9.第二都市【ブロッサム】
目を覚ますと、黄色の景色が広がっていた。
すぐ側にある天井と壁を見て、ここがテントの中だった、ということをすぐに理解する。
外に出ると、眩しい日差しが視界を襲った。
リアルは夜だから、ちょっと不思議な感じだなぁ。
バックパックを背負いテントをしまうと、わたしはキャンプ地を出た。
ちらほら見られる同じ初心者プレイヤーたちの狩りを横目に、わたしは第二都市に向かって歩いていく。
進んでいくにつれて、道の先に見えていた影が露わになっていく。
先端の丸まった緑色の壁が、一切の隙間を生み出さずにいくつも聳え立っていた。さらに近づくと、それらが草で作られている、ということが分かった。
その先の景色は遮られていて、分からない。唯一のヒントは、草の壁からはみ出た建物の頭。
つまり、中に街がある。
たどり着いた草の門を潜り、先ほど見た木々よりも巨大な草のアーチの中を進んでいく。
そして、ついにゴール地点へと足を踏み入れた。
――花。
感想がその一言で埋め尽くされるほど、花だった。
道の端、建物、壁の内側……様々な箇所に設けられた花々は色彩豊かな輝きを放っていて、都市全体に莫大な美しさを与えている。
「綺麗……!」
自然と足が、ふらふらと近くのガーデンに向かう。
どうやら色や形以外も細かく再現しているようで、柔らかな香りが届いてくる。
ふわりと、心を優しい気持ちにさせてくれるなぁ。
「――あっ、いたいた」
ふと、女の人の声が。
見れば街の中から女性のプレイヤーが一人、こちらに向かって歩いてきた。
わたしと同じ黒髪をした彼女は、女性にしては高い身長を持っており、現実に寄せているなら美しいだろうスタイルを今は鋼鉄の鎧に隠している。
「やっほー、ネコ」
女性は、ぽんぽんと籠手でわたしの頭を叩く。
「というかアンタ、名前なんの捻りもないわねぇ……」
「あ、う、お、お姉ちゃん、です、か?」
「なーんで疑問形なのよ。仮想体の特徴教えたでしょ? それにプレイヤー名も」
声も違うけど……うん、これはお姉ちゃん本人だ。
でも、プレイヤー名は確認のしようが、
「? ……ああ、なるほどね」
何か理解したように頷くお姉ちゃん。
すると自分の頭上を指差して、
「目を凝らして見てみなさい?」
「へ? う、うん」
言われた通りに、ジッと見つめてみる。
直後だった。ブゥン、とお姉ちゃんの頭の上に複数のアルファベットが出現したのは。
それは『Hitohude』――ヒトフデ、お姉ちゃんのプレイヤー名がそこには刻まれていた。
「見えた!」
「でしょ? このシステムは便利でね、プレイヤー名意外にも識別ができるのよ。例えば街の中で使うと施設の場所を確認できたり、とかね」
確かに凝らしたまま周囲を見ると、露店や建物の上にそれぞれ名前が浮かんでいる。これならすぐに自分が行きたい場所にいけるなー!
「さて、それじゃ早速フレンド登録しましょ」
「うん」
指示通りにウィンドウを開き、従って操作をすると一分もかからず登録が完了した。
「かんたーん」
「そうねぇ」
お姉ちゃんはこくりと頷いて、
「……あ、そうだ。ついでにステータスの確認してあげるわ。新しい都市を抜けるたびにMOBの強さは変わってくるし、有意義に旅をしたいなら相応のスキルとレベルを身につけた方がいいわ」
「! そっか、そうだよね」
ここから先は、少し前に戦ったビッグボアよりも強い敵が出てくるんだ。弱いままじゃ旅ができないもんね。
「まずウィンドウを表示、それと誰でも見れるように可視化させて――あ、確認が終わったらちゃんと戻すのよ? ……それじゃステータス開いて」
指示通りにタップしてみる。
「おっ? ……へぇ……」
あれ? 意外な反応。
てっきり、スキルレベル低いわねぇ、と小馬鹿にされると思ったんだけど……。
「意外……アンタ色々と武器使ってんのね」
「武器? あ、そっか」
そういやさっき、いっぱい使ったなぁ。
「なるほど、自分に合う武器を探してたわけね」
「うん、自分のためにね」
そうそう、コーヒーを飲むために使ったんだ。
「それで結果はどうだったの?」
その質問に、わたしは苦笑いで返すしかなかった。
「あんまり美味しくなかったなぁ」
「ったり前でしょうが! なんてモン食べてんの!?」
なんか凄く勘違いされた。




