『決着!? 魔王系ヒロイン(仮)』
「はっ、ほっ、よっと、全然魔力切れ起こさないね! 保有量も神童なのかな!」
「あいにく魔力の多さだけは誰にも負けない自信があってな!」
反撃開始とはいったものの、俺の攻撃はことごとく躱された。かれこれ数百は魔法をぶっ放しているが、有効打は一度もない。
今ではより洗練された動きで魔法を回避し、切り裂いている。その姿は竹林を飛び交いながら踊っているようにも見える。戦いでなければ見惚れているところだ。
「つうか鉄球を割るってどんな剣術なんだよ!」
「魔法でできた鉄球なんて、コツ掴めばチョチョイだよ!」
「全然意味がわからねぇ!?」
時折凍結や鉄球などをおり混ぜているが、全く意味をなしていない。属性に関係なく切られたら真っ二つなのだ。
だがとりあえずはそれでいい。今危惧するべきは、フィリアからの接近戦。近づかれた時点で俺の勝ち目がなくなる。
それに、俺もただ考えないしに魔法を乱射しているわけではない。物量で押し込めればよかったのだが、そんなにフィリアは甘くなかった。俺は左手で魔法を乱射しながら、右手の剣にこっそり魔力を流し込んでいた。
よし、準備完了。
「……ん? 魔法がやんだ。やっと打ち止めかな。それともその剣で何かするのかな?」
どうやら剣の方はバレていたらしい。こんにゃろう、舐めプしやがって。
再び、地面と平行に竹へと着地したフィリアはこちらの様子を伺っている。相変わらずどうやってるかわからない軽業師みたいな立ち方だ。
「サプライズのつもりだったが、バレてたみたいだな」
「ふふ、魔力に対しては敏感だからね。そんなに魔力を込めてたらわかるよ」
フィリアは勝気に笑うと、とがった耳をぴこぴこさせた。ぐぬぬ、悔しいが可愛い。
彼女は竹にもたれるように体勢を直した。剣をかざし、指揮者のように左右に振る。周囲の竹が勝手に折れて宙を舞った。
それらは身の丈ほどの長さで切れて、フィリアの左右に整列した。まるで翼のようだ。無数の槍と化した竹槍は、その矛先を俺に向け、射出を今か今かと待つ。
「今度はこっちの番だね……!」
剣を振りかざす。無数の槍がきりもみを始めた。悪いけどそれを待つつもりはない。チャンスは今。
「そうはさせるか! 食らえ拡張剣!」
俺は一気に剣に魔力を込めた。剣が光を放ち始める。そして、巨大な白刃を形成した。
なんてことはない、馬鹿みたいに魔力を込めて刃を作ったにすぎない。強度的にはせいぜい鉄程度。
しかし、長さは10メートルある。こんな剣を縦横無尽にぶん回したらどうなるか。
「さっき見せてた型だ! 避けれるもんならよけてみな!」
「嘘だよね!? ほんと、魔力量どうなってるの!?」
何度やったかかも覚えていない、剣の型。それを速さも、鋭さも今日一番の仕上がりで繰り出す。
竹林は、無数の光の筋に包まれ、そして爆ぜた。
『決着!? 魔王系ヒロイン(仮)』
型をしながらフィリアに突き進んだため、小さい公園ぐらいの空間ができてしまった竹林。周囲に無数の竹の破片が転がっている。あまりに積もりすぎた破片は地面を一段高くしていた。
一際高い破片の山がある。その上にフィリアは立っていた。左右に浮かばせていた竹はなくなっていた。どうやら細切れにしてしまったらしい。
「まさか、こんな隠し技があったなんて」
「そんな大したことではないさ。炎の英雄もよく使ってた技だ。有名だろ?」
おれは剣を肩に担ぎトントンと叩きながら答える。ぶっちゃけ結構頑張る技だから、疲労がすごい。
そんなことを悟られないように、不敵な笑みを見せ続けた。
「おとぎ話の再現をできるってのは中々なんじゃないかな……」
「そんなことはない。現にフィリアを倒しきれなかったし」
「それは嘘。当てる気なかったでしょ? だって私のほうに明らかに攻撃が来なかった」
いや、当てるつもりでした。竹は切れても人体には打撃程度にしかならないはず。そう調整したから……。
「……あれ、あのカラクリって、もしかしてこれ? むずくない?」
「何をいってるの?」
