6.10
わたくしアイラセフィラは確かに創世神であり姉であるビクティニアス姉様のご結婚をお祝いして新婚旅行くらい好きなだけ行ってくれば良いじゃないですかとは言いました。
しかし、マサルもビクティニアス姉様も連絡も寄越さないとは……どれだけ満喫しているんでしょうか?
「姉様! いい加減に帰ってきて下さい! フィナも頑張って働いてくれてますが色々と世界に不具合が出て来かねませんよ」
「分かったわよ仕方ないわね、マサルの地元もちゃんと見れたしご両親に御挨拶も出来たし帰るわ」
「本当ですか⁉ じゃあご帰還お待ちしておりますね」
本当に素直に帰ってきてくれれば良いんですけど……。
「また何か記念日にでも二人で旅行に来れば良いものね」
「えっ? 恒例行事にするんですか⁉」
「ミコト君の報告を家族にたまにはしてあげないといけないしね」
ミコト少年は絶好の言い訳に使われていますね。
「それでマサルは何をしてるんですか?」
「あぁ、マサルはアルステイティアに移住する神たちの依り代の制作に勤しんでいるわよ」
「そうなんですですね、移住する神の依り代をしてるんですね……んっ?」
姉様は今なんて言いました? 神の移住と聞こえたのですが聞き違いですよね?
「すいません姉様、今少しぼおっとしてたようで神の移住とかなんとかって聞き間違えまして……なんて言ったのかもう一度言って下さいませんか?」
「あれ? 言ってなかったっけ? マサルが向こうの神様のリサイクルを始めて仕事が無いならアルステイティアで再就職したらって始めたんだけど」
言ってなかったっけ? って,、全く何も言って来なかったじゃないですか!
「せめて業務連絡くらいして下さいよ! 他所の神が移住してくるなんて大事件ですよ! なんでそんなに普通にしてるんですか」
「何でって……マサルのやる事だし?」
なんて言うか……いい意味で完全に姉様はマサルに洗脳されてますね。
「地球の神とはトラブルになりませんでした?」
「天照様はなんかマサルの口車に乗せられていたし、ヘラ様に聞いてみたら良いんじゃない? って笑ってたわよ?」
きっとヘラ様の笑顔もきっと盛大に引きつっていたに違いないだろう……お会いしてなくても苦労が窺えるというものである。
「それでどんな神様がアルステイティアに来るのですか?」
「知らないわよ? その辺りは全部マサルに任せちゃったもの。天照様とか現地の他の神様との打ち合わせも必要だし多すぎて把握しきれないもの」
「へっ? 多すぎる? それってどういう意味ですか? 複数の神が来るっていう事じゃないですよね?」
「三十超えた辺りで面倒って言って任せちゃったから本当に知らないのよ」
「さ……三十ですか? それはまた凄い話ですね……」
フィナがアルステイティアに来た時だってそれなりに色々な世界の神様から問い合わせがあったのだが間違いなく今回はそれを超える何かが起きるだろう……何が起きるかは想像もしたくない。
「どんな神様が来るのかもどれくらい来るのかも分からないとかありえないですから……」
「だってだってさ……姿とか人魂なんだよ? 見分けはつかないし、つまらないんだもの」
「つまらないって……何だか今日は投げやりですね?」
「そりゃあ楽しい旅行が終わるんだなぁって思ったらねぇ……」
新婚旅行で喧嘩したとかって夫婦はよくあるらしいですけどお二人は仲良くしてたらしいですね。
「あぁあ、月とかも行ってみたかったなぁ」
「何で新婚旅行で三十八万四千四百キロ先の衛星に行くんですか……何にもないですよ?」
「意外とおとぎ話のようにウサギとかかぐや姫みたいな世界があるかもってマサルが言うから」
どこまで洗脳されているんですか……あれ? 本当に無いですよね?
