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ネコのVRMMO世界ゆったり観光旅行  作者:
【第一章】世界旅行の始まり
19/25

17.ダンジョンについて

 高原を真っ直ぐに歩いていく。


 やがてわたしの足は、大陸を割いた大穴の前で止まった。


 恐る恐る下を覗いてみると、漆黒しか広がっておらず底が見えなかった。……落ちたらどうなって……いや、やめとこう。


 ビクビクしながら、顔を上げる。


 遥か先に見える前方の景色には、ブロッサムから見た時よりも姿を露わにさせている第三の都市があった。


 草とは違って頑丈な石の外壁。そこからいくつもの建物が顔を出して、それだけで立派な都市ということが分かる。


 うーん、早く行ってみたいな!


「――わッ!!」


 背後から急な大声。


「ほああッ!?」


 それはびっくりするしかなかった。


 あまりの驚きに、体がぐらりと前に倒れて、


「っぶねえ!」


 ガシッと羽交い締めされるように救出された。


 振り返ると、眩い光に目が眩む。


 視界を狭く変えて見てみると、そこにはガラの悪そうな顔立ちがあった。どうやら光は髪一つない肌色の頭から放たれていたらしい。


 そして、その人物には見覚えがあった。


「――ハゲのおじさん!」

「す、スキンヘッドのお兄さんな!」


 荒々しい声とは裏腹に、優しく地面に下ろしてくれる。


 何がともあれ助かった、お礼しないと。


「ありがとう!」

「いやいや、今のはこっちが悪かったんだよ」

「ごめんねぇ、この人バカだから」


 後ろから黒と赤のモヒカンさんが顔を出す。


「ほら『ツル』さん、謝って」

「悪ふざけでも今のはいけないっスよ」

「ふ、ふん! 俺、そんな悪いことしてねえもん!」


 ぷい、と顔を背けるハゲことツルさん。


 でもそれは別にいいんだ。いいんだ……けど。


「どうした? 嬢ちゃん」

「えっと……さっきツル、さん? に助けてもらった時からなんですけど、何か『警告』って書いてあるウィンドウが表示され始めてて」

「うんうん」

「何でも『ハラスメント』っていう――」


「――すいやせんでしたァァッ!!」


 急に土下座された。


「えっ、えっ? ど、どうしたんですか!?」

「あー……ハラスメントってのは、結構大きなペナルティなのさ、アカウントを停止させられちまうほどのな」

「VRMMOは痛覚以外の感覚は再現されているから、下手をすれば警察沙汰になる可能性もあるんだ。勝手で申し訳ないけど……今回は見逃してもらえないだろうか?」


 説明してくれるモヒカンさんたち。


 ……それにしても好青年だなぁ。人は見かけによらないってことがよく分かる。


「分かりました!」


 わたしは『警告しますか?』という問いにNOで答える。するとすぐにウィンドウは消えた。


「助かった……」


 顔を上げたツルさんの表情は、老けて見えた。

 そ、そんなに危機を感じていたのか……。


 早く話を切り替えてあげよう。


「そ、そういえばあの街ってどうやって行くんだろ」


 第三の街を指差して、尋ねてみる。


 この距離じゃジャンプしても届かないもんね。


「ん、知らねえのか? あそこ見てみな」


 わたしとは別の方向を指差すツルさん。


 場所は左、芝の地面の上に『それ』はあった。


 ぽこりと山形に盛り上がった土。それはあんぐりと開けられた口のようで、喉奥まで道が続いている。


「洞窟?」

「正確にゃ【橋代わりの洞窟】だな」


 周りにはプレイヤーが集まっていて、どうやらPTパーティの募集をしているみたいだ。


 ということは、一人だと厳しいのかな?


「もしかして嬢ちゃん『ダンジョン』は初めてか?」

「ダンジョン?」

「ああ、要はMOBの住処だな。内装の種類はいくつかあるんだが、今回は寄り道せずただ道なりに進んで行きゃあ向こうの大陸に渡ることができる形だな」


 ただな? と。ツルさんは続けた。


「出口は二つ、突き当たりだけにしかねえんだ。それ以外に脱出する手段はねえ。つまり回復アイテムが重要になってくるわけだ」

「ふーむ」


 MOBの住処ってことは、連戦は回避できないってことか。


 ……あれ、でも回復アイテムって持ってたっけ?


「このフィールドからこういったダンジョンが出現するんだ。一つは定位置にある……ここにある洞窟みてえなやつだな。二つ目はランダムに出現するもの。一日に一回、どこかのフィールドに出てきて、クリアすればレアなアイテムとかが手に入ったりするから行ってみた方がいいな」

「ふーむ」


 本当にまだまだたくさん遊び要素があるんだなぁ。


 世界を見て回ることが目的だけど、寄り道していいかもしれない。……というか、そうして強くなっていかないと目的を果たせないよね……。


「――っと、そうだ忘れてた」


 ふと、ツルさんが立ち上がる。


「人探しの途中だったんだよな俺たち」

「っても、もうこの辺りにはいないっスよ」

「もう諦めましょうよー」

「まだ分かんねえって! そう見せかけて近くに潜んでいるかもしれねえじゃねえかっ!」

「あ、もしかしてこの前の人探し?」


 そう尋ねると、モヒカンさんたちは大きく頷いて、


「そうなんだよ。諦めが悪いんだこの人」

「顔も性格も悪いくせに」

「そ、それは関係ねえだろうがちくしょう!」


 ぎゃあぎゃあと喚き立てるツルさん。


 そんな姿を眺めていると、視界の端に人影が映り込んだ。その先は洞窟、そこにはたくさんのプレイヤーが集まっているから当然のことだけど……なぜかわたしの顔は、反射的にそっちを向いた。


「あ……!」


 そして、その人物には見覚えがあった。


 長い栗色の髪に、どこか大人びた印象の美少女。


 軽そうな鎧にスカートと変わりない姿から、間違いなく彼女が『ナギ』だと理解できた。どうやら橋代わりの洞窟に向かっているみたい。


 まさかこんなに早く出会えるなんて! そうだ、フレンド登録してもらわなきゃ!


「あの、色々ありがとうございました!」


 ぺこりとツルさんたちに頭を下げ、走り出す。


 ナギの背中はまだ洞窟の入り口に見える。このまま急いで追いかければ中で再開できる!


「――あっ、嬢ちゃん!」


 後ろから呼ばれたような気がしたけど、わたしは追いかけることに必死で分からなかった。


 先の見えない暗闇の中に、臆さず飛び込む。


 すると、ふっ、とウィンドウが表れて、



 ――準備はよろしいですか?



 準備?


 たったそれだけの質問だったので、とりあえずYESマークをタップする。


 早くしないと、ナギから離れちゃうもん。


 そう考えた直後、だった。体が淡い光に包まれたのは。そして……この場から消滅したのは。





「あーあ、行っちまった」

「先に説明しないからっスよ? 大切なことなのに」

「お嬢ちゃんかわいそー」

「ん、んなこと言われてもよ……まさか一人で行くとは思わねえじゃん、だから『これ』はパーティ募集時に教えりゃいいと思ったんだよ」



「――ダンジョンはパーティごとにサーバーが分かれる仕組みになっていることをよ」



本日、20時頃にもう一話投稿します!

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