14.学校にて
今回はリアルパートになります。
チュンチュン、と小鳥の囀りがよく聞こえる。
窓から差し込む日差しを浴びながら、わたしは髪型と制服に乱れがないか再確認。そして、
「バッチリ……!」
鏡の自分に百点を与え、部屋を出て階段を下りる。
リビングに入ると、もう朝食が準備してあった。
「おはよ、音子」
「おはよー、お姉ちゃん!」
挨拶を返しながら、テーブルを見る。
今日はトーストにサラダ、それにコーンスープ。美味しそうだなぁ。
「……じゃなくて! お姉ちゃん今日、講義は午後からでしょ?」
「そうだけど?」
「いつも言ってるけど……まだ寝てていいんだよ? 朝早いし、ご飯も自分で用意できるから……」
「いつも言ってるけど、早く目が覚めただけよ。どうせ朝ご飯作るなら二人分作っちゃった方が効率はいいでしょ?」
「そ、そうなの……かな?」
「そうよ。ほら、早く食べちゃいなさい」
「うん……ありがと! いただきます」
お礼をすると、お姉ちゃんは頷いて応えてくれた。
なぜか、凄くご機嫌な様子で。
▽
いつもの通学路を歩いていき、学校にたどり着く。
上履きを履いて、さあクラスへ!
「おはよー!」
「イェーイ、おっはー!」
飛び込んできたクラスメートとハイタッチ。
蜜柑色の髪を後ろに束ねたポニーテール、あまり強めとは言えないギャル、そんな表現がよく似合う彼女は『世良綾乃』。見ての通り元気で派手な可愛い女の子だ。
「あやのー」
「ねこっちー」
お互いに抱き合い、挨拶を交わす。
今日という日にまた出会えたことを感謝しながら。
「まったく……いつも大げさなんですから」
呆れたような声。
見ると、紺に近い黒髪の少女が近くの席からこちらを振り返っていた。
綺麗な髪に相応しい美貌を宿した彼女は『一ノ瀬火憐』。綾乃同様にいつも行動を共にしている親友だ。
「かれーん」
「かれんっちー」
「はいはい、おはようございます」
抱き着くと頭を撫でてくれた。
真面目だけど、何だかんだでわたしたちの悪ふざけに付き合ってくれる優しい子なんだ。
『おお……今日も絶景かな絶景かな』
『美少女たちのイチャイチャほど眼福なものはない』
『今日も強く生きていける』
男子クラスメートも面白い人たちばかりだ。
たまに言っていることがよく分からないけど。
「ね、そういや音子っち昨日からVRMMO始めたッスよね? どこらへんまでいった?」
「んーとね、第二都市のブロッサムってところ」
「お、意外と順調ですね。ゲーム経験が少ない音子だからもっと苦戦すると思ったんですが……」
言い方から、二人は【Frontier World】のプレイヤーだ。わたしよりも前に始めているから、先輩だね。
……おっと、言葉を返さないと。
「うん、実はね? 物知りで優しい人に色々と教えてもらったの」
「へー! 男の人? イケメン? 美形?」
「ううん、女の子。あ、でも美形は当たってるな」
「ちぇ〜……じゃあいいッス」
「あのね綾乃、どちらにしろ目当てのプレイヤーに出会ったとしても、それは現実とは違いますよ?」
「分かってるッスぅ、冗談じょーだん! ……それでどんな人だったッスか?」
「んーとね……」
――トッ。
わたしの口は、そこで止まった。
理由は一つの足音。反射的に振り返ると、そこには栗色の髪の少女の姿があった。
火憐と近い真面目さを感じさせる彼女は秀でた美貌を持っていて、それは男子だけじゃなく女子も魅了されてしまうほどだ。
腰あたりまで流れる艶やかな髪を揺らしながらただ後ろを通過していくだけなのに、見惚れてしまう。
彼女が廊下に出て数秒経ってから、わたしたちは意識を取り戻した。
「いやあ……もう嫉妬さえできないッスねぇ……」
「本当、言葉が出てこないです……」
「綺麗な人だなぁ」
どこか大人びていて、同い年とは思えない。
――篠原優姫。
それが、彼女の名前だ。……とはいっても、知っているのはそれだけ。まだ話したことは一度もない。
どこか人を寄せ付けない雰囲気があって、それに口を開けば辛口のオンパレードらしい。だからいつも一人でいて……一部では『孤独姫』と呼ばれているとか。
『いやあ、今日も美しい……』
『あとは性格さえよければ完璧なんだけどなぁ』
『バカ野郎! 辛口だからいいんだろうがッ!』
男子たちもやっぱり気にしているなぁ。
……でも何だろう、どこか寂しさを感じるような。最近出会った誰かと重なるような……。
「音子っち? どうかしたッスか?」
「う、ううん何でもない。それより何の話だっけ」
「……何だったっけ?」
記憶が吹っ飛んじゃった。
誰も思い出せないみたいだし、新しい話を……そうだ!
「そういやさ、二人はもう第三の都市に着いた?」
危ない、聞きたいことがあったのを忘れてた。
わたしの質問に、二人はこくりと頷いて、
「「とっくの昔に」」
「うぬっ」
「あの辺りはまだ簡単だったッスよね」
「ええ、変に自身を持ってしまうぐらいに」
「うぐぬっ」
や、やりおる……。
それとも、もしかしてわたしが下手なだけ?
と、とりあえず現状を説明してみる。
「「武器」」
返答は、それ一つだった。
「スキルは十分ッスよ。……ってか正直な話、あの辺りの敵は強い武器でゴリ押せば問題ないッス」
「最初の方ですし、恐らく防御力は低く設定されているのかもしれませんね」
「うん、だから武器を新調すればらくしょーッス」
武器……んー、でもそれだけだと、
「敵の攻撃受けたら……ピンチかも」
昨日受けたダメージを思い出して、ゾッとする。
今のわたしの防具だと、敵の攻撃が掠っただけでも十分にアウトで、
「なーに避ければいいッスよ、全部」
「そ、そんな無茶な……」
「いえ、それがそうとは言い切れないんですよ」
ピンと指を立てて説明を開始する火憐。
「MOBは行動パターンが決まっていますから、次にどんな動きが来るか、と予想できればダメージを受けることなく簡単に倒せますよ」
「へえ……!」
「まあ序盤の敵限定っスけどね。先に進んでいくにつれてパターンが読めない敵を相手にしなきゃいけなかっなりするッス」
ふーむ、進めば進むほどステータス意外にも強くなっていくわけか。
でも、今は問題ない。
「それに今の段階では武器以外にはお金をかけない方がいいんですよ。第三都市からは『職人』や『プレイヤー店』などのシステムが出てきますから」
「ええと……?」
「まあ、それは行ってからのお楽しみッス」
んー、気になるなぁ。楽しみだなっ。
「もし厳しいようでしたら助けにいきますよ?」
「ウチらならすぐに駆けつけられるッスからねー」
「ありがと! でも大丈夫、一人でやってみるよ!」
……でも無理だったら、助けてください。
誤字脱字報告ありがとうございます。
そして申し訳ありません、気を付けます!