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6.7

 焼き鳥を食べた帰りにビクティニアスと二人で田舎道を月明かりを頼りに歩いていると突然周囲に現れた気配に身を固くしていた。

「人じゃあ無いわよね?」

「神様にしては何かがおかしい気がするし」

 気配の数はそんな話をしている間にもどんどん増えて……

「敵意は無いのは分るけど失礼じゃないか? 名乗りたまえ」

 ちょっと格好つけて周囲の者たちに語り掛ける。

「失礼いたしました我々は怪しいものではありません。この地から神へと至った人が存在すると聞きまして参上した次第でございます」

 周囲の気配は徐々に姿を現してくる……人魂?

「我々は神の末席に名を残すも依り代を無くし、元の姿を思い出す事さえ出来ない者たちです」

 こうして姿を見せた者たちの話を俺とビクティニアスは聞くことになるのだが、

「つまり皆さんは付喪神ってやつですよね? 依り代ってのは皆さんの場合は御霊を宿した道具なんかの事ですね?」

「そうです、我々はどんな道具でどんな出自なのかという事は分るのですが形あるものは壊れるのも世の摂理……依り代が壊れることで我々は消えるものだと思っておりました。しかし依り代と共に神としての姿を無くし、役割までも無くして尚消えることを許されないなどとは誰も想像してなかったのでしょう」

「それでも利益も無いけど不利益も無いから救済されないわけね」

「日本の神は多すぎて我々末端の事まで手が回らないのです」

 どこかで聞いたような話だな……世知辛いものだ。

「ビクティニアス、どう思う?」

「そうね……私が思いつく方法が有効なら簡単に解決すると思うけど?」

「「「「「「本当ですか⁉」」」」」」

 ビクティニアスの言葉に色めき立つ付喪神たち。

「どうするんだ? そんなに簡単なら誰かが解決してるように思えるんだけど」

「それが出来る権限と能力の両方が無かったんじゃないの?」

「権限と能力か……具体的にはどうするんだ?」

「ホームセンターでもマサルは同じような事してたじゃない。ほら、依り代が壊れたら直せば良いんじゃないの?」

 確かに神の依り代と聞かされて特別な物と思っていたけど、よくよく考えてみると元々は誰か人間が普通に作ったものじゃないか、そう考えると確かに難題とは思えない。

「分かった、ビクティニアスは悪いけど何の付喪神なのかの聞き取りをしてくれないか? 俺はそれを作る為の資料を探すよ……取り敢えず古くて今使われていない道具なら直ぐには作れないからな」

「やっぱり再現とかは難しい?」

「ここは日本だから資料探しも資材調達も難しくはないさ。ただ昔の設計をそのまま使うべきなのか? それともある程度魔改造しても大丈夫なのか? って検証は必要だろうな」

 例えば、当時は青銅で作られていたとしても現代で形代にするのに本当に青銅で作る意味はない気がする。鉄製にしたりチタン製にしたりするだけで性能や強度が上がる物も多いだろう。

「魔改造って……いや聞かない方が良いわね。ただ……期待してるわよ!」

「ちょっとビクティニアス様っ! 元日本人の神であるマサル様が魔改造とか恐ろしいんですけど⁉ 止めて下さいよ!」

 付喪神たちの悲鳴で周囲が騒めいているが俺とビクティニアスは悪戯を思いついた子供のようにワクワクが止められない。

「鍛冶場使わせてくれる工房は加治さんのとこか……鋳造の出来る作業場もいるなぁ」

「製造神の本気見せてやりなさい! こんな所で遠慮なんてするだけ損よ!」

「ちょっと手加減くらいして下さいよ⁉」

「「なんかあったら天照様に丸投げすれば良いじゃない」」

 内心では俺もビクティニアスも新婚旅行中に余計な仕事させるんじゃないと自棄になっていた部分が無かったとは言い切れないが、この瞬間から俺とビクティニアスは自重の壁を完全に破壊して突き進んでいったのであった。



「ちょっとマサル! あんた何をやらかそうとしてるのじゃ⁉」

「んっ? 神様の療養所と職業安定所(ハローワーク)?」

「なんでそんな事に……ってそれは神鋼(オリハルコン)なのじゃ⁉」

 そう自重しない俺は少量だが神鋼を生成している。

「なんで縁もゆかりもない付喪神にそこまで?」

「縁もゆかりもって言うけど俺の住んでいたこの日本はこういった道具や神様が頑張って積み上げてきた世界だろ? 感謝こそすれ見捨てるのは忍びないじゃないか」

「そうだとしてもこの世界にはもう彼らの仕事が無いのじゃ!」

「それでも放っておけな………………んっ? 今……」

 今なにか大事な事が過らなかったかと俺の勘が囁き始める。

「なんじゃ? 今大事な話をしてるのに考え事を始めて?」

「さっきなんて言ってた?」

「だからこの者たちがまた神としての姿を取り戻したとしても仕事も役割も無いのじゃ!」

「それだ! 仕事が無いんだよな? この世界には(・・・・・・)」

 この世界には無くてもアルステイティアにならあるのでは? この世界では旧式で使わなくなった道具でも水汲みポンプのようにアルステイティアでは最新技術になるのでは?

