タイトル未定2
大聖堂にパイプオルガンの身体の芯に届くような音色が何処からともなく流れ、遂にその時が来たかと列席した人々が入口へと集まっていく。
厳粛な雰囲気に無駄な話をする者はおらず指定された席へと向かい、これから何が起こるのかと緊張して周囲を見渡している者が多い。
参列者の中にはグレイタスのアクシオン王を始め、ヴィンターリアのアデリナ女王、大陸外からも様々な国の国王や王族が転移で来ているが、この式に限って言えば一般人と大した差のない扱いを受けているがその事に誰も文句を言う者はいない。
「にしてもこのような建物が半年で建つとは……」
「上下水道完備で地下から温泉まで引いているみたいですね」
アアクシオンとアデリナが話をする内容を興味深そうに聞く他の王族関係者たち。
「あのステンドグラスといったか? あれも素晴らしい」
「ふふっ、あのガラスは最終的な加工こそマサルがしましたが色ガラス事態はマサルの弟子リュリュが中心になって作ったのですよ」
「ほう? 余の国のスラムにいた娘が立派な職人となったのだな」
スラム出身と聞いて鼻で笑い優秀な職人ならと引き抜きを考える王族もいるが当然誰もマサルの傍で学ぶ程のものを提供できず後に逆に鼻で笑われてしまうのだが仕方のない事だった。
「神々の入場です」
突如響いたフィナの声に皆席を立ってその場に跪く。
何も無い宙から大聖堂の二階テラス席の中に降り立ったアルステイティアの神八柱とアテナが席へと腰を下ろす。
「皆様も席へどうぞ」
フィナの呼び掛けに音を立てない様、慎重に席へと身を滑り込ませる人々。世界中の人々もそれをモニター越しに息を呑んで見守っている。
「続いて今回の結婚の儀を執り行って頂きます婚姻を司る女神ヘラ様の入場です」
「「「「「「………………」」」」」」
「ん? 誰も来ないぞ? ……あっ!」
人々が不安を感じ始める程にたっぷり間を取ってから起こったのは天から祭壇を照らし出すスポットライトの様な光……その中に透き通ったヘラが少しずつ実体をはっきりと具現化しながら降りてくる。
あまりの神秘的な光景に誰もが息をするのも忘れて見いる中、まったく別の思考をする者たちが神々の中にいた。
「(もう、なんですの! 今日は姉様とマサルが主役なのに儀式を執り行う者が目立ってどうするんです‼)」
姉大好きなアイラセフィラは内心地団駄を踏んで怒るがここでは顔に出せない。
「次は新郎新婦の入場です」
周囲の人々と一緒になって呑まれていたアデリナの正気も戻り式が再び進行をはじめる。「神殿から新郎と新婦が入場します。神殿に注目下さい」とアデリナが声をかけた為、正面の門に視線が集中する。
「「「「「「………………」」」」」」
「……また来ないぞ?」
誰かがそう呟いた時、静かに流れていたBGMが曲の変更と同時に突如音量を上げる。
定番のワーグナーの結婚行進曲だが、高音質で流される荘厳なパイプオルガンの演奏に誰もが胸をトキめかせ、新郎新婦の姿を待つ。
誰も触っていないのに開く扉………そして神殿の奥から祭壇までの道のりを、赤い絨毯の様な光が照していく。
「あっ! 来たよ!」
メイが大興奮で大聖堂の奥を指差すと空から薔薇の花びら程の光がヒラリヒラリと舞い降りてくる。光で出来たフラワーシャワーにヘラが登場した以上に我を忘れた人々の中には、急に何かに祈り始めた者さえいる。
「……派手だな……」
一人自分の結婚式を思い返していたザークが声を漏らした。
BGMと光のレッドカーペットとフラワーシャワーで注目を一身に集めた新郎新婦は粛々とした雰囲気を感じさせない悠々とした態度で祭壇へと歩いていく。
演出に利用した光によってビクティニアスのドレスにされた刺繍は美しく浮かび上がり女性たちの視線を釘付けにし、マサルの燕尾服の銀糸も光を反射して輝いて見える。
派手は派手なのだが、決して見る人を不快にさせる様なゴテゴテした派手さではなく、新郎新婦の飾りとしてしか主張しないのは着る者が神である事を除いても一級品の証と言えた。
祭壇の前にマサルとビクティニアスが着くとBGMも次第に落ち着きヘラの持つピリッとした緊張感のある儀式の空気へと変わる。
