10.5.合流する姉たち
「おーいヒトフデ〜」
大きく手を振りながら、ヒトフデの元に女性のプレイヤーが駆け寄ってくる。
ヒトフデとは大きく能力が異なる漆黒のフードに身を包んだ彼女は、
「あら、遅かったのね『マホー』」
リアルの親友ことマホーに、そう挨拶を返した。
「いやあちょっと紹介したい子がいてね」
じゃん! と、横飛びをするマホー。
開けた先には、一人美しい少女が立っていた。
ヒトフデが目を凝らすと、彼女の頭上には『ナギ』と名前が刻まれている。
「自慢の妹でーす!」
「……はじめまして」
対照的な態度で口を開く美少女。
「ええ、どうも」
ヒトフデもまた、冷静に言葉を返した。
「ナギ、ね……」
だが、ヒトフデは一つ疑問を覚えていた。
「ねえマホー、何でこの子がその名前なの?」
するとフードの彼女は、よく聞いてくれた、とばかりに満足そうな顔を作った。
「ふふふん。ほら、オンラインゲームって個人情報出せないでしょ? 自分の名前を出せないなら、お姉ちゃんの名前を使いたいってこの子が」
「勝手に話を作らないで。姉さんが自分の名前を使ってくださいって、札束を差し出しながら頼んだじゃない」
「アンタ、そこまでして……」
親友の怪訝な瞳を顔を背けて回避するマホー。
そんなやり取りにため息をついて、ナギは振り返った。
「用が済んだなら、私もう行くから」
「えー、もう行っちゃうの? ちょっと話でも」
「興味ないから、さよなら」
素っ気なく返して、ナギは去っていった。
「……何だかクールな子ねぇ」
「可愛い子でしょ」
「そうね。……そういやあの子が出会った子も同じ名前だったような、でもそれにしては性格が……あの子は優しい子とか言ってたけど、そうは見えないわよね……」
「ん、何か言った?」
「ううん何でもない。それよりも、さ」
言いながら目を凝らすヒトフデ。
「アンタたちって名前のつけ方が単純すぎない? 自分の名前を使うとか、魔法を使いたいからマホーとか、もっと捻りなさいよ」
「イニシャルが一筆書きで済むからヒトフデ。そんな人に言われたくないけどな。……それよりも」
今度は、マホーが話を変えた。
「――『いた』?」
その問いに、ヒトフデは首を横に振るう。
「いない。というかあたしたちの力で見つかるなら、すでにもう人集りができてるでしょ」
「それもそっか」
お互いにそんな会話を繰り広げ、歩き出す。
「気になるなぁ、どんな人なんだろ?」
「結構若いとかネットで情報があったわね」
「私たちと同じくらいかな?」
「さあ、どうかしらね」
やがて二人は、一つの答えを導き出す。
「「――『漆黒』」」
とある、伝説のプレイヤーの異名を。