13.新大陸の洗礼
【続きの高原】
新たなフィールドの名前は、同じくシンプルだった。
【続きの高原】案内図
↑【橋代わりの洞穴】
←【キャンプ地】
↓第二都市【ブロッサム】
外に出てすぐの場所に設けられていた看板から、その情報を手に入れた。
とりあえず真っ直ぐに進んでいけば、次の都市に行くことができるんだよね。
考えながら、視界の右上に意識を向ける。
デジタル時計が表示されているその場所には【20:27】と刻まれていた。明日は学校があるし、九時前にはログアウトしないと。
整地された道を歩き始めると、ちらほら見られるプレイヤーたちに変化があった。
……みんな、初期装備じゃなくなっている。
剣や斧を振り回すプレイヤーは皮の鎧を着込み、杖や弓を駆使して戦う者は皮製のローブを身につけていた。
よく見れば武器も新しくなっているような……、
『キキッ!』
奇声が放たれたのは、そんな時だった。
見れば目の前からわたしと同じくらいの背丈をした人型のMOBが突っ込んできていた。
【ミニゴブリン】Lv.3
黒い肌をしたその生物は頭が異様に大きく、対して露出した上半身は細い。下には皮のパンツを履いていて、それだけでもわたしより防御力が高そうに見えた。
「おのれ……!」
ムっとしながら、腰の小太刀を引き抜く。
すると敵も下劣に笑いながら、手に持った棍棒を振り上げた。
『キーッ!』
先に動いたのは敵の方だった。
思い切り飛び上がり、頭上から棍棒を振り下ろしてくる。
危なげなく後ろに跳んで回避すると、一撃を受けた芝の地面が凹んだ。結構威力がありそうだ……。
「今度はこっちの番!」
でも、振りが大きい。小太刀のスピードなら簡単に隙を突くことができる。
空いた脇に向かって、刀身を走らせる!
『ギ、キァッ!?』
甲高い叫び、深々と刻まれるエフェクト。
でも、HPの減りはイマイチだった。
今までの敵は半分近くまで持っていけたけど、今回は二割ほどしか減少していない。まあ倒せないほどじゃないけど――
『『キキッ!!』』
一対一、での話なら。
ザッザッザッ、と芝を踏みつけてフィールドの中から駆けつけてくる二体のミニゴブリン。
さ、三体一……これはさすがに……。
『キイッ!』
『ギギィッ!』
『キイイィッ!』
「さよならっ!」
ブンブンと風を切る音を背中に、わたしは必死に来た道を引き返す。
その途中、棍棒の先端が掠めてHPが二割ほど減少。……掠めただけなのに確かなダメージ。【始まりの高原】のMOBとは強さが比べものにならない。
んー、ここからが本番ってことなのかな。
そう悩みながら草の門を潜り抜け、街に到着。
……先ほどお礼を告げて出て行ってから、二分後の帰還。凄く恥ずかしいです。
さて。それはそれとして、花の香りに包まれながら今後について考えよう。
スキルレベルについてはこのままで大丈夫……だと思う。優先すべきは、武具の強化。
今装備している『初心者用の小太刀』の攻撃力は『+1』、防具である『最低限のシャツ』と『最低限のパンツ』もまた『+1』の防御力。
さ、さすがに変えた方がいいなぁ……。
商店街に置かれていた武器屋を訪れてみる。
店内は商品がガラスケースの中に置かれている点は雑貨屋と同じだけど、カウンター内は違った。
こちらから工房が見える形となっていて、中では筋骨隆々の男たちが汗水を流しながら陽炎の世界で作業をしている。
なんて花の都市に相応しくない光景なんだ……と思わず怪訝な顔を作りながら、ガラスケースを見て回る。
並べられていたのは、多くが初心者用の武器。何かミスをして売っちゃったり無くしたりした人のための措置なのかな? 値段も凄く安い。
中でも効果なのは、内側に置かれたガラスケース。そこには新たな種類の武器が、それぞれ一列に並べられていた。
【小太刀・風丸】ランク:F 《500G》
攻撃力+3
効果
ーー
【小太刀・忍鉄】ランク:F 《1000G》
攻撃力+6
効果
ーー
小太刀のゾーンには、その二つが。
う、うーん……今はどっちも買えないな。これに防具を加えるとなると……ぐぬー、お金が欲しい! もう少しクエストの報酬金を考えて使えば、
――あなた計画性がないのね。
ぐさり、と。以前言われた言葉が胸に突き刺さる。
がふっ! ……ナギ、元気かなぁ。
でも確かに、ちょっと計画性がなさすぎたかも。世界旅行を続けるためには、欲望のままに行動するのはいけないんだ。そして強くならないと。
そう学んだ直後、右上の時間が【21:00】に。
……だから、ちょうどよかった。
「明日、『みんな』にいい方法を聞いてみよう」
そう考えに至り、今回はログアウトすることに決めた。