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6.17

「良いわね、これはマサル抜きで是非完成させたいわね」

 アデリナの新婚旅行も終わりマサルは移住してきた神々とのコミュニケーションをしたり、仕事を割り振ったりしながら神界で過ごすことが増えていた。

「今まではヴィンターリアはマサルが発展させてきた。でも私たちの手で何かしら残さなければならないと思わない? 私たち人の結束の力を後世に残すのよ」

 この宣言を機にヴィンターリア王国の民たちによる人類史上最大の挑戦が始まったのだった。

 その挑戦は様々な案が出されたのだがミコトのこんな話から出発したのだった。

「僕とマサルさんの故郷の地球にはこんな神話があるんだ、昔々人間たちは傲慢になり神の下へと至ろうと一致団結した。そんな人間は神々のいる場所を目指して高い高い塔を建てようと考えた……そんな傲慢すぎる人間たちに腹を立てた神々は言葉をいくつにも分けて団結を崩し塔を崩してしまったという」

「なるほどリュリュたちは神の下に至る為の塔じゃなく神を迎え、共に生きる事を目的とした高い塔を作るのね?」

「なるほどそれなら不可能じゃないかも! お兄ちゃん無しでもね」

「そんなに簡単な話じゃないんだけどね。高い建物っていうのは凄い綿密で緻密な設計と計画が必要になるからね」

 そんな言葉は現実となり設計段階から躓く事になるのだった。

「それで高い塔ってどれ位の高さにすれば高い塔なの?」

 一斉にミコトの方に視線が集まる。

「日本で一番高い建物は東京スカイツリーという建物で六百三十四メートル。ビルだと三百メートルくらいかな?」

「意外と低いんじゃない?」

「もっと高く出来そう?」

「いやいや横向きの距離だと大した事ないように感じても高さになると凄いからね?」

 ましてやヴィンターリアには日本のように高層ビルなんかを設計したり様々な専門的な計算が出来る人はいないのだ。

「計画を実行するのに最低でも安全性は確保しないといけない。無謀な計画なら何をしてでも止めるからな」

 ミコトの本気の声のトーンにメイもリュリュも黙って従う。

「土地の選定もしないといけないし仕事は膨大だからな」

「じゃあ、わたしとリュリュちゃんは何とか設計してみるから出来る事してみてね」

 そう言って作業場を追い出されるミコトはアデリナの所に建設予定地の件で相談に行くことにしたのだった。

「建設予定地? 好きなところを切り取って貰ったら良いんだけど」

 とアデリナはあっさりと答えるが、

「何ですか適当ですね? 地盤の強度とか必要だし水平も出さないといけないし大変なんですよ」

「こっちも予算とか人員とかの確保頑張ってるんだからそんなに言わないでよ……」

「それでどこかに心当たりは無いですかね?」

「華麗に私の話はスルーなのね……そんな便利な土地があったら何かに使ってるでしょ?」

「確かにそうですね……そんな都合のいい土地なんか無いですよね」

 これで地盤の調査から始めないといけないかと思っていると意外な助け舟が出されるのだった。

「あら整地されていて丈夫な土地が必要なのね?」

 と話に入って来たのはメイの母親のルルさんだった。

「そんなところがあるんですか?」

「あるわよ。っていうかアデリナちゃんは知っているはずよ?」

「えっ? 私も知っている場所ですか?」

「ほら魔熊がいた時に住んでた場所よ」

「「あっ!」」

 いくらマサルが物作りが早いとはいえ、魔物がいるこの世界で街を新しく作るときは古い拠点を先に壊すわけにはいかないのだ。

「今どうなっているか知っていますか?」

「どうなってるって言っても何にもなってないわよ、マサルが地面を硬い一枚岩にしたから草も生えないし、普通の人には手が出せないもの」

 確かに硬い岩盤をどうにかするなら別の場所を弄るだろう。

「じゃあ、その場所を下見してきますね。設計にも場所の広さとかも伝えないといけないですし」

「じゃあ、視察の報告もよろしくね!」

「………………いってきます」

 余計な仕事を押し付けるアデリナに背を向けて言われた場所に行ってみると思った以上に広い土地が真っ平に岩盤に覆われている。

「防衛壁があったはずだけどそれは綺麗に外されているな……情報によると地下室もあったようだから入口を探さないといけないな」

 それからどれだけ探しても地下へと降りる入口は見つけることが出来なかった。

「これはマサルさんに聞かないといけないな、土台の下に地下室があって崩落したとか冗談でも許されないからな。どうせすぐに出来るものじゃないんだから秘密で作れるわけでもないから相談くらいはしとかないと事故が起きる」

