眷属の誕生
「マサル、もう大丈夫?」
「えっ、いや……もう少しここを均一に仕上げたら終わりかな?」
結婚式が行われて数日の大聖堂では俺とビクティニアスを中心として神の儀式を行うと言って、敷地内から全ての人々に退出願い椅子を片付けカーペットを一度退けて魔法陣を床石に書き込む作業を行っていた。
「もう細かいわねぇ、これだから物作りの神は……」
「アテナ! マサルは必要な仕事を手を抜かずにやっているだけです。ヘパイストスの事があるのでしょうが正当な仕事をしている者にその様な言い方許しませんよ!」
「っ……ごめんなさい」
珍しく素直に謝るアテナ。
「別に良いんですよ、物作りのそういう面が悪く言われるのは神だけじゃなく人も同じでしたから慣れましたよ」
「いいえ慣れてはいけないのです。私には分かっているのです、そういう物言いをした場合は相互理解の足りなさ故にどころか言っている方の完全な言いがかりの方が多いという事を」
そもそも仕事によって同じ事をしても細かいの定義が違う。そのような事をそれこそ気にしてはキリがないのだ。
「魔法陣だからな精密にこした事はないし、特に今回のように大規模なものならどれだけ神経を使っても使い足りないよ」
そうなのだ、今書いているのは世界的に間違いなく最大の効力を発揮する魔法陣でこの世界アルステイティアに接続する為のものだ。
「何度か試してみたけど何故かスキルは発動しなかったからな、残る可能性としては俺たち二人だけじゃなくアルステイティアとの三人? セットという可能性だからな」
「本当に大丈夫なの?」
「大丈夫か? って聞かれたら大丈夫としか言えないな?」
「なんでそんなにはっきり言えるのよ」
「分かるからとしか言えないな」
これは本当に俺とビクティニアスだけが感じている感覚で説明しようが無い。
「姉様、周囲への結界を確認して来ました。人払いは完璧です」
アイラも人が完全にいないのを確認して来てくれたようだ。
「こっちも何とか魔法陣が完成したところだ」
「消えたりしない?」
とビクティニアスは不安そうに聞いてくる。
「ちゃんと上から偽装用の塗装をして保護しているし、上にはカーペット引くから大丈夫だと思うよ」
と実際にカーペットを引くと力ある神でも一見したくらいでは何かしてあるとは分からないだろう。
「じゃあ、二人ともチューよ!」
「「ぶふっ!!」」
突然に叫んだヘラの言葉に吹き出す俺とビクティニアス。
「なんでキスしないといけないんだ!?」
吹き出した口を吹きながら聞くと
「やっぱりここまで来たら再現性を重視すると誓いの口付けなのかなぁって」
「だとしてもいきなりそこに行き着くか?」
「そうよ! キスは関係無いって既に分かってるんだから」
「ちょっ!? ビクティニアスそれはっ!」
「ふぅん、もう二人で試した訳ねぇ〜」
ヘラもアテナもアイラでさえニヤニヤして俺たちを見てる。
「子供みたいな事やってないで進めましょう」
そう言って大聖堂の二階テラス部分から飛んで降りてきたのは護衛役をすると言って聞かなかった完全装備のフィナだ。
「フィナ、あんまり気負わなくても大丈夫だぞ? ヘラ様は強いしアテナだってああ見えて戦神でもあるんだから」
「それは良いですけど、ビクティニアス様と何か分かっていたなら言って頂いても良かったんじゃ無いですか?」
咎めるような目線で見られてもキスは試したよとか誰も言わないから!
実のところ、俺とビクティニアスは二人でスキルを試していた時に幾つかの疑問に打ち当たっていた。
それが以下の通りである。
①自分たちの現在の力で実現可能なのか?
②場所や時間帯に左右されるのか?
③何を媒体にしたスキルなのか?
④その他の影響を受けていないか?
それを踏まえて検討や実験をした所、
①は検証不明。
②シチュエーションも含め実験したが反応無し
③媒体となるのは魔力か神力ではないか?
④アルステイティアが力を補佐していた? 周囲の神の影響?