「兎に角、姉様はマサルに詳しい話を聞いてきて下さい。アルステイティアの他の神には報告しておきますので」
きっと阿鼻叫喚のリアクションが見れると思います。
「でも悪い事じゃないわよね? アルステイティアで一緒に生きていく神が増えるのは」
「えぇ、今までが少な過ぎましたからね。多少増えても仕事がいくらか楽になって自分の時間が増えるくらいでしょうが」
ここアルステイティアの神は神界にいるときほ殆ど働き詰めなので皆も喜ぶでしょう。
「えっとアイラ……凄い言いにくいだけど」
「何ですか姉様? もしかして移住する神様の数が分かりましたか?」
「その事なんだけど……怒らないでね?」
怒る要素がないと思うのですが……もしかして聞いてないんでしょうか?
「実は……まだ移住する神が増えていて分からないの」
「はいっ?」
えっ? 神様ってそんなに余っているものでしたっけ? いくら八百万の神々といっても実数を示している訳じゃないんですよ⁉
「なんでそんな事になっているんですか……」
「なんか最初は付喪神って言われる神様を対象にしていていたんだけど、何だか世界中から土地神が集まり始めちゃって……」
「世界中から? 言っている意味が分からないんですけど? しかも土地神がその土地から離れるなんてオカシイですよ」
「なんか土地の開発で自分の土地を無くした神様たちらしいわよ? まぁ、事情的に仕方ないんじゃないの? と思っているけど」
それがなんでマサルの所に集まるのよ? えっ? アルステイティアに来たって誰がどうやって統括していくの? マサルがやってくれるの? やってくれるのよね?
「……それで移住確定が現在はどれくらいいるのですか?」
「確か今のところ五百は軽く超えたって……」
「想像していた最大数より一つ桁が多いですね……しかもまだ増えてるとか正気の沙汰じゃないですよね。あれ? 依り代を作っていると言ってましたけど神の依り代って……」
「神鋼を使うからマサルが付きっ切りで依り代を作ってるんだけど……」
「ちょっと⁉ 神鋼って精製に神力を使うんですよ⁉ 大丈夫なんですか⁉」
「それが意外と古い神様ばかりで仕事も無かったから神力を貯めている神様が多くて逆に儲かってるって言ってたわよ」
それ定年後の高齢者の貯金が意外とあったみたいな現象と同じよね?
「それって大丈夫なんですか? 詐欺とかじゃ無いですよね?」
「神鋼の精製も誰でも簡単に出来る訳じゃない特殊技能なのよ、こればかりは安売りしちゃあいけないわ! ちゃんと後でアルステイティアに引き取って仕事も用意するんだから当然の報酬よ。それが看過できないというなら来ないでって言ってあるわ」
正論ではあるけど元々は地球での神への進行などで集まった力なのだから簡単に譲渡できるとは思えない。
「それにどこかの神様がい世界に行くなら今持っている神力は地球に置いていけなんて言いだして、彼らも長い間放置されていたもんだから喜んでマサルに全神力を渡しているようよ?」
どこの世界にも火に油を注ぐ神はいるようですね……別にわたくしは困らないから良いですけど。
「そういう事ならマサルの報告待ちって事で良いですね。どうせ他にどうしようもないですしね」
「こういう時にマサルの邪魔をすると根こそぎ吹き飛ばされるのよね……シュテンツェンのように」
「他人事のように姉様が語らないで下さいませ、あれは姉様が焚きつけたからですよ」
「それでも普通魔物を全て倒す為に都市ごとはいかないわよ? 結果的には一匹の漏れも無くせん滅できたから良かったけど……」