「いや、こっちの話。とにかく、やっと下ろせたぜ。フィリア」
「ありゃー……。そういうこと。でも地上におろしたからって勝てるとは思わないでね」
フィリアが再び剣を振るう。するとあちこちに散乱している竹の破片が動き始めた。
俺の乗っていた破片も動き出した。慌てて跳びのき、破片から離れる。それらはフィリアに向かっていくと巨大な一本の流れになって渦を巻き始めた。
やがてそれは太さだけで身の丈を超える大蛇に変わった。鎌首をもたげ眼らしきくぼみをこちらに向ける。くぼみの暗がりから赤い魔力の光が漏れ瞳のように輝いた。
「……フィリアって四英雄の生まれ変わりかなんかなの?」
「さあ、どうだろうね! これを受けて確かめたら!」
フィリアは俺に剣を向けた。押し迫る竹の大蛇。食らったら終わりだろう。
とっさに剣を構える。今さっき覚えた技の実証。一発本番に不安はあるが、必ず成功させる。というか成功してくれ。
上段に剣を構える。大蛇は俺を食らわんと口を開けた。ご丁寧に口内には一対の牙が生えている。
もう逃げるのは間に合わない。フィリアは勝ちを確信した表情。おい、謎ヒロインその表情はちょっと早いぜ。
「おりゃああああああ!」
大蛇が俺を飲み込む寸前、俺は剣を振り下ろした。
それと同時に大蛇は縦一文字に裂け、左右に分かれた体は竹の破片に戻りながら俺の後ろに吹き飛んでいく。
「な、なんで!?」
「隙ありィィィ!」
あっけにとられているフィリアに俺は突っ込んでいく。竹の大蛇はまだ体を崩し続けている。このうちに一気に仕掛ける!
簡単なことだ。フィリアにされた魔法切りを俺もやったのだ。
魔法切りとは相手の魔法のクセに自分の魔力を流し込んで、魔法自体を解く技とみたり。本来なら暴発するそれを、繊細な魔力のコントロールで破裂させずに行うのだろう。
まさに先ほど行った拡張剣と同じ。人体を切らずに竹だけを切るのと同じ理屈。
しかし それを行うのは非常に難しい。急に飛び込んでくる魔法のクセを即座に解析するなんて、人間業じゃない。きっと魔法への感応が高いあのとんがり耳だからこそやれる荒技。
だが、攻撃を見極めるために、解析し続けていたこの竹なら、俺にでもできる。一発本番だが上手くいってよかった。
「くっ、このぉ!」
「さすがだな! これを受けるか!」
俺の突撃は受け止められた。焦った様子のフィリアだが、口角を上げて挑発してくる。
「さすがに危なかった。でもまだ詰めが甘いね……!」
「そうかもな。ところでフィリア、背後に注意だ」
バシンと不意に音がなる。その音にフィリアが振り向いた。まだ破片に戻り続ける大蛇の胴に突き刺さった俺の鞘が今にも爆発しそうに光っていた。
「実はあれ、杖代わりにも使っている。フィリアの剣も同じだろ?」
「っ! やっば……!」
鞘が巻き込まれていたのが幸いしたな。竹って素材なのもよかった。岩か鉄ならそうはいかない。
「暴発は簡単だな。強引魔力を流し込めばいい」
俺は一気に魔力を流し込んだ。耳をつんざくような音ともに、大蛇の胴が爆発する。フィリアと俺は吹っ飛び地面を転がった。俺はフィリアを盾にしてたが、直撃を受けた彼女は中々のダメージだろう。
「……はぁ、はぁ、俺の、勝ちだな」
勝った安心からか、張り詰めていたものが切れたらしい。急に息が切れた。
俺は転がった半分になった鞘を拾い上げた。真ん中辺りからボッキリ折れて、しかも所々焦げている。
「これは新しいの買わないとダメだな。さて……」
中腹から先が飛び出てしまう鞘に剣を収めると、フィリアを起こすべく歩き出した。フィリアは、うつ伏せになったまま起きようとしない。気を失ったのだろうか。
「……けない…………られない……」
フィリアが何やらボソボソいってる。どうやら意識があるようだ。急いで近づこうと思ったその時、異様なほどの魔力の高まりを感じた。
「負けられない……!」
今度ははっきりと聞こえたフィリアの声。その魔力の高まりはフィリアが起こしているものだった。
彼女の左手が地面を握る。その手は一瞬、鱗が浮かび上がったように見えた。