10 本気になられると尚更怖い②
「子供とその母親、高齢者に関しては受け入れが完了致しました! ご指示通りに温泉にて身を浄めて身体検査と健康診断を行いました」
「現在は?」
「街の奥様方に協力して頂き、軽食をとっています」
「ご苦労様、引き続き宜しくね」
兵士の報告を受けてアデリナは難民が増える事で変わる今後の住居問題や食料問題についての会議の準備をする。
「マサルが仕事は作れば山ほどあるって言ってたけど軽く見積もって三千五百人……どれ程の人に住居や仕事が割り振れるかしら……」
人が少なくても出来るように工夫された規格された家の建築や農業。今や子供たちが家の手伝いとして必要とされなくなってきて、教育に時間が存分に取れるようになったほどである。
「そもそも住民の気質が違い過ぎる気がするわ……トラブルが増えるのは間違いないでしょうね」
この周辺の住居の気質は大まかに説明するとこうだ。
①ヴィンターリア……人族も獣人の混成で獣人の割合いが多い。戦争弱者だった経緯がある為に基本的に温厚で群れを守る為に一生懸命働く。
②グレイタス王国……人族が大半を締める。戦争で領土を拡大して来た歴史があるので男たちは気性の荒い者が若干多い。
③元シュテンツェン王国……エルフやダークエルフ族たち亜人族が多い。魔力的に優遇された種族が多かった為、基本的にマイペースだったり楽天的な者が多い。
「まさかグレイタス王国が何となく嫌で最近良い噂を聞くヴィンターリアに……なんて考えでここまで来たとかじゃないわよね?」
実はアデリナのこの考えは完全に当たっていて、何となくグレイタス王国の真面目で軍隊のようにきっちりとした枠組みがどうも苦手である種の喧嘩別れのような形で国を出帆してきたのが今回の難民なのである。
「今のままだと来年くらいから本気で食料が問題となるわね……何処かで田畑の拡張事業を起こさないと駄目ね」
今まで殆ど零からの開拓だったというのにヴィンターリアはここに来て初めての食糧危機に陥る可能性が出て来て、アデリナは頭を抱えたくなった。
「食べ物がない? 為政者として最悪じゃない!」
そうやってアデリナが悩みの渦に溺れかかっているその頃……。
「お魚いやっふぅ〜♪ 昆布にわかめ♪ 」
港街ニトリではマサルは倉庫を有効利用する為に海へと潜っては海藻を集め干していき、魚を獲っては捌いて干していたのであった。
「いやぁ〜大量だな! 干して旨味の凝縮された魚に海藻たち……あとはあれの栽培を許可してくれたら助かるんだけどなぁ……ヴィンターリアには余っている人は殆どいないし残念だ」
片や人が溢れて困るアデリナ。片や人が足らずに困っているマサルのその距離は僅か十キロメートルだったが、この時ばかりはその距離はとても大きな距離だったのだ。




