるものを見つけて、わたしの足が止まる。


 それは『塔』。それほど高くはないけど、この崩壊した町の中では一番の巨大さを誇っていた。


 この辺り一帯を見渡せそうなので、とりあえず上ってみることに決めた。


 今にも崩れそうな階段を恐る恐る踏みつけながら、最上階を目指していく。


 そして、最後の一段を超えた直後、だった。


「――ッ!?」


 そんな反応がよく似合うナギと目が合ったのは。


 理由としては多分、彼女は大きなサンドイッチを口いっぱいに頬張っていて……つまり、気を抜いていたんだろうなぁ。


 そんなナギが初めに取った行動は、後ろを向く、だった。むぐむぐと激しく咀嚼を繰り返し、ごくん。


「――よく会うわね」


 こちらに顔を向けた時にはもう、いつもの怜悧な表情に戻っていた。


「う、うんそうだね」

「どうしてここへ?」

「えっと、たまたまナギを見つけて……」

「追いかけてきた……、と。あなたも暇な人ね」


 やれやれ、と肩をすくめるナギ。

 そんな冷たい態度を取るような彼女だったけど、


「ナギ、口にパン屑ついてるよ」

「!?」


 顔を真っ赤にさせて口元をブンブン拭う姿は、年相応の女の子に見えた。


 そのまま恥ずかしさのあまりか、下を向いて、


「え、えーっと! ナギはここへ何しに来たの?」


 このままだと泣いてしまいそうなので、慌てて話を切り替える。


 すると彼女はハッと顔を持ち上げ、何度か咳払い。


 少し間を置いてから、空を指差した。


「見たいものがあるからよ」

「見たいもの?」

「ええ、時間的にそろそろ――」


 そこで、ふっ、と世界が一気に光を失った。


 理由は影、わたしたちの上に被さるようにして日差しを遮断していた。


 反射的に上を向いて、


「う、わあっ!」


 驚くしかなかった。


 空に浮いていたのは、クジラ、だった。あり得ないかもしれないけど……クジラが泳いでいた。


 体は石で作られていて、そこら中に苔が生えている。どこかこの荒地のように古めかしいその謎の巨大な生物は、ゆっくりとわたしたちの上を通過していく。


「て、敵?」

「いいえ、表現するなら『島』ね」

「島……?」


 影が取り除かれてからよく見ると、確かにクジラの背中には木や建物が置かれているのが分かった。


 ってことは、あそこにも行けるのかな?


「決まった時間に決まった場所に現れるらしいの。まだあそこに行くまでには時間はかかるけど、見る分には何も問題ないものね」

「うん……!」


 空飛ぶクジラかぁ……凄いな、この世界は想像できないものでいっぱいだ。楽しみが尽きないよ。


「……それじゃ、私はもう行くけど」


 ちらりと塔の出口を見るナギ。


 そ、そうだ。せっかくのチャンス!


「あ、えっと……! フレンド登録してもいい?」

「え……?」


 ぽかんと口を開いてこちらを見るナギ。

 まるで、何を言ってるんだ? と言いたげに。


「私と?」

「うん、ナギと!」


 そう答えると、ナギはううんと悩んで、


「あなた……本当に不思議な人ね。普通なら私なんかとフレンド登録したいなんて思わないのに」

「どうして?」

「どうしてって……」


 ナギの言葉は、それ以上続かなかった。


 再び、んむむ……、と悩む素振りを見せて、


「……いいわ」

「えっ?」

「別にいいわよ、フレンド登録しても」

「ほんとっ!?」


 思わず、瞳に光が宿る。


 実際には見えないけどキラキラ輝いているはずだ。


「……あ、あなた本当に嬉しいの?」

「うん! 嬉しい!」

「そ、そう」


 また顔を背けられる。


 耳が真っ赤に見えるけど……日差しが原因かな?


 とりあえずお姉ちゃんに教えてもらった操作を行い、フレンド登録を無事に終えることができた。


 念のため確認してみると、ちゃんとナギの名前が欄に表示されていた。


「ありがとう!」

「別に、お礼されるようなことじゃないし……」


 ぼそりと小さな声でナギは答えると、駆けるようにして塔の階段に向かっていく。


 そのまま走って降りるーー前に振り向いた。


「……何かいいものを見つけたら、連絡するわ。嫌なら無視すれば……」

「あ、わたしも! また一緒に綺麗な景色見ようね!」

「! ……うん」


 ナギの口元が緩む、あ、笑顔を……!


 ――見せる前に、背を向けてしまった。残念!


 そのまま彼女は階段を下りていく。


「あっ、またね! ナギ!」

「ええ……また」


 今度は確かに聞こえる声で、答えてくれた。



これにて第一章は終了となります!

申し訳ないのですが、第二章開始まで暫しの時間をいただきたいと思いまして……勝手をすみません!


ここまでお読みいただき、ありがとうございました!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