 早々に視察を諦めてミコトは街へと帰る。

「あっ、マサルさん! 丁度良い所にいてくれましたね。相談があるんですが聞いてもらえませんか?」

「珍しいなミコトが俺に相談なんて……恋愛相談なら相手が間違ってるぞ?」

「いやそれも無い事は無いですが今回は別件です」

「何だか深刻みたいだな、神殿のオレの自室に来いよ。そっちで話を聞こう」

 マサルはミコトを連れて神殿の自室に入り中から鍵をかける。

「で、メイとリュリュ以外にどこに新しい嫁候補を作ったんだ?」

「なっ! 誰がそんな事言いました⁉ 変な冤罪はやめて下さいよ」

「ちっ、違ったか……」

「マサルさんは僕の事どんな目で見てるんですか!」

「二人の美少女に囲まれてるのに既成事実が作れない残念な子とヴィンターリアの皆が思っているぞ? いい加減に婚約くらいはしてやれよ」

「うぐっ……じゃあマサルさんに指輪を発注しても良いですか?」

「それくらいならいくらでもしてやれるからな? メイもリュリュも俺の身内のようなものだ幸せにしてやってくれ」

 そう言って深々と頭を下げるマサルにミコトも深く頭を下げるのであった。

「っていうか、本題に入って良いですか?」

「そう言えば相談があるって言ってたな」

 ミコトはヴィンターリアの人々で何か大きな事をしたいという事で塔の建造をしようとしている事を打ち明けた。

「塔か……俺抜きでやるんだろ? かなり難しいし大変だぞ?」

「それは承知しています。でも今までマサルさんが色んな物を作っていたけど皆もマサルさん抜きでも出来るんだって所を見せたいんだと思います」

「それは分かるがただのモニュメントに命を懸けるのはどうかな? せめて人々の生活の役に立つ副次的な機能が欲しいな。何かないか?」

「副次的な機能……例えば灯台のような?」

「その通り! そうじゃないとせっかく大きな仕事をするんだから勿体ないじゃないか」

 せっかく作ったのに役割が無くて皆から見上げて貰えないなんて悲しいじゃないかとミコトにこぼすマサル。

「見上げる……そうだ! 天文台とか時計台はどうですか?」

「ちょっと天文台は難しいな……時計台なら時計の構造部分さえオレが手を出してもいいなら可能だぞ。それともリュリュあたりに勉強させるか?」

「それは……リュリュならやりたいって言うでしょうね」

「じゃあ仕掛け時計の勉強でもしとくな。エレーナにも仕掛け時計の装飾は手伝って貰おう」

 エレーナの芸術的なセンスはピカ一なのだ。

「それと問題はどれくらいの高さを想定しているのかって事だな、どれくらいなんだ?」

「三百メートル以下ですかね?」

「ぶふっ‼ 馬鹿じゃねえの? お前はエジプトのピラミッドより高度な事が出来るのか?」

「ピラミッドですか? 確か再現するのは現在の技術でも難しいって……」

「ピラミッドの高さですら百三十メートルそこそこだぞ?」

「あっ……そりゃあ無理だ……企画倒れですね」

 ミコトは頭を抱えてしまう。

「高さは頑張って百メートル、それを超える事は不可能だと思ってくれ。あと石材は俺が加工した物をミコトのアイテムボックスで運び使用してくれ」

「石材の加工もですか?」

「そうだ、不良品を使うと大勢の命に係わるからな」

「分かりました……どうせ僕のアイテムボックスに入れて運ぶんですから皆が納得出来ないと言っても僕が何とかしますよ」

 そう言うミコトの顔は立派な男の顔になっておりマサルは安心して任せる事にする。