確かに現実的に考えて全ての生き物が死んだ都市に誰も住みたくはないだろうし、資材としても使いにくい。なら生活感の残る廃都市より完全に解体されたただの石やレンガの方がしこりが残らないのも事実だ……マサルがそこまで考えていたかは誰も知るところではないが。
マサルは壇上に上がって拳を突き上げて吼える。
「アルステイティアに行きたいかぁぁぁぁぁあぁああぁぁ!」
「「「「「「うおぉぉっぉっぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ‼」」」」」」
周囲は痛いほどの熱気に包まれまるでアメ〇カ横断ウ〇トラクイズだ。
「ちょっとマサル……いくら何でも多すぎない?」
「ビクティニアス……奇遇だな……俺も少しそう思ってた所だ」
アルステイティアへの移住の日に集まった神の総数はなぜか五千三百柱のも及び、様子を見に来た天照様もアイラセフィラは絶句し、ヘラ様は爆笑している。
「なんでこんなに集まってるのじゃ⁉ っていうか何処から出てきたのじゃ⁉」
「予想と桁が二桁も違うともう笑えないわ……流石にやらかし過ぎよ」
「本当にマサルが関わると面白い事になるわね。これだけの役割が無い神を勧誘もせずに集めて陥落したわね。で、どうやってこれだけの神を向こうの世界に連れて行く気?」
ずっと面白半分で見ていたヘラ様だけが先に正気に返り俺に質問してくる。
「これだけの神を送る間ずっと世界を繋げるわけにも送迎バスがある訳でも無いのは分かっているわよね?」
「それはわらわも気になってたのじゃ! あそこにいる神は異世界への転移など絶対に出来ないぞ?」
確かに空間の転移どころか異世界への転移は高等技術だし自力で来いとは間違っても言えない……しかし俺はこの問題に関しては早期に裏技と言っても良い方法で解決してあるのだ。
「その辺りは問題ないですよ、この神々は向こうに着くまでは俺の手荷物扱いですから」
「手荷物って……この神たちを抱えて行こうとでも言ってるんじゃ?」
「いくら何でも抱えて行ったら一度に三柱が限界だな、それは既に手荷物のサイズじゃないな」
「じゃあどうやって……??????」
答えは簡単だったりします。
「種明かししようかな? じゃあ皆さん順番に俺の前に並んで下さい!」
俺の呼びかけに移住希望の神々は素早く一列に整列する。
「では俺の前に来たら依り代に憑いて下さい、後は俺の方で移住の為の移動の手続きをします」
「えっ? 一体何をする気じゃ……⁉」
「ほいっと……はい次の方~♪」
俺は目の前に来た神が依り代へと憑依するのを確認するとそのままアイテムボックスへと投げ入れる。
「次の方? ほら立ち止まらないで~♪」
「あれ? アイテムボックスって確か生き物は入れられないんじゃ無かったですっけ?」
「おっ! 流石アイラだな、もうそこに気が付いたか」
そうそれこそが俺がこの解決策を裏技と言い表したポイントなのだ。
「実はなこのアイテムボックス……確かに生き物は入れる事が出来ない。これは神も例外ではないハズだったんだが例外が存在したんだ!」
「依り代に憑依した神という事ですか?」
「アイラ、非常に惜しい! 正解は神鋼を使用した依り代に憑依した神や霊体だな」
「いつの間に霊体にまで手を出していたんですか⁉」
「ちゃんとキャッチ&リリースしておいたから気にしないでよ」
はぐれの霊体とか普通に俺に用事はないしな!
「ブラックバス釣りしてたような気軽さで言わないのじゃ!」
「天照様……ブラックバスは日本では外来種だから釣ってもリリースしたら駄目だぞ?」
「気にするところが違うのじゃ! 神鋼じゃ! あれは相当量の神力が必要なのじゃぞ⁉ それを五千を超える神の依り代に用意したというのか!」
あれ? 神力の収集に関する情報は天照様のところに上がってないのか?
