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島と羊


身体をくすぐる草の感触と香り、そして強く体を揺すられる事で目が覚める……なんだか懐かしい感じがするな。


「こんなところで寝てたら死んじゃうわよ! 起きて! 起きなさい!」


身体を揺さぶられ続けて覚醒すると金糸の刺繍に彩られた白いドレスが視界に入る。


「ん? うさ耳? ……は、無いな……」


なぜこんな所で眠っているのか? 全く覚えていない。


「マサル大丈夫なの? 動ける?」


「あぁ……なんとか動けると思う。なんでビクティニアスがここに?」


心配そうな顔で俺を覗き込んでくるのは創生の女神ビクティニアスだ。基本的に地上への介入は出来ないハズなんだけど?


「マサルはなんでこんなところで寝てたの? この辺りは魔獣が大量にいるから変なとこで寝てたら死んじゃうわよ?」


「マジで⁉ って……この感じ本当に懐かしいな」


「懐かしい? 何がよ?」


「このアルステイティアに初めて来たときにメイに同じように起こされたんだ」


「そう言えば人族の集落に行かせようとしたのに先にメイちゃんに会ったのよね」


 あれから何年も経ったなんて思えない……あっという間に過ぎていった日々は何一つ色褪せずに輝いている。


「なぁ、ビクティニアス……船は、フィナやメイ、リュリュは無事かな?」


「大丈夫よ。フィナから連絡貰って三日も消息不明だって言われたからこっちの方が心配したわよ」


「三日も消息不明⁉ そんなに経っているのか⁉」


 確か船を降りてから直ぐに島の中心へと向かって走っていたら……。


「あれ? なんで寝てたんだ?」


「マサルは走りながら眠ったようよ? ほら盛大に地面に跡が残ってるわ」


 見ると多分倒れた場所であろうポイントから鎧や小手が当たって地面を三十メートル以上にわたって掘り返している……余程の勢いで倒れ転がったはずだが、次に問題となるのは、


「なんでこんな勢いで倒れて転がっていたのに起きなかった? 結構痛い倒れ方しているぞコレ」


「普通の人間なら下手したら首が折れて死んでいてもおかしくないわよね?」


「本気で交通事故レベルだから死ぬのが普通だぞ?」


「色んな意味で偵察がマサルで良かったわね、他の人だと色々とアウトよ?」


 間違いないないな普通の人なら三日放置されたら生き残れるか怪しいし、フィナなら絵面的にいかがわしくなる……えっ? 生体アーマーを着ていれば? 誰得なんだよ。


「でも一番の問題はなんでマサルが寝たかという事よね?」


「……メェ」


「そう、メェって……羊の声? あっ、走ってた時にも聞こえたぞ!」


「じゃあちゃんと気を張って今度は寝ないようにしてよね」


 そう言って羊の声の聞こえた方向に歩き出すビクティニアス。


「そう言えばマサルとこうやって地上を冒険するのは初めてね」


「ん? 雨季の草原のは……あれは違う?」


「あの時はマサルの住む場所だから調査をしてたし冒険って程じゃ……食べれるかどうかまでは調べようが無かったけど」


「あれから本当に蟹が好きだもんな、俺も好きだけど」


「海老も良いけどやっぱり蟹よね! 蟹のクリームパスタが最高ね」


 そのパスタはいつもビクティニアスに作る時は蟹の身を倍増したものを用意しているのでお気入りも当然と言える。


「っと、問題の羊さんのお出ましだな。これはまた沢山いるな」


 真っ白い毛に覆われたまん丸なフォルムに綺麗にを巻いた角は立派だが、その短い脚に危機感のない穏やかな表情がぬいぐるみを彷彿とさせる。その数四十匹ほど。


「可愛いわね……足が本当にあるのかってくらいに短いせいで怖さは無いわ」


「というか本当に魔獣?」


「内包している魔素の量からして間違いなく魔獣よ?」


「にしても多くないか?」


「っていうか多すぎじゃない? 魔獣化したのが繁殖したのかしら?」


 多分草食だろうと考え周囲を見渡してみたら一定の高さより高い草だけが食べられている。


「先ばかり食べているという事はグルメなのか、それか硬い下の方の草まで食べなくても良いほどに食べる物があるって事だろうか?」


「多分後者ね、魔獣は魔素や魔力を体内に取り込む事で食べる物量が少なくて済むから燃費が良いのよ。繁殖して魔素が濃くなったから燃費がどんどん良くなっているのね」


「それって大丈夫なのか? 魔素が増えると他の生き物の魔獣化も促進するだろ?」


「それは要調査って事じゃない? 別に魔獣はアルステイティアにとって異分子じゃないもの。他の生き物に大きな影響を与えないなら神は干渉しないわ。せいぜい種の肉体的な強化と長命になる事、後は特殊な能力の覚醒率が上がるくらいよ? 強く長く生きられるけど増えにくい欠点もあるし」


 強大で長い命は得られるが子孫が出来にくく増えにくいのか、あとは特殊な能力?


「もしかして特殊な能力って、強い催眠とかも可能性がある?」


「可能性は勿論あるわよって、もしかしてマサルが寝たのはこの子たちのせい?」


 人畜無害そうな顔で草をはむ羊たち……絵面だけで力が抜けるな。


「その検証はこの子たち次第だけど……なんかこの子たち暑そうじゃない?」


 ビクティニアスの指摘に羊たちをよく観察すると確かに無駄に動かないし、やたらと日陰にいて息が苦しそうではある。


「魔獣への進化を果たしたのは良いけど気温への環境対応が出来てないのか……間抜けだな」


「そんな事言ってないで何とか出来ないの?」


 ビクティニアスにそう言われたら俺は弱いのだ。


「毛を刈ってみるよ。基本的に羊牧しているところだって夏に毛を刈ったりするのを映像で見たことあるし」


「刈るの⁉ こんなに可愛いのに……って、ちょっと興味あるわね。どんな体型してるのかしら?」


「鋏の準備完了! さぁ、どいつから刈るかな? よし君に決めた!」


 近くでうたた寝している羊に忍び寄りこっそりと静かに毛を刈り始める。


「ふふふっ、大丈夫よ。まだバレてないわよ」


「鈍いやつだな、それじゃあどこまでバレずに刈れるか試してみよう」


 結果……最後まで刈れちゃいました。


「マサル? 意外と細くてスマートね、でもなんだか全部刈ったら卑猥に見えるわ」


「じゃあ、次は頭をアフロにしてみたり、プードルカットを試してみるよ」


 二匹目……立派なスタンダードスタイルのトイプードルになりました。


「足元の毛玉と胸に残った毛が若干ハートの形なのがポイント高いわね」


 どこのプードルカットの品評会だよ! と心の中でツッコんでいると遠巻きに見ていた羊たちが周囲に集まってくる。


「もしかして毛を刈って欲しいのかな?」


「えっ? 全部俺が刈るの?」


「やったじゃない新しい素材大量ゲットよ! また何か作ってね」


 密かに刈った毛をアイテムボックスに片付けていたのだがビクティニアスには見つかっていたようだ。


「じゃあ、頑張って夕食作るまでに気合入れて毛刈りと洒落込みますか」


「あっ、私はフィナにマサルの発見報告忘れてたから急いでしてくるね。晩御飯は一緒に食べましょう」


 大事な事をあっさりと言い残して転移で消えていくビクティニアス。


「さて、毛刈りを急いで終わらせて晩御飯の準備かな?」

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