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6.12

 この日、俺とランスロットとエレーナ、メイにリュリュ、ミコトは仕事に追われるアデリナから逃げて港街ナトリに集合していた。

「これは…なかなかに良いアイデアだ。航行から生活に至るまで多彩な意見を聞いて解決の為に工夫した様子が見て取れる」

 メイとリュリュの提出した新造する船の設計図を提出して来たのでそれを取り囲み一つずつ機能を確認しているのだ。

「この図面をこの娘たちが描いたのか……末恐ろしい才能だな」

 ランスロットはグレイタス王国ではこれほど緻密な図面を見た覚えがないらしく、それを若い娘たちが一から描いた事に驚き、次に多様な視点から物事を見てダサレタアイデアの数々に驚愕を通り越し恐ろしさを感じていた。

「二人とも俺の弟子だぞ? その辺の見て覚えて覚えろなんて言われながら育った職人とは格が違うからな? 見て覚えるのを悪いとは言わないがこういう緻密な仕事は基礎と知識がものを言う」

「子供たちへの教育制度か……世代を重ねる毎に差が開いていくな」

 ヴィンターリアでは子供への教育は完全無償で国の技術的にも知識的にもトップの人たちが教えてくれるとあって預ける親も学ぶ子供たちも意欲的だ。

「まぁ、他の国からも子供たちの留学制度は既に始まっているし、留学後は帰国して五年は国で就労しないとヴィンターリアに戻れない契約にしているから知識の普及等頑張ってくれるさ」

 問題は帰った後に学んだ内容を活かせる職につけるか? また周囲の大人たちが聞く耳を持たなかったらどうするかである。

「駄目ならヴィンターリアに戻ってくれたらヴィンターリアの一人勝ちさ」

 よく代わりの人はいくらでもいるとか言ってしまう上司……これは大変大きな間違いで、作家が代われば同じ物語が産まれないのと同じで人材の代わりなど居ないのだ。

 人というのは色も形も違うブロックのようなもので、見方を変え削り方を変えて作り上げた人材をどうやって自分たちのチームの上に積み上げるかが上司の腕の見せ所なのである。

 しかし最近は自分たちの技量不足を捨て置いて若い人材の不甲斐なさを指摘するだけで、模倣されるような手本にもなれず、叱って心に響くだけの人徳も持たずに若者を傷付ける場合も多いのである……大人より子供が先に悪くなる世の中なんてのは存在しないのである。

