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5:うさぎ最強説と、はじめてのクエスト。


 拝啓、おかあさん。

 ホノカは今、狩りの最中です。


 狙うのは、ぴょこぴょこ跳びはねて動く毛玉――うさぎです。


 うさぎはかわいくて好きなので、最初は少し気が咎めました。

 でも食べてみたら割とおいしかったので、もっと好きになりました。

 愛でてかわいく、食べておいしい。

 うさぎって、もはや最強なのでは。


「――ゆるせ、うさ公。これも自然界のことわりなり」


 ナムサン。

 心の中で合掌。


 ゆっくりと、引き絞るように引き金を引きます。

 パン。

 破裂音と同時に、反動がわたしの肩をノック。


 飛びだした銃弾はうさぎに命中。

 やったぜ。今夜はうさぎ鍋だ。


 シュタ。

《パルクール》スキルのおかげで危なげなく木の上から飛び降りるわたし。


「ふー。今日はこんなところでいいですよね。――っと、そうだ。ステータス、ステータスー」


【ホノカ・エンジョウ】

 女

 STR(膂力) : 16

 AGI(敏捷性): 54

 DEX(器用さ): 36

 PER(知覚) : 51

 END(耐久力): 28

 INT(知性) : 2

 総合値     :187/200

 Lv.12

 スキル

 ・《パルクール》Lv.2 ◆◆◇◇

 ・《精密射撃》 Lv.1 ◆◇◇◇

 ・《鷹の眼》  Lv.1 ◆◇◇◇


「おっ! 《精密射撃》、次のレベルに上げられますっ!」


 この一週間、食料の調達係を頑張った甲斐があったというものです。

 狩りで獲物を探して森を飛び回ってる間に、特に敏捷性と知覚がメキメキ伸びました。銃を使ってるうちに、器用さもそこそこあがったみたいです。


《精密射撃》は器用さが要求値になるステータスで、これは師匠との追いかけっこの後ですぐに取得しました。

《精密射撃》スキルを次のレベルに上げるには器用さが35必要です。


「あ、でもポイントが足りないや」


 段階的にレベルアップするスキルは、取得に必要な強化素子が2倍ずつ上がっていきます。

 レベル1なら10、レベル2なら20、レベル3なら40――という具合です。

 レベルが上がるほど、より遠くのまとにも安定して当てられるようになります。

 レベル1だと大体、5メートルでほぼ命中、10メートルだと五割、というところでしょうか。

 使っているのがろくに整備されていなかった、ひげもじゃからパクったリボルバーなのもありますが、拳銃の命中精度というのは、この程度らしいです。


《鷹の眼》は知覚系のスキルで、遠くのものが拡大して見えるようになります。狩りの時に便利。

 スコープいらずのズーム機能というところでしょうか。

 これがあれば、テストでカンニングし放題だったのになぁ。


「強化素子の予備分がもうほとんどないですね……お師匠さまに追加で注入してもーらおっと♪」


 意気揚々と仕留めたうさぎを持っておうちに帰るわたし。

 だったのですが――



   ◇ ◇ ◇



「あん? やだよ。もうやらねーよ」


 にべもなく断られました。

 がーん、です。


「なんでですか!? わたし見捨てられたですか!? 要らない子ですか!? 見捨てないでくださいましっ! ……はっ! まさか……」

「なんだよ?」

「……エロいこと要求するつもりですか? エロ同人みたいに!」

「しねぇよ。なんでおまえの頭の中、ちょくちょくピンク色に染まるんだよ。あと、エロ同人てなんだ」


 夢とロマンとリビドーの結晶です。


「エロ同人の話はいいんですよ! 人がまじめに話してるのにっ!」

「あっれー、おっかしいな。なんで俺がキレられてんの」

「お師匠さま言ったじゃないですか! 『おまえの面倒は俺が一生見る。すべて俺にゆだねろ』――って!」

「一言も言ってねぇよ。完全なねつ造だよ。おまえの頭どうなってんの? 都合よすぎない?」


 願望が作った偽りの記憶だったようです。


「そもそも、強化素子ってのはそうそう簡単に人に別けたりしないもんだ。俺がおまえに200以上もわけたのは、破格の大サービスなんだぞ」

「へ? それじゃあ、お師匠さまがクソケチドS野郎ってわけじゃないんですか?」

「ああ。……おまえ、どさくさに言いたいこと言った?」

「そんなことより! それじゃあどうやって強化素子を補充すれば?」

「そりゃ、簡単な話だ。この一週間、おまえがやってきたことと同じだよ」

「わたしがやってきたこと……?」


 はて。ここ最近してきたことと言えば――


「お師匠さまのダミー人形に投げナイフ刺す遊びですか?」

「え。なに、そんなことやってたの? 怖いわー、この子……」

