6:敵の拠点を攻める時って、侵入ルートを考えるのが一番楽しいです。
「えー、さっそくですが。ホノカくんには殺し合いをしてもらいます」
お師匠さまは言いました。
◇ ◇ ◇
さてさて。
ギルドで依頼を受注して、繰り出したるは隣村。
村は人口百人ほどの、小さいんだか普通なんだかよくわからない規模です。
こちら、ギルドのある大きな街を中心にして、寄り添うようにぽつぽつ点在する小さな村のひとつのようで。
こういう風に、大きな街を中心にいくつもの農村がセットになっているのは、よくあることだそうです。
村で起こった問題は、中心都市のギルドに持ち込まれるのだとか。
この辺の地域は国に属さない共同体だそうで。
よくわかりませんが、ようは自分らでなんとかするのが基本だそうです。
で、わたしたちが受けた依頼はなにかと言いますと――
「あいつらを……っ、あいつらを殺してくれぇっ!」
憎悪に満ちた声が、あちこちから上がります。
依頼を受けたことを伝えて、通された村の集会場での第一声がこれです。
うわーい。穏やかじゃなーい。
「お師匠さま、お師匠さま。どういうことですか?」
「どうもなにも、俺たちが受けた依頼の話だが」
「依頼……」
ふぅむ。ということは――
「ああ、あれですか。ゴブリンが村の作物を荒らすから、駆除して欲しいとかなんとか」
「近くに住み着いた山賊が、食料を奪うわ村の娘をさらうわでやりたい放題らしい」
「うわーい、ガチのやつだったー」
さらってるってことはまぁ……そういうことですよね。
今にして思えば、逆に村娘にこき使われるウーロン先輩は紳士的だった……。
集会所には村民のほとんどがそろっているのでしょう。
しくしく泣いているご婦人は、娘をさらわれた方でしょうか。
うーん……?
あっれれー、おっかしいぞー。
ダークファンタジーよりも、こう、ポップで和製RPGみたいなのを想像していたんですけど。
「おねげぇします、銃士さま! 村の娘を助けてくだせぇ!」
「あんたたちが希望だ、銃士さま!」「頼んます、銃士さま!」「銃士さま!」「銃士さま!」
軽く救世主扱い。退くに退けない雰囲気です。
「現金収入が乏しい農村だからな。なけなしの依頼金をかき集めたんだが、額が低い割に相手が悪質だから、誰も依頼を受けてくれなかったらしい」
「それならそれで、自分たちで銃を用意して頑張る、とかって案はなかったんですかねぇ」
「と、とんでもねぇ! 死にに行くようなもんだ!」「かなうわけがねぇ!」
むむむ。
自分たちが手こずる相手を、こんな可愛くてか弱いJK(心で思うならタダです)に押し付けようとは、この人たちも大概な気がします。
「まぁ、そこはしょうがないんだよ。強化素子で超人化されてる人間に、ノーマルの人間が敵うわけがない――それが一般的な認識だ」
「はぁ、そういうもんですか。……ん? ていうことは、この人たち全員……」
「強化なしの、普通の人間だ」
てっきり、誰もがステータス強化されてる世界だと思っていましたが、そんなこともないようで。
なるほど。そうなると、強化された能力を使って悪事を働く不届き者がでてくるのも頷けます。
だからこそ、ギルドを介した討伐依頼というシステムが成り立つのですね。
「それで、村長。やつらの拠点はわかってんのか?」
「近くの川をさかのぼった場所にある砦がそうです。昔、この辺も戦渦に巻き込まれた頃に建てられたものなのですが……やつら、食料と金を出すのをやめたら、川に毒を流すとまで言ってまして……」
「なるほど。命綱を握られちまったわけだ。――ま、安心しろ。今日中に、こっちでなんとかするから」
おおぉぉ、と村人たちが興奮気味にどよめきます。
頼もしいこと言ってますけど、この人、わたしにやらせる気ですからね?