「これより、この世界の最高神である新婦ビクティニアスと新しく神の位に就いた新郎マサルの結婚の儀が執り行われます。皆様、起立して祭壇の方をご覧下さい」
アデリナの緊張した声が響く。『では、宜しくお願いします』とヘラに頭を下げフィナは役目を終えて自分のテラス席へと向かう。
「では、ビクティニアス……そしてマサルよ。その方らが守護するアルステイティアの世界へと誓いを立てよ」
「「我ら、ビクティニアスとマサルは世界に誓う。このアルステイティアと共に歩み、守り、育んでいく事を……互いを敬い、愛し、永遠を過ごす事を」」
「……永遠……長いわよ? 人の言う永遠じゃないけど後悔しない?」
意地悪な笑みをマサルに向け問いかけるヘラ。
「ふんっ、ヘラ様はあのゼウスと結婚して後悔してるのかよ?」
「後悔なんてしまくってるに決まってるでしょ」
「それでも愛してるんだろ? じゃあ、俺たちも問題無いさ。後悔しない生き方なんて本気じゃない証だろ? 大いに後悔して、その中で俺たちの幸せを探してやる! なんせ時間はたっぷりあるんだから」
「そうね、後悔なんて超える何かを探し続ければ良いのよね」
「眩しい……眩しすぎるわ」
マサルとビクティニアスの誓いにヘラはおどけながら、苦笑を漏らす。
「「愛こそ全てさ(よ)」」
「……くっ、あの馬鹿に見習わせたい……負けた感が半端じゃないわ……」
何やら本気でダメージを受けたヘラは投げやりに進行をする。
「では、誓いのキスをして頂戴……わたしは少し休ませて……」
「「……キス」」
思わず目が合い顔を真っ赤にする新郎新婦。
「え? まさか……」
「神事での結婚の儀式に誓いのキスはなかったですよね?」
「マサル……何言ってるのよ。貴方がアデリナ女王の結婚の儀で正式な形体にしたんじゃないの。ちゃんと責任取りなさい」
自分の行いが自分に帰ってきて言い返す事も出来ない。
「……ヘラ様? やらないといけないですか? まだ私とマサル……キスとかしてない」
「子供か……あんたらねぇ……さっきの誓いは何だったのよ。力が抜けるわ……良いからやりなさい」
ヘラの視線を逃れようとするとアデリナとザークと目が合ってしまう。
「(逃げるんじゃないわよ! 自分たちが始めたんでしょ‼)」
「(ここまで来て往生際が悪いぞ‼ ほら、早く!)」
またもや視線から逃れる様に来賓たちの方へと助けを求める……。
「ヤバいわよ……みんな視線がキラキラしてる……逃げられないわ」
「どうしようか! 腹を決めるしかないのか⁉」
本気でウブな新郎新婦は狼狽え、顔の赤みだけが増していく。
「……よ、よし! いくぞ、ビクティニアス!」
「はっ、はい! よろしくお願いします!」
ビクティニアスの肩を抱き寄せ、少しずつ二人の顔が近付いていく。時間をかけた分だけ、周囲からの期待はドンドン膨らんでいき、熱を帯びた視線が増えてくるのを感じながら遂に唇が重なる。
「「「「「「おおおおぉっ!」」」」」」
思わず歓声が起こり、続いて拍手が街中を割れんばかりの勢いで満たしていく。
「「「「「「…………………」」」」」」
「あれ? 長く無い?」
マサルとビクティニアスは唇が重なった瞬間から時間が止まった様に硬直している。
「ちょっと二人とも? そろそろ終わっても良いのよ?」
ヘラが二人を止めようとした瞬間、マサルとビクティニアスは黄金に光を帯び始めたのだった。
「今度はなんだ⁉」
「ちょっとマサル、演出過剰よ!」
アイラセフィラたちはは素直に驚き、ヘラ様はまた魔導具の演出だと思ったのか抗議の声を上げている。
「えっ? 俺は何もしてないぞ?」
「何で私たち光ってるの!」
俺たちも驚きの声を上げた事で更に事態が分からなくなり、人々の中にざわめきの声が広がっていく。
「おっ……光が弱まっていくぞ」
徐々に失われる光からマサルたちの姿が見え、その先……ヘラと新郎新婦の間に一瞬だけ知らない人影が見え、見ていた神たちが一瞬で戦闘態勢へ移る。
本気の神の力が近くで複数発揮され、人々は怯え逃げ出す者や、気を失う者……神たちに追従して戦いに加わろうとする者など大混乱に陥った。
「静まりなさいっ!」
ヘラの一喝。ただのそれだけで戦闘態勢になっていた神々や混乱に身を投じる人々の動きが止まった。