「交渉相手はアデリナにメイにリュリュか……ミコト頑張れよ!」

「はぁ……それだけが憂鬱ですよ」

「交渉の報酬は指輪二つって感じかな?」

「それだと本気で交渉に勝たないといけませんね」

「ちゃんと婚約まで話を持っていたら新居を建ててやるからな」

 その言葉にミコトは顔を真っ赤にするのであった。



「何でマサルがそこまで話に噛んでいるのよ! これは私たちの挑戦なのよ!」

「安全が一番ですよ、死傷者が出てからじゃあ遅いんです! それにこれだけの工事です、マサルさんがやってくれるって言っている事なんて本気で一部でしかないんですよ?」

「安全が一番なんてのは分かっているわよ! それでも皆で力を合わせれば何とかなるんじゃないかって思わないの?」

「それじゃあ安全の基準となるラインが曖昧なんですよ、そんな曖昧な安全基準で皆に仕事なんてさせられません。本当ならもっとマサルさんの力を借りて安全で難しくない工法を模索するべきなんです」

 最低限の安全性は所詮、最低限で全く事故が起きない訳でも怪我をしない訳でも無いのだ。

「どんなに気を使っていても事故は必ずどこかで起きるでしょう。その時にどれだけ小さな事故で済むかは計画を立てる僕たちで決まることもあるんです。考え直して下さい」

「あくまで私の安全意識が甘いと言うのね?」

 アデリナの視線が鋭く光る。

「安全の意識はどんなに高くても足りるものではないと考えているだけです」

「……分かったわ、あなたの思うようにしてごらんなさい」

「アデリナさん……絶対に後悔はさせません。僕がこの計画の……いえ、ヴィンターリアを支える柱となってみせます」

 ミコトは新たな決意を見せアデリナを説得してみせたのだった。



「今度はメイとリュリュの説得か……アデリナさんよりこっちのが大変な気がする」

「ミコト君? 何を一人で言ってるの?」

「何がアデリナさんより大変なのですか?」

「えっ? 別に何も言ってないよ? それより建設予定地と高さが決まったぞ」

 マサルとアデリナと決めた内容を説明すると途端に二人の機嫌が悪くなる。

「百メートルだけ? 本当にそれで良いの?」

「もう百メートルくらい何とかならない?」

「無理だね、素人が石材を積み上げて作る建造物なんだぞ。倒れたらどうするんだ?」

「やってみなくちゃ分からないじゃない」

「やってみて駄目じゃあ話にならないだろ……メイも聞き分けてくれ」

「また子ども扱いする……」

 ミコトの態度が気に食わないメイとリュリュ……しかしそれは計画の内容への不満以外にあるように感じるミコト。

「そう言えばメイとリュリュにお願いしたい仕事があったんだ」

「「んっ?」」

「まずメイには塔の全体の設計と現場監督をお願いしたい」

「やってやるわ! 今まで勉強してきた事の集大成を見せてあげる」

 メイは瞳に炎を宿らせる。

「リュリュには塔につけるカラクリ、仕掛け時計作りをマサルさんから学んで制作して欲しい」

「新しい技術⁉ やってやるです!」

 リュリュも想像通りやる気になってくれた……。

「それでさ……もし二人が了承してくれるなら……」

「「っ!」」

 メイとリュリュは姿勢を正しミコトに向き直る。

「「………………」」

「もし了承してくれるなら……僕に総責任者をさせて欲しい。僕は皆を怪我させたりせず全ての工程を完遂させたい、その為にはどんな努力も勉強もするつもりだ。アデリナさんにも盛大な啖呵をきって来たしね……ってあれ? メイさん? リュリュさん?」

