何しに来たのって……!?
結局なついた羊と山羊の群れを連れて船の前まで戻ると俺は目一杯フィナとメイとリュリュに怒られた。
これは仕方ないのだが……。
「羊は可愛いけど山羊は怖い」
とストレートな意見をぶつけられて落ち込む山羊たち……良くみると愛嬌もあるのに可哀想である。
「じゃあ、マサルは単独行動で皆に迷惑と心配かけた罰として夕食作りですからね!」
フィナはそういうが嬉しそうにメイとリュリュを連れてテーブルや皿の準備に向かったので怒りよりは食欲が勝っているなと胸を撫で下ろした。
「遅くなる前に夕飯の仕度をしますかね」
チラリと用意されたばかりのテーブルを見ると既にビクティニアスが椅子に座って待っている……その顔には『蟹や海老が欲しいわ』と書いているようだ。
「ちょっと海をみてくるかな?」
港町ニトリを作った頃は水中生物と水中で戦うのにもビクビクしていたが、何度も水中作業を繰り返したお陰で既に大抵の魔物では俺も驚かなくなっている。
「装備はナイフと銛があれば良いかな?」
海へと飛び込むと岩場とカラフルな海藻の森が広がっている。
「(これはまた食材が期待出来そうな豊な海だな)」
ナイフで海藻を適当に間引いて視界を確保しながら隠れていた魚や海老、貝など多くの食材を確保する。
「(人を敵として認識してないから凄く楽に採れるな……危険な生き物はいないみたいだし)」
気がつくと三時間も潜って食材探ししていた様で日が傾きかけていて急いで調理の仕度をしないといけないと焦ったが、陸では仁王立ちでメイとリュリュが待ち受けていて再度『何で一人で危ないことするの!』と母親のように怒られて少し嬉しかったりもした。
「ああやって怒ってくれる人は大事にしないとね」
と笑うビクティニアスとフィナ。
「取り敢えず、晩御飯作らないといけないし……これくらいで許してくれないか?」
「「……反省してる?」」
「勿論!」
「「じゃあ、許してあげる」」
反省はしてるけどきっとまた同じ事を繰り返すだろうと思いながらも、こうやって心配してくれるのは嬉しいし心配かけたくはないと思うのは本当だ。
「今夜は何を作るの?」
「みんなお腹空いているみたいだから簡単にカルパッチョを前菜にして、海鮮クリームパスタにでもしようかな? 潜ってたら巨大な影に陽を遮られたから何かと思ったら巨大な四角い物体が水面の辺りを泳いでたんだ」
二メートル四方の四角い物体に上を通過されたので比較的浅い岩礁の辺りでは急に暗くなったと感じ驚いたものだ。
「それで鮫の仲間のエイかな? と思ったんだけど泳ぎ方がおかしい。それでよく観察すると巨大なヒラメだったんだよ! これは刺身にしても昆布締めにしても旨い! と思ったけど少し時間と手間をかけた方が旨いから手始めにカルパッチョにしてみようと思ったんだけど」
カレイは煮付けや火を通した料理に向いていて、ヒラメは生で食べる方が美味しい。
「パスタの方はクラムチャウダー風の感じで貝や海老をたっぷり入れたのが食べたいなぁって思って準備してる」
海老という単語にビクティニアスが反応するのを視界に捉えて笑いを堪えた。
「しかし、ビクティニアスがいる光景にもみんなも慣れてきたな」
「船が出来てから何だかよく地上にいらっしゃいますものね? 何かありました?」
フィナがそう聞くとビクティニアスはそっぽを向き、メイとリュリュの視線はビクティニアスへと注がれる。
「お兄ちゃん、何かありました?」
「師匠、何かあったんでしょうか?」
白々しいメイとリュリュの質問に俺もビクティニアスも返答に困り何となく料理に視線を向けて無言になる。
「おっ、ヒラメ味見してみる?」
「そ……そうね、少し味見してみようかしら?」
「マサルもビクティニアス様も誤魔化すの下手過ぎですよ」
フィナの指摘に余計に顔が誰とも会わせられない俺とビクティニアス。
「ねぇ、ヒラメが布団くらいあるんだけど」
「意外と油がしっかりしてるから寝たらベトベトするよ? 流石に二人は寝れないかな?」
「えっ? ふっ……二人で?」
「いやいや、例えばの話だよ!?」
どんどん勝手に深みにハマっていく俺とビクティニアスはこのままでは危ないと互いの顔をチラリと見て頷き沈黙する事に決めた。
「……リュリュちゃん、一瞬で連携取ったよ……」
「あれで通じるんだねメイちゃん……」
余計に墓穴を掘ったと気がついたがこれ以上会話で追い詰められるよりマシだと沈黙を守る。
「……よし! 食べようか!」
「そうね! せっかくのパスタが冷めちゃうし」
「「「「「「………………」」」」」」
俺が悪いのか!? どうしろっていうんだ! そんなちょっと心の折れかけたその時、
「メイちゃんもリュリュちゃんも自分の事は棚に置いて面白い話しているんですね? フィナもですよ」
「「「アイラセフィラ様っ!」」」
見かねたのかアイラが転移で現れ三人を叱るとさっきまでの少し刺々しい空気は無惨した。
「だいたいマサルと姉様を責めても仕方ないですよ、二人ともポンコツで何も起きていないのですから」
「「「えっ?」」」
「確かにマサルは姉様に想いを告げましたが何も進展していないのです」
何故か全てを暴露されていっている気がしてならない……。
「だいたい姉様は何をしに来たんですか?」
そりゃあ、失踪していた俺を探しにじゃないの?
「マサルの居場所なんて一瞬で分かりますよね? 捜索とか言わないで下さいよ?」
「そう言えば、神界でよくマサルの様子を見てらっしゃるんでしたっけ?」
アイラが問い詰めるとフィナが思い出したかのように捕捉する。
「じゃあ、師匠が行方不明になっていた間も見てた?」
「それは違います、姉様は他の世界に神様のお仕事で行っていたので見てなかったのですよ」
「他の世界でお仕事?」
「所謂、式典みたいな行事に参列していたのです」
神様もなかなか忙しいようだ。
「その後に色々な神様たちが持ち寄った『あの世界は今?』とかいう映像を肴にトークしてただけよ?」
なんだよ、その最近テレビに出なくなった芸能人を追跡調査したような映像は!? 見て面白いような世界があるの!?
「神様って……大変なんですね」
メイが難しい顔でそういうが、違うからね! 『あの世界は今?』はきっとそういう真面目に世界を心配するネタじゃなく笑える系の映像だから!
「なんでそう話がズレるんですか……事の本題は何故姉様がわざわざ地上に降りて単身でマサルの元へと向かったのかと言う事ですよ」
「「「「「「ああ!」」」」」」
アイラの指摘はどうも的を射ていたようで俺意外の全員に伝わったようだ。船員たちまで納得顔されてるし!
「ん? どういう事なんだ?」
周りを見渡し質問すると、
「本当にわからない!?」
「ニブい……」
「本当にポンコツ……」
メイとフィナ、リュリュにまでため息をつかれる、
「つまりどういう事?』
「姉様はマサルの告白の回答をしに来たハズなんです」