「何も問題ありません。各々武器を収めなさい」
ヘラの言葉に自然と皆、武器を下ろしたが、その中でアイラセフィラだけがヘラに食ってかかった。
「何故ですか! 先ほどの影は突如、神の儀式に現れたのですよ!」
突如現れ消えた影は外見は少女とも大人の女性とも言えぬ微妙な歳頃な女の子で、背中からは白い翼が生えていた。
「んっ? 翼……天使?」
ヘラはそっと手を伸ばして女の子のいた場所に触れる。
「本当にあなた達はこの世界に愛されているのね……さっきのは世界からの祝福よ」
「「「「「「えっ⁇」」」」」」
ヘラを除いた全員が情報の処理が出来ず止まってしまう。
「なんだかんだ言って、人前でなかなかやるわね! 結婚の儀の最中に子作りだなんて」
「ふぇ⁉ 子作り⁉」
ビクティニアスが全身真っ赤になって狼狽え始める。
「正確に言えば眷属だけどね。にしてもキスしただけで天使が産まれかけるとか……貴方たちの相性はかなり良いみたいね。これでアルステイティアの神界の人手不足は解決出来ちゃうわね♪」
「そういえば……神様の産まれるシーンってエグい話多かったですよね。もしかして、俺とビクティニアスの子供ってこんな感じで大増量か?」
「神の誕生をエグいとか言わないの! 人間の子供の産まれ方の方が余程生々しくてエグいわよ」
「神の誕生秘話はエグいの意味が違うわ! 人は産まれる時に親に食われたり殺しあったりせんし……」
「要らない事をよく知ってるわね。そんな意地悪を言うなら色々教えてあげないんだならね!」
ヘラが頬を膨らましプイッと横を向く。マサルとビクティニアスは顔を見合せ苦笑してからヘラへと向き直る。
「ヘラ様、怒らないで下さいませ……私たち動揺してたんです」
「そうですよ。ヘラ様は笑っている方が素敵ですよ」
「そ、そう? じゃあ、仕方ないわね。わたくし、ビクティニアスの母親みたいなものですものね。ちゃんと色々教えてあげなくっちゃ!」
「「「「「「(チョロい……)」」」」」」
「大丈夫よ、ちゃんと子作りすれば普通に産まれるわよ。その場合はちゃんと神様が産まれるけど、マサルが神界に住む様になってからが良いわね。つまり、後百年は先かしら……それまでは眷属で我慢してね!」
「ちょっとヘラ様! 世界中に放送されてるから!」
「「「あっ……」」」
マサルとビクティニアスとヘラはその日、形式通りに式を終え、二日程神殿に引きこもるのだった。
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鳴海 優
職業《製造神》
所属
称号《新たな神》《甦りし者》《超越者》
レベル/38→42
生命力/901→1017 魔力/945→1034
力/541→609 体力/303→342
精神/402→450 素早さ/298→332 運/117→123
スキル《製造・神業》《神鋼生成》《眷属の誕生》
《剣術10》《棒術10》《槍術10》《弓術10》《杖術10》
《体術10》《治癒魔法10》《鑑定10》《探索9→10》《解体10》
《算術9→10》《美術9》《歌唱9》《精密10》《言語翻訳》
《収納空間》《地図》
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「スキルが増えてるな……」
【眷属の誕生】
創生の女神ビクティニアスと製造の神マサルぼ結婚式でアルステイティアからの祝福として贈られたスキル。二柱がともに行使しないと使用できない。
「なんか俺とビクティニアスの眷属って形で子供が出来るって言われると使いにくいな」
「でもアルステイティアには実際に世界の運営が出来る存在が必要なのよね」
「俺もフィナが神界にいないし実質九柱で世界の運営をしているもんな」
「マサルとフィナが来て使える神力が増えたので以前に比べるとかなり楽なのよ?」
そういうが一つの世界を九柱で支えるのはきっと容易なことではないだろう。
「なぁ、ビクティニアスきっとアルステイティアは良い世界になるよな?」
「勿論よ、私たちがいればどんな困難も余裕で乗り越えられるわ」
そこには世界に落胆していた頃のビクティニアスは既にいなくなっていた。




