『ジークの長い一日:再集合』
「で、本当にジークは関係ないのね?」
「本当だって。そもそも最近はジョゼリアにも来ていないし商業区に来るのも久々なんだ」
先ほどできたばかりの舎弟と別れ、改めて小道具屋に向かった俺たち。
その店へ着くまでの間、ずっと二人に胡乱げ目で見られていた。
最終的には信じてくれたが、小道具屋に入ったあたりで、また疑心が浮かんだらしい。
「だいたい窃盗集団らしいじゃないか。俺がそんなの作ると思う?」
「……ジークは窃盗なんてしない。誰に言われたって、あなたはそんなことしない」
「そんなに信頼してくれてるのか……」
「でも変な集団作ったって言われたら、納得しそうだけど」
「そういう信頼もあるんだね!?」
委員長の信頼が辛い。そうか、俺、結構怪しいって評価なんだ。
ちょっと落ち込む俺を見て、リリーナが肩を叩いた。
「大丈夫よ! 私もシルヴィも、そんなあんたに助けられたんだから」
「リリーナ?」
「怪しくて、変わってるけども、ジークは信頼してる」
「あのね、リリーナ。さっきからフォローになってないんだ。そういうのはとどめって言うんだよ」
俺のどこが怪しいと言うのか。むしろ二人は感謝してもいいはずだ。
俺は二人に起こる悲劇を回避するべく、闇に紛れて奔走した。何ももしなければシルヴィの家は理不尽な借金を抱えてたし、リリーナなんて誘拐されて兄を殺されていたんだ。
だから俺は黒い覆面に黒いマントで、短剣片手に悪人たちをバタバタとなぎ倒したんだぞ。どこが怪しいんだ。
……十分怪しいじゃねえかバカヤロウ。
『ジークの長い一日:再集合』
「さて、もうそろそろ時間だし、行きましょうか」
シルヴィが腕時計を確認する。時刻は十一時半。ちょうどいい時間だった。
プレゼントを購入し終えた俺たちは商業区を出て、食堂街に向かう。
「結局無難なものになったわ」
「仕方ないんじゃない? リリーナのアレよりいいと思うよ?」
「ボトルシップの何がダメなのよ!」
「いや、完成品ならいいけど、一から作るタイプは厳しいだろ」
「難しいようなら私が教えてあげるわ! 手取り足取りね!」
ドヤ顔で胸を張るリリーナ。ちょっと顔が赤い。なるほど、それが狙いですか。
それにしても、自分は得意だからいいだろうけど、プレゼントで緻密な作業は辛い。
しかも、リリーナが選んだのは上級者向けのガレオン船。組み立ててるうちに発狂しそうだ。
「最初はキャラベル船の方が良かったかしら」
「……ありったけの何かを探し出しそうなチョイスだな」
「何それ?」
「いや、何でもないよ」
この話はやめとこう。意味もなくするには怖い内容だし。絶対リリーナには伝わらないし。
そんなことをしてるうちに梱包が終わったらしい。シルヴィがプレゼントを持って戻ってきた。
「何の話をしていたの?」
「ガレオン船じゃなくてキャラベル船がいいよねって話よ」
「帆船ならスループ型がシンプルでいいわ」
シルヴィ詳しいな。というか、そういう話じゃない。
「そんな渋いチョイスじゃフィリアが困るよ……」
「あんな置物を選んだあなたに言われたくないんじゃないかしら」
「全くよ!」
え、いいじゃん。六足熊の可動フィギュア。
つぶらな瞳が良くない?
