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ネコのVRMMO世界ゆったり観光旅行  作者:
【第一章】世界旅行の始まり
21/25

19.奥義

「はふぅー、ふぅ……」


 この世界では普通、どんなに走っても疲れることがないけど、ずぅんとのしかかる疲労感があった。


 ……それほどに必死で逃げていたんです。


「ここ、どこだろ?」


 前を見ても後ろを見ても景色は同じ。

 うーん今向かっているのは出口の方向なのかなぁ。


 そういえばナギは一体どこに、



 ガキ、ンッ!!



「わっ!?」


 突然の轟音。それは後ろからだった。


 ド、ドドォッ!!


 前からも。理由は尖った天井、それが崩れ落ちてきた。あ、危ない。もう少し遅かったら下敷きに……。


 奇跡に感謝しながら進もうとして――止まる。


「道が……なくなっちゃった」


 そう、不運にも天井の岩は道を塞いでしまった。上からも横からも侵入できないほど高くぎっしりと。


 ど、どうしよう……。


『グバァ、ァ、ァッ!!』


 奇声、それは下を流れる水の中から。


 次の瞬間、巨大な水しぶきが上がる。


 中から飛び出してきたのは、魚に手足を生やしたような……正直ちょっと気色悪い生物。



【マーマン】Lv.6



 口を開けニタニタと笑うMOBだけど、目は笑っていないから怖い。そんな不気味な敵は三又に分かれた槍を持っていて、攻撃力が高そうだ。


 敵ことマーマンはギロリとこちらに目を向けると、槍の先端をこちらに向けてくる。……今までとは違ってリーチが長いな。近づくのが大変だ……。


 とりあえずこのままだと刺されちゃうので横に移動する。


 すると、その動きに合わせて槍がついてきた。


「むっ」


 追いつかれないよう、スピードを上げてみる。


 でもやっぱり、鋭い先端はぴったりとついてきた。


「むむっ」


 今度は急に逆に回って……ついてくる。


 ぐぬぬ……そうなるともう止まるしかない。



 ――ギラッ!



 直後、意思のなさそうに見える真っ黒な瞳が、何か輝きを放った気がした。


 素早い動作で槍を突き出し、わたしの腹部を狙う。


「ふぎゅッ!」


 当然、驚愕で避けられなかった。


 重い感覚をお腹に感じ、不快感が染み渡る。


 視界左上のHPがグンッと表現が似合うくらいに激しく減少。満タンだったゲージがもう黄色に変わっても可笑しくない位置まで削れていった。


 た、確かに深く突き刺されちゃったもんね……初期装備っていうのもあるけど。


 ふらふらと後ろに下がらせられ、岩にぶつかる。


「ぐぬ〜」


 唸りながら小太刀を引き抜き、考える。


 とりあえず動きを止めたら攻撃される、ということは分かった。あとは近づいた時が問題だ……。


 再び先端が向けられたので、円を描くように走り始め……すぐに止まる。


 目に意識が生まれた瞬間に、横っ飛び!


 ブオン! と風を切り裂く音を横に走り出す。


 間合いを詰めた直後、駆け抜けざまに斬り裂いた。


 一番力が入る動作での斬撃は、武器とスキルレベルを加えて多大なダメージを与えてくれる。

わたしと同じくらいのダメージを受けたマーマンは胸部に赤いエフェクトを刻まれながらも表情を変えることはなかった。


 ただ今までと同じように槍の先端を向けてくる。



 ――勝機が見えた!



 わたしは鋭利な先端から逃れるように、再び横に回った。そして急停止。


 目が光を宿したのを確認すると、地を蹴った。



 ……あれ?



 そんな違和感を覚えたのは、その直後。


 真横から聞こえてこなかったんだ、風を切る音が。


 その理由は実に簡単。


 マーマンが武器を突き出していなかったから、だ。


 ぐぐっ……! と先ほどまでの素早い動作とは違って力を溜めていた。わたしの体を貫くために。


 マズい、と思った時にはもう槍が放たれていた。力強い一撃がわたしの顔面に迫ってくる。


 動きを止めても激突は免れない。……なら、走る向きを変えるしかない!


 進行方向を直線から強引に曲げる。けど、


「うっ!」


 完全に回避はできず、肩を貫かれた。


 HPが半分を切り、おまけに体制を大きく崩される。


 攻撃を受けた箇所を軸として駒のように一回転を――し始めたところで、輝きを放つ小太刀。


「え――わわッ!?」


 小太刀はまるで意思があるかのようにわたしの右腕を操って動きに力を加えていく。


 そして一回転が終了しようとしたその時、だった。


 ドスッ!! と右腕に確かな感触。


 見れば小太刀が深々とマーマンの胸元に突き刺さっていた。遠心力がプラスされたのか、その一撃は頭上のHPを激しく減少させ、ゼロに変えた。


 よく分からないままマーマンは仰向けに倒れ、わたしの前から姿を消滅させた。


「か、勝った……んだよ、ね? ……ふはぁ……」


 へなへなと安堵から力が抜けていく。



スキル【小太刀】Lv.UP!



 界右下のログが更新された。


 どうやらスキルレベルが6に上がったみたい……ってあれ? いつの間に5まで上がっていたんだろう。


 気になったので、ステータスを確認してみる。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

・武器

【小太刀】Lv.6 【両手剣】Lv.1 【刀】Lv.1

【弓】Lv.1

・その他

【料理】Lv.1


《奥義》

【小太刀】Lv.5『風牙ふうが

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 あ、いつの間にか奥義を覚えてる!


 もしかしてさっき小太刀が動いたのは、これが原因なのかな?


 奥義の文字をタップして、説明を表示させる。



奥義とは?

①一定値までレベルが上がると取得が可能。

②使用をONに設定しておき、条件に従って行動すれば発動することができる。

③発動してから一定時間は使用不可能(奥義によって時間は異なる)。



 ふーむ……つまり、わたしがさっき回転した動作は奥義を発動させる条件だったんだ。偶然にも。


 何がともあれ、助かったなぁ。


「……ん?」


 前方から何か眩さを感じて、顔を上げる。


 見れば道の先は、いっぱいに光で溢れていた。それは間違いなく、天から降り注いだ輝き。


「出口だ!」


 進行を塞いでいた瓦礫がなくなっていた、という考えなど湧いてこなかったわたしはすぐに駆け出す。


 そのまま、ぴょんっ、と光の中に飛び込んだ。


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