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下駄箱の中の手紙

作者: むーちょ

下駄箱の中の手紙



いつもの様に登校し下駄箱を開けると手紙が入っていた。


包みは薄いピンク色がかった画用紙が使われ、封にはハート型のシールが貼られている。一目でラブレターと認識できる手紙であった。




私はモテる部類の人間では無くラブレターを貰う機会など生涯無いであろう。


この手紙もイタズラの類であり、本気にすればするほど泣きを見る―




そう頭では理解しているつもりでも心が落ち着かないのが高校生男子という物。


解っていても「何か桃色な未来に繋がっているかもしれない」という思いが止められない。




大げさに周りに人がいるかを確認するが、今朝は早めの登校だった為に人影は無かった。


この手紙を破棄するにせよ本気にするにせよ、中身を確認してからでも遅くは無い。


そう自分に言い聞かせ、手紙をポケットにしまってから上履きに履き替えた。








教室に入り、カバンをしまい席に着く。今朝は自分の他にまだ3~4人しか教室にいない。


ここで私がトイレに行っても誰も不信に思う事はないだろう。いやそれどころか本当にトイレに行きたい気がする。




緊張か期待か昨晩のコーラか、原因は解らないままトイレに向かい個室で小便を済ませた。






落ち着いた所でポケットから手紙を取り出す。


解っていたが、わざわざ小便の為に個室に入ったのはこの手紙を読む為である。


期待を押しつぶす様にわざと大きなため息をついてからハート型の封を切った。






中には小さく畳まれた便箋が1枚入っていた。


便箋はあらかじめ細かい行線が引かれている物で、そこには小さく丁寧な文字でこう書いてあった。






――私が好きかもしれない貴方様へ


私は貴方様の事が好きかもしれません。


私には大好きな思い人がいるのです。




彼と始めて出会ったのは放課後に突然気分が悪くなり廊下に座り込んでいた時の事です。


「どうしたの?」と心配して頂いた彼に、私は恥ずかしげもなく惚れてしまったのです。


肩を貸してもらいながら「大丈夫?」「歩ける?」と気を使っていただきましたが


私は朦朧と「えぇ、えぇ。」と答えるばかりで、気づくと保健室のベットの上で彼の姿はございませんでした。




思い返せば単純な話でございますが、その時から彼の事が私の頭から離れないのです。






あれから私は彼を探し続けていますが、名前も学年もクラスも解りません。


解るのはA棟の方から歩かれてきたという事だけです。






もし貴方様があの時の彼ならば、せめてものお礼を一言言いたく思います。


声をかけて頂いたあの日と同じ場所、同じ時間で私は何日でも待っています。




もし貴方様が彼で無いのなら、大変不躾なお願いではありますがA棟の他の方の下駄箱にこの手紙を入れて頂きたく思います。




この手紙が彼に届くまで、私は何日も、何日も何日もあの場所のあの時間で待ち続けるのです。


こんな理不尽なお願いを聞いてくださる方は稀だと思いますが。どうかお願いです。――








手紙を読み終え、私はやりようの無い気持ちのまま個室を出た。


小便をしていた友人が肩越しに「便秘か?」と聞いたが、少しためらってから「うるせぇ」とだけ答えた。






手紙は丁寧に折り直してから、そいつの下駄箱に入れてやる事にした。

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