「何を考えておるのじゃ……」

「んっ? 彼らをアルステイティアに迎えて新しい世界で働いて貰えないか?」

「そんな事不可能なのじゃ! 前例が無いのじゃ!」

「不可能って……何か問題があるのか? 前例が無ければ前例になれば良いだけだし」

「神を他の世界に移すなどと許されるものか!」

「うちのフィナは元邪神だし他の世界の神だけど今はアルステイティアの神だぞ?」

「えっ……問題ないのか?」

 天照様も意外な俺の返答に「大丈夫だったっけ?」と困惑しだす。

「取り敢えず問題があるならどこが問題なのか教えて欲しいんだけど……」

「問題点? あれ? なんで違う世界に行ったら駄目なんじゃ?」

 意外と問題がある駄目と言われている事にも突き詰めると何故駄目なのか分からない事もあったりするのだ。

「人間なんかの普通の生き物は世界を渡れないだろ?」

「そうなのじゃ。余程の運が無ければ生きて世界は渡れないのじゃ」

「神は普通に渡れるよな?」

「異世界に行く方法を持っているかと言われたら神でも殆どの神は持っていないが、方法さえあれば渡れるのじゃ」

「じゃあ問題は無いんじゃない?」

「何だかそんな気がしてきたのじゃ」

 少しずつ洗脳されてくる天照様。

「じゃあ作業進めときますんで何かあったら言って下さいね」

「分かったのじゃ……ってその神鋼をどうする気じゃ⁉ 計画でもあるのなら教えるのじゃ……って無視するのはズルいのじゃ! 何かあったら言えと言ったのじゃ……」


薬研(やげん)の付喪神の場合

「薬研って何だ? いきなり聞きなれない単語が出て来たんだけど……」

「あの……時代劇なんかで薬師の人が薬や漢方を粉末にする時に使う道具なんですが」

「分かった! 腹筋ローラーみたいなやつだな!」

「……腹筋ローラー……確かに似てますけど」

 そんな不服そうな微妙な返事を返してきた人魂姿の付喪神を無視して作業に入る。

「それにしても薬研って何だかんだでまだ使われてそうな気がするんだけど」

「まだ確かに使われている所は有りますが、もう付喪神としての力の維持を出来ません」

「そうなんだ、俺は一回使ってみたかったけどなぁ……薬を作ってると言ったら乾燥させた薬草を薬研でゴリゴリと砕いているイメージが子供の頃には強かったな」

「それは嬉しいですね」

「それにしても腹筋ローラーでゴリゴリ……薬研の付喪神の姿はもしかして滅茶苦茶マッチョ?」

「ちょっとやめてくださいよ⁉ 依り代なんですからマサル様のイメージは大きく影響するんですよ」

 時既に遅く、鉄に神鋼を少量混ぜて作られた依り代の薬研……乗り移った付喪神の姿はボディビルダーを髣髴とさせるマッチョマンな姿であった。



 ♦大八車の付喪神の場合

「大八車? なんだこれも時代劇のド定番じゃないか」

「時代劇で使われても仕方ないんですが……」

「そうだな、さすがに総木製の人力荷車は重いし壊れたら修理も難しいから現代では流石に需要がないな」

 大八車に使う程に丈夫な木材は本当に重い……そして何より購入しようと思うと間違いなく高くつくのは目に見えているだろう。

「っていうかそもそも米俵とかのサイズの物を人力で運ぼうって現代では思わないしな」

「車が一般家庭でも普及してますしね」

「台車にしても軽くて安い物がたくさんあるしなぁ……そもそもの話、二十キログラムを超える物は腰を痛める可能性があるから人力で運ぶ事を推奨されていない」

 怪我をしない為に基準が明確になり規制は厳しくなっているのだ。

「そもそもの話から使うシーンが無いって事ですか?」

「勿論大きな物や重い物を運ぶ事はあるけれど、より楽により安全にを基準に方法も道具も進化室頭けているな」

「じゃあ古い道具の出番なんて無いじゃないですか!」

「そんな事はないぞ? 最近は運搬に車が入れない場所に荷物を運ぶのにリアカーなんかが見直されていたりするんだ。アルステイティアだと動がないから普通に大八車は喜ばれると思うな」

「お役目があるんですか⁉」

「地球の人間よりタフな獣人たちなんかは重宝するだろうな」

 俺の言葉に人魂姿の付喪神は嬉しそうに点滅を繰り返す。

「その為にも少しばかりバージョンアップしておこうな」

「ほえ? バージョンアップですか? 車軸を鉄で補強です?」

「ベアリングも入れて各所に補強もしっかりやっておこうな。重い物も簡単に運べるマッチョになってくれないと困るしな」

「えっ? マサル様? マッチョは止めて下さいよ……って聞いてない⁉ ちょっとマッチョは駄目ですってぇぇえぇぇぇっぇ!」



 こうして様々な付喪神たちが姿も機能も心機一転され、神々の力を取り戻していったのだが少しばかり個性の強すぎる姿が多すぎた為に高天原の神々は『祟らぬ神に祟りなし』と近づく事は無かったのであった。



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― 新着の感想 ―
[気になる点] アルステイティアだと動がないから普通に大八車は喜ばれると思うな   動がないから     考えてみたら    自動車がないから かも…?
[気になる点] 「勿論大きな物や重い物を運ぶ事はあるけれど、より楽により安全にを基準に方法も道具も進化室頭けているな」 「じゃあ古い道具の出番なんて無いじゃないですか!」 「そんな事はないぞ? 最…
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