————
「あ! みんな戻って来たよ」
「お、やっと来たか」
「意外とかかりましたね。遅いですよ」
食堂街の入り口に向かうともうフィリアたちが待っていた。
プレゼントを今見せるわけにはいかないから、馬車駅のちかくの倉庫に預かってもらった。そのせいで時間ギリギリになってしまったのだ。
「せっかちね。時間ぴったりじゃないのよ!」
「いえ、1分くらい遅れてるわよ。みんな、待たせたわね」
人が増えて一気に賑やかになる。最初はデートのつもりだったが、こう言うのも悪くないな。
……今考えて見たらカインたちが来なければ女三人に男一人だったのか。それは流石に気まずいな。カインたちには感謝しとこう。心の中で。
「……で、委員長。肝心のものは手に入りましたか?」
「ええ、もちろん完璧よ」
「それは良かった。ジークに選ばせると聞いたときは正気を疑ったんですよ」
「本当に二人には感謝してるわ。ジークを過信してたらと考えるとゾッとするもの」
あの、二人とも聞こえてますけど。
シルヴィとアルトはフィリアにだけ聞こえないようにヒソヒソと話していた。
その言い草はなくない? 俺だってちゃんと選ぼうとしたらできるんだよ?
あの時は三人バラバラの物を選んだほうがいいかなと思ってあれにしたに過ぎないんだ。
「そんなことないわよ。あなた時々ひどいもの」
「……え? 俺声に出てた?」
「いいえ。顔に出てたわ」
なに、その能力。リリーナといい、みんな顔色読むの上手くない?
「恋する乙女はよく見てますね……」
「ば、バカ! アルト何を言っているの!?」
「おや、ちょっとしたカマかけだったんですけども」
「な、じ、ジーク! 間に受けちゃダメよ!」
間に受けます! 大丈夫、知ってるから! 好感度で見てるから!
顔を真っ赤にして、アワアワとしているシルヴィ。普段じゃ見れない姿だから、可愛くて仕方がないぞ。
この一番楽しい時間、できれば長く続けたい。そんな時はこうすればいい。
「……え、何のこと?」
「……はぁ、このバカ。何でもないわ」
「急にバカってなに!?」
ザ・鈍感系ロールプレイ。
相手のことを知らないままにコレを行うのは諸刃の剣だが、知っていればコレよりいい誤魔化し方はない。
現代日本の先輩方たちよ。真似させていただきます。
そんな俺たちの様子を見ていたアルトがくつくつと笑っていた。
「ジークは相変わらずですね」
「お前も俺をバカと呼ぶの!? 一応学年主席なんですけど!?」
「そっちではありません。そのゲスっぷりがいつも通りということです。楽しんでますね、青春を」
「……え」
え、バレてる? 俺はアルトと肩を組んでシルヴィたちから少し離れる。シルヴィが訝しんで見てくるが気にしない。
「……アルト、俺たちの関係どこまで把握してるの?」
「どこまでを聞いているんですか? 委員長とアデラインが君を好いていて、君がフィリアを好きになり始めているところまでですか?」
「ほとんど全部知ってる!」
「君が何を心配しているかわかりませんが、フィリアを狙うならあの二人がフィリアを好いても別に問題ないんじゃないですかね」
「ほとんどじゃなくて、全部知ってた!?」
おそるべし、ゲーム的説明書キャラ。観察眼がすごい。
「そんなことよりも、僕は少し気になることがありましてね」
「待って待って、これ以上関係性を解剖しないで! 心の準備ができていない!」
「いえ、そっちの話ではないのですが……」
なんかこっそり追っかけしているアイドルのブロマイドを親に見られた気分だ。恥ずかしくて悶絶しそう。
ひそひそ話をしていると、フィリアとリリーナたちの話し声が聞こえて来た。
「そういえばフィリア、観光は楽しかったかしら?」
「うん、楽しかったよ! 服屋に、雑貨に、魔具屋に、鍛冶屋に」
「女の子を鍛治屋って……。カインのセンスもどうなってるのよ?」
「ちげぇよ。フィリアが行きたいって言ったんだ。一緒にするな」
ちょっと待って、何気なくだけど俺のセンスがディスられたよね?
「ふふ、ちょっとね……。それにあれも面白かったよね?」
「あれって……あれか? 面白いっていうのか?」
「何があったのよ? ちゃんと教えなさいよ!」
なんだか気になる話をしているが、今はそれどころじゃない。
アルトにどうにか口止めをしないと。賄賂はさっきの六足熊でいいかな……。
「勧誘にあったんだ。たしか『漆黒の千刃』っていってたよ」
「今なんていった?」
俺は思わず反応してしまった。
フィリアから聞きたくないワードが出てきた気がする。