「なんだかマサルは子供たちがヴィンターリアに戻って来るのが良いと信じているみたいだな」

 ランスロットは苦笑いする。

「それは誤解だ。子供たちはやはり家族の元で成長を見せ付けながら幸せになるのが本来一番良いと思っているぞ」

「そうですよ、家族とか友達とかを自分の手で捨ててしまうなんて悲しいですよ」

 ミコトは遠い地球にいる家族を思い、少し涙を溜めながら俺の言葉に賛同する。

「やっぱり可愛い女の子に囲まれて生活しているのを知った妹に爆発しろって言われたりしたいよなぁ〜」

「何ですかそれっ!?」

 いきなり妹の発言を聞かされ慌てるミコト。

「お父さんもお母さんも遠い目をしてたぞ? 幸せになりなさいって……」

「じ……爺ちゃんは!?」

「無言で呆けてたな……可哀想に……」

「う……嘘ですよね?」

「うん、嘘だよ。妹ちゃんの暴走にあたふたしてた」

「そっちも嘘であって欲しい……」

 残念ながら妹ちゃんの件は事実なので俺にはどうしようもない。

「話を戻すぞ? メイとリュリュの設計は間違いなく良く出来ている」

 ほっと胸を撫で下ろす二人。

「しかし、現実的では無いのは確かだ。簡単に言うと機能が多すぎる」

「多いのは問題無いんじゃないか?」

 ランスロットは首を傾げる。

「ミコト、地球で見た事ある車で乗用以外の機能のついた車ってどれくらい思い付く?」

「いきなり何ですか? えっと乗用以外の車ですよね? クレーンの付いた物に、高い所で作業する時の高所作業車? 他には消防車とか救急車ですか?」

「そうだな、あとは運搬に特化したトラックやダンプカー。特殊な作業用ならショベルカーなんかもあるな」

 言い出したらキリが無いくらい多くの車が日常にあった。

「じゃあ、今言った色んな車の機能が二つも三つもついた車って見た事あるか?」

「えっ? 複数の機能がついた……トラックにクレーンがついたヤツくらいですね」

「そんなものだよな? じゃあ、様々な車があるのに複数の機能がついた車はそんなに種類が無いと思う?」

「それは……お金がかかるから?」

「それも重要な理由の一つだな。他には?」

「使うのに複数の資格が必要になるから?」

「つまり多くの機能を付属すると安全に使用する為にはその分多くの技術を習得しないといけないという訳だ」

「分かります。僕も爺ちゃんの手伝いをしようとクレーンの荷物を外そうとしたら資格も無いのに吊り荷に触るな! って怒られた事があります」

「玉掛けの資格だな。実際に工事現場や工場なんかでは玉掛け作業……つまりクレーンなどから荷物を外したり、荷を持ち上げたり、吊り上げる時に怪我をする事が一番多いんだ。運転免許証などと同じで車の操作が可能かを問う資格ではなく安全に使用する事が出来るかという資格だな」