◇ ◇ ◇
時間は少し過ぎて。
太陽がだいぶ低くなり、山肌がオレンジ色に染まる頃。
わたしとお師匠さまは、山賊が拠点にしているという砦が見える丘までやってきました。
「見えるか? ホノカ」
「うーん……城壁の上に見張りが一人。東側ですね」
現在、《鷹の眼》のスキルを使って状況を確認中。
砦はそう大きなものではなく、数十メートル四方の土地をならして、三メートルほどの高さの外壁で囲った、くらいの単純なものです。
外壁の出入口は一か所で、重そうな門で閉ざされてます。
背後は岩肌で、そこに接するように二階建ての建物が一軒。
これは、ちょっとしたお屋敷くらいの広さでしょうか。
「あんまり、建物らしい建物もないんですね」
「物資と兵士輸送の中継地点だったんだろ。兵士はテントでも張って野営させて、指揮官だけ建物の中っていう感じだろうな」
「今もそうみたいですね」
外壁の内側には、テントが十張ほど設置されてます。
「少なくとも、テントひとつにつき一人はいますよね。親玉は建物のほうですかね」
「護衛も一緒だろうな。敵は十五人前後と見といた方がいい」
「うへぇ……」
それをわたし一人で相手しろと。
「お師匠さまはわたしをなんだと思ってるんでしょう……」
「まぁ、そう言うなって。強化素子持ちを倒せば、相手が貯蔵している強化素子を奪える」
「経験値ってことですか」
「経験……まあ、そういう感じだ。ただ、定着している部分は奪えないぞ。スキルにも使ってない分だけだ。だから、人から奪う場合は当たり外れが大きい。――ま、強化しまくってるやつほど、余分に貯蔵しているケースが多いけどな」
お師匠さまが気前よくわたしにくれたのが、そういう貯蔵分ということなんでしょう。
うーん……ステータス上がるの、楽しくなってきたし。使ってみたいスキルもいっぱいあるし。
ここは腹をくくりますか。
「それじゃ、ぼちぼち行ってきます」
「おう。手順は考えたか?」
「ええ、まあ。さって行って、どがぁ! ってやって。後は流れで」
「アバウトだな……まあ、いいが。どうせ予定通りに運ぶってもんでもないしな。行ってこい」
「あいあいさー」
お師匠さまに軽く敬礼して、わたしは森の闇へと紛れていきました。
◇ ◇ ◇
《パルクール》スキルのおかげで、凹凸のはげしい森の中もスピードを落とさず、全力疾走で駆け抜けます。
間もなく砦の外壁に到着。
木の陰に隠れて様子を伺います。
見張りはあまり仕事に身が入っていないようで、あくびなどしています。
適当な石を拾い、投擲。
離れた場所の木に当たり、カツッと音を立てます。
「んあ? なんだぁ……?」
見張りの視線がそれた隙に外壁へと疾走。
一歩、二歩と壁面を駆けあがるのはお手の物。
軽々と壁の上に到達して、音もなく着地。
見張りへと突っ込むわたし。
かすかな気配に気づいたか、こちらを振り返ろうとする見張り。
助走からの跳躍。
その目がわたしの姿を映すとほぼ同時、わたしの膝が見張りの顎にクリーンヒット。
脳震盪を起こして倒れる見張り。
大きな音をたてないよう、支えてゆっくり寝かせます。
腰からお師匠さまに借りたナイフを抜いて、喉をすぱっと。
「ひとーつ」
身を低くして、砦の中の山賊を確認。
椅子に座ってだべっている者、夕食の準備をしている者、隅っこで用を足している者――は見たくなかったです……。
脳内にテントの配置を思い浮かべて、敵を置いていきます。
後は、それぞれの死角になるように効率的に回ればOK。
「ふむふむ。あっちから攻めて、こう回り込めば――――よし」
頭の中でシミュレートした流れを実行に移すべく、わたしは外壁から飛び降りました。
明日から基本、一日一話、昼12時頃更新になります。
次回はわりとバイオレンスです。