という考えに至ったのだった。
「となると今日の実験はまずアルステイティアとの接続を試みてみてスキルを魔力か神力で発現しようとしてみるくらい?」
他に何か条件があったらきっとスルー取り敢は取り敢えず延期になるだろう。
「じゃあ、魔法陣を起動させるわよ?」
「あぁ、頼む」
アルステイティアと接続する為の今回の魔法陣は魔法陣なんていう癖に神力でしか発動出来ない。それも高度なアクセス権が必要なので間違って起動はしないのである。
「「あっ」」
アルステイティアへの接続が始まると俺とビクティニアスにはもう成功が分かってしまった。
「このまま行くわよマサル!」
「分かってるさ!」
結婚式の時と同様な光が俺とビクティニアスを包み込むのであった。
「はじめまして、お父たまお母たま。やっと会えました」
光の中から出てきたのは結婚式の時に見えた翼ある少女。
「お父様、お母様って……」
「ねぇ、私たちそんな……」
俺とビクティニアスは自分たちの力から産まれたのを意識したのと父と母と呼ばれた為に、少女姿も何にも構わず既にデレデレである。
「チョロ過ぎますわ……姉様もマサルも……」
アイラもしょうがないと言いつつ目尻が下がりっている。
「貴方たち、眷属っていうのはそういう対象じゃないでしょう? 部下なり補佐なりという立場なんですからキッチリと立場を教えて」
と真面目な委員長キャラなアテナは言っているが可愛がりたくてウズウズしているし、
「ほら、ばあばはこっちよ」
とヘラも駆け寄っている。
「あれっ? この子翼が八枚あるな……」
「「「「翼が八枚!?」」」」
俺の言葉にやっと正気になった女神たちはじっくりと少女の翼を観察し始める。
「これは……完全に高位天使ね。クラスで言うと下位の神と遜色ないくらいの力はあるくらいね」
「「流石は俺の(私の)娘っ!」」
ヘラの解説に思わず俺とビクティニアスは同じように興奮し、喜ぶ。
「本当にマサルとビクティニアス様の相性が良いのも、お二方に愛情があるのも宜しいのですが……少しウザい」
フィナの言葉には流石に共感出来たのかアテナも深く頷いていた。
「誕生した段階でここまでの力を持つ天使は地球でも指折り数える程しかいないもんねぇ」
「そろそろ姉様、彼女に名前を付けてあげないと可哀想だと思いますよ」
アイラがそう指摘するのだが、
「えっ? 名前? う〜ん……マサル思い付かない?」
ビクティニアスはどうもそういうのは苦手なようで俺へ振ってきた。
「俺か?……そうだな『可憐』でどうだ?」
「日本語ね。でも音もとても素敵」
大人になる前のとても儚い少女とも女性とも言い難い頃合いの姿に連想して出た言葉だ。
「可憐……カレン……貴女の名前はカレンよ」
ビクティニアスが告げるとカレンはまたほのかに光だす。
「私は……私の名前はカレン。ビクティニアスを母に持ち、マサルを父として両神を守護する者」
突然、お父たまお母たまと言っていたカレンの物言いが成長している……名付けによって精神が成長したのだろう。
「お父様、お願いがあります」
「なっ、なんでしょう?」
突然のお願いに構える俺。
「私の為に剣を一振り打って下さいませ。お母様もお父様も護れる至高の剣を私に!」
「うん、いいけど……一つだけ訂正してくれるかな?」
「「「「「「?」」」」」」
全員が俺を疑問の顔で見る。
「俺やビクティニアスを護るのは良いけど、先に自分を大事にしてカレン自身を護れ」
「でも、それじゃあ!」
「それが出来ないなら俺の護衛は要らないよ、自分の身くらいはどうにかするさ」
そう言って背を向けた俺にヘラが待ったをかけた。
「マサルは何か思い違いをしているようね? 神に成り立ての貴方と闘神としての資質を持つ高位天使のカレンちゃん、どちらが強いのでしょうね? 大人しく護って貰ったら?」
「いや、これは俺の……なりたてですが父親としての意地です。家族を護るのは父親の役目です。これは譲れません」
「では、勝負です! 私と剣で勝負して下さい」
「良いだろう。カレンの実力見せてもらうよ」
こうして父と娘の戦いの火蓋は落とされたのだった。