 メイとリュリュの設計してきた図面にも荷積み用のクレーンが書かれている。

「メイとリュリュ。今の俺とミコトの話を聞いていて何か感じたか?」

「船員の技能に関しては勉強して何とか解決出来るかも知れないけど、船自体が高価になる事までは考えていなかったです」

 リュリュの言葉にメイが頷く。

「これだから天才娘たちは……」

 一番気にして欲しいのは値段じゃないのだが……材料とかはどうせ俺がでっち上げるんだし……。

「じゃあ、ランスロットとエレーナはどう感じた?」

「機能は絞るべきだな」

「少ない人員に多くを求めると事故を起こすわね」

「つまり先程の話は人も船も一つの専門的な技能や機能の方が運用しやいすいという事だろう? 軍でも複数の役割をこなしたり武器を使える者はめったにいないからな」

 ランスロットとエレーナは俺の欲しい回答をくれる。

「それにメイにリュリュ……悪いけどここにいるメンバーは特殊だからな? 戦闘して政務をこな

して部隊の指揮をとってって多くの役割をこなせる人なんて殆どいないから」

 人というものは何となく自分が出来る事は他の人も出来ると錯覚してしまいがちであるが、意外と人一人の出来る事の範囲は狭いものなのだ。

「今の船員たちには航行技術を始め、操舵技術、小舟の操作、海洋生物についてなど様々に覚える事がある。あまり無理はさせたくない」

「そうですね。ちょっと急ぎ過ぎていたようです」

 メイは素直に反省の色を見せる。

「機能を絞るなら俺から少し提案なんだが、せっかく三艘の新造船を造るんだから少しずつ出来る事を分けたらどうだ?」

「なるほどコストは余計にかかりそうだが面白いな」

「となると何の機能をそれぞれに着けるかは問題ね」

 ランスロットもエレーナも少年少女のような目でメイとリュリュの書いた図面を見ている。

「バランス的には俺の船と戦闘が可能な快速艇が二艘、最後に暗礁に乗り上げた時なんかを考えて牽引船かな」

「船の武器は何を?」

「砲とバリスタと網くらいじゃないか?」

 この辺りの武器は邪神だったフィナと戦った頃に作ってある。

「部隊編成はどうなる?」

「俺とランスとエレーナは船長だな。問題の残り一艘だが……ミコトが船長をしてみないか?」

「えっ? 無理ですよ地上でだって指揮とかした事ないんですよ」

 このミコトの言葉に反応し、急に鬼の形相をする男がいた。

「上官であるマサルの指示を聞かず、俺と同じ役職が不満なんだな?」

じろりと睨まれミコトは泣きそうである。

「カレンとフィナも同じ船に乗るぞ?」

「……うぅ、やらせていただきます」

 メイとリュリュには睨まれているが気にしてはいけないのである。

「……あれで良かったのか?」

「あぁ、メイとリュリュの功績を考えると二人を娶るためには今のミコトじゃ足りないからな」

 遠慮深いのは良いけどもう周りがやきもきしているのだ、今回の遠征が終わってミコトに功績がつくとルルさんがきっと動くだろう。

「じゃあ、細かい機能が必要かを詰めて製造に移ろうじゃないか」



 作る物が決まれば俺は製造の神、あっという間に船の形が出来ていく。

「三週間で船が三艘出来ているよ……マサルさんが自重してない」

 自重なにそれ美味しいの? ってやつである。

 トントン拍子に事は進み、その一月後には部隊の教育も完了し新大陸へ行こうかという事になったのである。

 各船には地球から来た水神が一柱ずつ乗船し万が一も起こらないであろう布陣である。

「風の精霊よ、俺たちを運んでおくれ」

 俺の言葉に眷属である風の精霊が風をふかして帆に当てて常識外れの速度で船は進んでいく。

「船長、目的地までの時間は?」

「今夜には到着するだろうから明日の朝に上陸だな」

 海の上を異様な速さで走る不思議な箱に魔物たちも関心は示すが近づいてこない。

「順調すぎてつまらないな」

 と思わず呟き怒られてしまったほどだ。



「ここが鬼人族の住む大陸だ。以前に偵察した時は三つの都市の部族が大陸統一の為に争っていた」

「戦地じゃないですか!」

 船員たちが騒めき始める。

「まずは一つ目の派閥『力こそ正義』の脳筋部族でランスロットが相性が良さそうだ」

「無視ナンスね?」

「二つ目の派閥は『民主主義制』を掲げる一番多い部族、三つめの派閥は『高い魔力と伝統ある王族』が部族を纏めようというものだ」

「王族がいるならそこが纏めれば良いんじゃないっすか?」

「残念ながら他の部族と王族を名乗る彼らは起源が違うんだ。だから過去国の申請を出された時も成立していない」

 赤鬼と青鬼くらいにしか違わないが……。

「うわぁ、大変っすねぇ」

「そう、その大変な場所に明日俺たちは乗り込むんだ」

「無事に帰ってきてくださいよ? いや、無事な状態で許してあげてくださいね」

 俺がどういう評価を受けているか凄く分かる船員の一言であった……解せぬ。



「各自船員は船の点検を行い船で待っているように。少々の上陸は許すが安全第一で頼む。また水神の皆さんが船の護衛をしてくださるので仲良くしてくれ」