「異世界に行くなら余ってる神力を地球に全部置いていけとかなんとかって引退した老人から貯金をせびるような事を言い出した神々がいて神力は全部俺にくれたぞ?」
その一言には流石の天照様もヘラ様も表情を凍り付かせた。
「ねぇマサル……ものは相談なんだけど一部でも良いから収集した神力を地球に回して貰えないかしら?」
ヘラ様が顔を引き攣らせたまま手を合わせてお願いしてくる……この女神様には世話になりっぱなしだし、本来は地球のモノである神力を返還するのは俺個人としては問題ないのだが……。
「分かってるわね? 神様が増えてもいきなり戦力にはならないし全体の利益にならないの、準備にも色々と必要なんだからね?」」
とアイラに肘で小突かれつつ言われると仕方ない。
「じゃあ協議してどれくらい地球に戻すか決めよう。って次の神様~早く依り代に憑依して!」
「えっ? 今するの⁉」
「色んな世界や国の神が集まる機会なんてそうそう無いだろ? ほら集まった神力で残りは……」
「「「なっ‼」」」
提示した神力は思った以上に多かったようでヘラ様も天照様もアイラセフィラも絶句してしまった。
「どんだけ集めてたのよ……まさかこんなに神力はが残っていたとは……まさに金脈を見つけたようね」
「塵も積もれば山となるどころか星が出来るレベルとは……意外過ぎるのじゃ」
「スキル券十枚分……小惑星が出来ちゃう……もう一人マサルが出来ちゃう」
俺はもう一人出来ないからな⁉ だいたい十枚もスキル券を使おうとしたら改造でもしないと半分使う前に死んじゃうじゃないか! アルステイティアに行く前のスキル取得時点で実は人間やめてるんじゃねぇか、最近気が付いたわ……。
「懐かしいわよね、スキルスロット十一連……」
しみじみとビクティニアスもしている。
「懐かしいなぁ、あの時ヘラ様の胸の谷間からスキル券が出てきたのには驚いたよ」
「「どこを覚えてるのよ!」」
ビクティニアスとヘラ様が同時にツッコむ。
「なんなら面倒だし地球とアルステイティアに今後とも深く関わるであろうマサルがスキルスロットを回すというのはどうだ?」
「そんな事したら面倒が起きたら俺が動かなきゃいけなくなるだろ! ってゼウス⁉ どこから湧いて出た⁉」
「あらあなた? 言い渡していたお仕事はどうしたのかしら?」
「ちゃんと終わらせてきたぞ! 早くここに来たかったから部下にも色々手伝って貰ったがな」
瞬時に詰め寄るヘラ様に何故か即座に正座で受け答えを始めるゼウス……ちゃんと仕事したなら堂々とすればいいのに。
「取り敢えず考えるのが面倒になって来たから半分ことか?」
「いやいや一割くらいで良いわよ?」
おや? 急に旗色が変わったぞ? どうしたヘラ様。
「なによその顔は……思ったより多すぎて地球では使い道に争いが起きる可能性があるのよ」
あぶく銭と同じで下手に多いと面倒事に繋がるとは世知辛いものだ。
「じゃあ、適当にヘラ様と天照様のところに神力置いていきますんで」
自分には無いのか? とゼウスが寂しそうにしているが放置しておこう。
「おっ? 最後の移住する神様ですね? っと収納完了っと」
「マサル……収納はやめときなさい神様なのよ」
既に手荷物扱いしているから今更だけど言っている事は分かる……しかし適切な言葉が無い。
「アイテムボックスの中ってどんな気分なんでしょうね?」
「中は時間が経過しないから入ったと思ったら外に出されたって感じじゃないかな?」
「なら後はあんまり気にしなくていいのね?」
「そうだな、気にしても仕方ないって感じだな。よし、そろそろ用事は終わったし新婚旅行も終わりかな?」
「なんだか最後の最後は新婚旅行って感じじゃなかったけど楽しかったよね?」
「そうだな、また二人で遊びに来ような」
俺とビクティニアスはそう言って見つあい、ヘラ様や天照様の、アイラセフィラをげんなりさせたのであった。