「ささやかな乙女のストレス解消法です」

「もっと他のことして。夢に見そうだから。――そうじゃなくて、狩りだよ、狩り」

「狩り?」

「ああ。ただし、相手はうさぎじゃない」


 にやりと笑って。


「――人間だよ」


 サイコパスみたいなこと言いました。

 うわー。


「お師匠さま……一度、心の病院に行かれてはいかがでしょうか?」

「おまえにだけは言われたくなかったよ」



   ◇ ◇ ◇



 翌日。

 お師匠さまに連れられて、わたしは最寄りの街までやってきました。


 最寄りとは言っても、森をでて、街道を歩くこと一時間あまり。

 耐久力ステータスをあげているおかげで大したことはありませんでしたが、以前のわたしなら途中で倒れてましたよ。


「はやー。結構大きな街ですね」

「そうか? 都市部に比べたら、田舎みたいなもんだぞ」


 てっきり、この世界にあるのは西部開拓時代みたいな小さな町だけだと思っていたので、これは意外でした。

 どちらかと言えば、近世ヨーロッパのドイツとか、その辺のイメージ。

 ちょっとした旅行気分で楽しいです。


 お師匠さまは石畳の街を迷いなく歩いて、一軒の大きなレンガの建物に入っていきます。


 中に入ると、そこは酒場と仕事の斡旋所を兼ねたような空間でした。


「はわわっ。ギルドじゃないですか、ここっ!」

「おう。よく知ってたな」

「もちろんですよぉー。オンゲはクエスト形式のゲームが多いですからね~。なんか、ゲームの中に入ったみたいですぅ~♪」


 ああ……この異世界感っ!

 思えば、こっちに来てからは掃除洗濯炊事ばかりの激務の日々。

 そこから逃げても、今度は鬼師匠にしごかれて殺されそうになって食料調達。


 これですっ! わたしの求めていた異世界はっ!


 お師匠さまに連れられて、依頼用紙がびっしり張られた掲示板に向かいます。


「それでそれで! どんな依頼を受けるんですか? モンスター討伐? 薬草採取? あっ、地味だお使いだって言われがちな採取系クエストも結構好きなんですよ~、わたしっ」

「おっ。やる気あるな。そうだな……これなんてどうだ?」


 お師匠さまが一枚の依頼用紙を手に取り、わたしに見せてきます。

 ふむ。ふむふむ。ほぉほぉ。なるほど~。


「読めませんっ!」


 自動翻訳なのか、喋るのは苦労してないんですけどね。

 この世界の字は一切読めないのです。

 神さまも中途半端なことをなさる。


「まぁ、詳細は現地についてからでいいだろ。受付行くぞ」


 受付嬢さんに依頼用紙を持っていくお師匠さま。

 なにかなー、どんな依頼かなー、とワクワクしていたら、用紙を確認した受付嬢さん、「うっ……!」ってなってます。


「その……失礼ですが、この依頼でよろしかったですか?」

「ああ。問題ない」

「ですがこの依頼、十人以上で編成されている大所帯向けなのですが……」


 ちらりとわたしのことを見てきます。


「ひょっとして、そちらさまも……?」

「ああ。というか、こいつ一人にやらせる」

「はぁっ!?」


 びっくりして声を裏返らせる受付嬢。

 注目が集まって慌てて声を抑えます。


「しょ、正気ですか!? このクエストに女性一人というのは……捕まって、慰み者にされかねないですよ……?」


 うん? なんでしょう。不穏な言葉が聞こえたような。


「大丈夫だよ。な? ホノカ」

「はい?」

「おまえ、俺のこと信じてるよな?」

「え? はぁ。まぁ」


 有無を言わせぬ口調に、思わず肯定しちゃったけど。

 いきなり丸腰の人間を銃持って追い回す人が言っていい言葉じゃないですよね。


「ほら。本人もこう言ってるし」

「ですが……!」


 それでも食い下がる受付嬢さんでしたが、お師匠さまがなにか言い含めると、渋々ながらクエストの手続きを進めてくれたようです。


「お師匠さま。なにをもめてたんですか?」

「んー? なんでもねぇよ。それより、この依頼が成功したら、褒美に好きなもの食わせてやるよ」

「ほんとですかっ!?」


 うさぎ肉も悪くはないのですが、もっとこってりしたものが食べたくなっていたのです。

 この街はいろいろ食事処があるようなので、とても楽しみですっ。



 ――その時のわたしは、期待に胸を膨らませていました。



   ◇ ◇ ◇



「えー、さっそくですが。ホノカくんには殺し合いをしてもらいます」


 その一言が、惨劇の始まりでした。


 てへへいっけなーい忘れてたー。

 この人、やばい人でした。


読んで下さり、ありがとうございます。

続きは今日の19時くらいに投稿します。

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