「「勝手にしなさい!」」

 メイとリュリュはミコトに背を向けて作業に戻る。

「全くあのお馬鹿……なんにも分かってないわ」

「乙女心をなんだと思っているですか……」

 メイとリュリュは言葉の毒を吐きながら図面へと色々な事を書きなぐっている……。

「(やっぱり期待されている? 指輪が出来るまで言いたくなかったけど、今この二人の機嫌を損なうのは得策じゃないな)」

「どうしたの? ミコト君、まだ何かあるの?」

「あぁ、言い忘れてた事が……実は指輪を頼んでいるんだ」

「それって!」

「本当は出来てから言うつもりだったんだけどなぁ……」

「まさか……」

「そのまさかだよ、正式に二人に婚約を申し込みたい。受けてくれるかな?」

 そっと二人の前で膝をつくミコト……。

「遅いわよ、一緒に生きたいとか言ってからずっと放っておくんだから……」

「そうですよ、リュリュだって待ってたんですよ」

「それじゃあ……?」

「「お受けします」」

 よしとガッツポーズをしてからミコトはメイとリュリュに手を差し出す。

「ふふっ、急にお姫様みたいな対応ね」

「悪い気はしないですね」

 そんな事を言って笑いあう三人と窓の外にカメラを持った男が一人……。

「「「あっ!」」」

「やべっ、もうバレた! 退散っ!」

 マサルは即座に逃走を図り姿を消す。

「くそっ、もういない⁉ いつからいたんだよ?」

「相手にするだけ無駄だよ、お兄ちゃんはあれで神様だからね」

「師匠は追いかけたら追いかけただけ喜んで再犯に臨むのです」

「いやいやさっきのは僕の両親に見せたりルルさんに見せる為の撮影だからね?」

 メイとリュリュはまさか身内に観賞されているとは思ってもおらず絶句してしまう。ルルが実母のメイは当然の事だが、ルルを本当の母のように慕うリュリュも相当恥ずかしいようだ。

「ミコト君……やっぱり今からでも追いかけて良いよ?」

「ミコト君、どうにか師匠を捕まえてきてくれる?」

 見事に二人とも手のひらを返し、マサルとの追いかけっこが再び始まるのであった。



「今日から作業開始なんだけど……」

気が付くと真っ平だったはずの岩盤の地面に一番下の石材がズレないように溝が設計通りに掘って在り、マサルから無言のダメ出しを受けて安全意識がまだまだ足りないと痛感させられる。

「皆さん最初に扱う石材はとても重く一つ置くのにも大変です。地面には正確に溝が彫られています。この一段目が少しでも合わないようなら塔の完成はとても難しいでしょう。怪我が無いよう安全を意識して作業を始めましょう」

 集まった住民は約五十人で一段目に指定された石を置く場所の傍に出していく。

「では可能な限り多くの人数で一つずつやっていきましょう」

 こうやって始まった塔の建設……この時僕たちは全てを甘く見ていたとしか言えなかったのだった。

「何度やっても狙った場所に落ち着いてくれないじゃないか」

「石材が重すぎるんじゃないか?」

「そもそも設計はあっているのか?」

 などと上手くいかない事によって不満が噴出してくる。

「最初なので上手くいかないでしょうけど頑張りましょう。絶対に上手くいくはずです」

「なんで絶対上手くいくって言いきれるんだ!」

 ミコトの声掛けに苛立つ男は突っかかるが、ミコトはマサルが深夜に渡ってメイの図面を確認し重量計算を何度も調べながらしている姿を見ている。

「それはここまで頑張ってきた人たちを信用して貰うしかありません」

「ちっ……分かったよ、お前らがなんかよく分からないけど頑張っているのは知っているからな」

「最近頑張り過ぎじゃないかって皆少なからず心配してるのよ」

 おばちゃんが話に割って入る。

「僕なんてまだまだですよ、ウチは上に行く程努力してますからね」

「そりゃあ違いねぇ、人間離れしてるって言うか神様までいるからな」

 超えられない壁は正真正銘の人外で皆も苦笑いだ。

「それでもそれに追いつこうと若いのが頑張っているから張り合いもある生活が出来るんじゃ」

「ウチの街は若いのが優秀過ぎんだよ、もう少し肩の力抜いて貰わないと儂らが格好悪すぎるだろってよく話してるもんな」

 と色々ぶちまけながらも人々の結束は深まり作業は徐々にだが着々と進んでいくのであった。

「……まさかここまでとは……」

 丸々一日の作業が終了した時、ミコトはその作業の進捗に愕然としてしまった。

 一段目という事で使用する石材が大きい物だという事もあるが、五十人が約十時間をかけて設置出来た石材の数はわずか四つだったのだ。

「悩んでも仕方ない、明日からどうやって作業をすればいいか考えないと……」

 決意に燃えるミコト……しかしそんな思いも結束に燃えるヴィンターリアのおじさんやおばさんたちの力には敵わず大宴会へと強制連行されるのであった。


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