「仲良くって……神様ですよね?」

「俺も一応神なんだが……」

「「「「「「あっ!」」」」」」

 人間界にいる時間が長すぎて俺の事普通に神なのを忘れてたな? まぁ、良いけど。

「もう直ぐ風の精霊が帰ってきて偵察の様子を報告してくれるから各自上陸班は必要な食料や水、道具の確認をすること。おやつは三百円までだぞ」

「先生、バナナはおやつに入りますか?」

「バナナはフルーツなので入らないことにしましょう」

 俺とミコトにしか伝わらないネタで遊んでいると風の精霊たちが帰ってきた。

「………………は? マジか⁉」

「どうしたんですか?」

 ミコトが俺の異常に気が付き首を傾げる。

「なんて言えばいいのか……三部族による戦争がもう始まっているらしい。現在、戦場と呼ばれる荒野で睨み合っている状態みたいだ」

「じゃあ、上陸は中止か? それともどこかの部族に肩入れするか?」

「いや、どこかの部族にだけ肩入れするには情報が足りない。万が一肩入れして他の部族を倒したとして皆殺しなんてされたら後味悪いしな」

「じゃあ、上陸は中止か……」

「えっ? 帰るの? 俺にはちょっと面白い案があるんだけど」

 その案を聞いた皆は顔を引き攣らせ苦笑しか出来ないのであった。



 ここは戦場と呼ばれる荒野……そこには三つの部族がコの字になって睨み合っていた。

 そんな緊迫した場所の上空には二つの人影があったが誰も気が付いていない。

「じゃあカレン、本気で行くぞ!」

「了解です、お父様!」

 三部族が睨み合う丁度真ん中に俺とカレンはフリーフォールしていく。

「その戦、待ったぁぁぁぁぁぁあぁぁ!」

 魔法で声を拡張しながら俺とカレンは地面に最大限の攻撃を放ち突き刺さる……地面は深々とえぐれ砂煙が盛大に舞っていく。

「なんだ?」

「人だったぞ?」

「死んだんじゃないか?」

 口々に各部族の者たちは言い合い突然の乱入者に困惑する。

「痛てて……思ったより地面が硬かったな。カレンは大丈夫か?」

「はい、問題ありません」

 砂煙の中から埃を払いながら無事な姿を見せる乱入者にその場にいる誰もがリアクションと取り方が分からず呆然と見ている。

「はいはいその戦待った! 戦争なんかしても良い事ないぜ?」

「お父様のいう通りです。三部族は神マサルの名の下に話し合いの場につくべきです」

「「「「「「神⁉」」」」」」

 戦場に振ってきたのは神様でした……うん意味わからないよね。



 どさくさに紛れてランスロットたちに合流した俺は戦場のど真ん中で三部族の代表者たちと会談を始めていた。

「話し合いで解決するのならもうオレたちは戦なんてしていないんだ!」

 話し合いの第一声はこの一言から始まった。

「そうなの? まだ殺し合いをしてないなら十分話し合い出来るんじゃないか?」

 能天気に話す俺に三部族の代表たちは困った顔を見せるが困っているのは俺だ。

「だいたい何で戦なんて話になってんの? 俺の知る限り三部族とも主張内容は戦なんかで解決出来ない類のものだと思うんだが」

「解決できない? ぽっと出の神に鬼族の何が分かると言うんだ!」

「分かるさ、まず民主主義派。民主主義を謡いながら戦勝に勝利した方が正しいとか本末転倒だろ」

 一応の自覚はあったようで一旦静かになる民主主義派の代表たち。

「それに王族派……お前ら戦争なんてしてる場合じゃ無いだろ? お前らが抱えている問題は王族という狭い中で婚姻を繰り返したからだぞ? 外から嫁なり旦那なりを入れろ! 呪いとかじゃねえから……大体なぁ、民主主義派も王族派も戦いで勝てると思ってるのか?」

 ぐうの音も出ない民主主義派と王族派。

「後は実力主義の君たち……農業がうまくいかず生産量が少ないのは土地のせいじゃないから! 大雑把なんだよ。農業指導してやるから勉強しなおせ」

「ふふっ、神とは面白いな。本当に全知全能なのか?」

 そう言って笑うのは実力主義の代表で来た男だ……明らかにこの中では異彩を放ち王者の風格を持ち合わせている。

「確か焔と言ったか? 別に全知全能じゃないぞ? 失敗も山ほどするし怒られる事もしょっちゅうだな」

「ふふっ、人間臭いな」

「俺は元々人間だからな」

「神になればもっと俺も強くなれるのか?」

「神になってどうするよ、お前は強くなってヒリヒリするような戦いを欲しているんだろ?」

「うむ」

「じゃあ良い事を教えてやろう、そこのランスロットなら多分お前を満足させてくれるぞ」

 多分、技量は互角だし良いライバルになるだろう、ほらランスロットも同類の良い笑顔をしている。

「という訳で取り敢えずは戦は無しで良いかな?」

「主神ビクティニアス様の旦那の言う事だ仕方ないだろう」

「って事で解散、ランスロットはフィナと共に焔の所に、エレーナはカレンと一緒に王族派の所に行ってくれ、ミコトとメイにリュリュは俺と民主主義派の所だ。気になるところがあったらあとで報告よろしく」


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