9 無意識に作られると怖い⑥
メイとリュリュに灯台のレンズの磨き作業を押し付けて、俺は港に倉庫を作る事にした。倉庫などの箱ものは大量の資材をアイテムボックスに持ち、経験もあるので俺にとって十八番の作業と言えるだろう。
「という事で一番倉庫から六番倉庫までを建ててみたけどどうだろう? 一応、台車を使う事を考えて完全にバリアフリーだし海側にある一番倉庫と三番倉庫と五番倉庫はレールとトロッコの設置で重量級の荷物も入荷出来るようにしてみた」
「相も変わらず無茶苦茶ですね……放っておいたら予想外の事をしなさる」
何の事を言っているのだろうと首を傾げると周囲の大人たちに揃って溜め息をつかれてしまった。
「マサルさん……未だに住民の数も程々にしか揃っていない上に、その殆どが操船の訓練をしています。何処に倉庫を運用する人員がいるというのですか?」
「それもまた一つで住民全員が住めちゃうようなの建ててくれちゃって……マサルさんってたまに馬鹿ですよね」
一つ一つが体育館のような倉庫は過剰だったらしい。
「取り敢えず、日雇いの職人たちの仮住まいとして使って貰うなりなんなりするさ」
「まぁ、適当に使ってくれたら助かりますが……」
「マサルさん……君は少し休みなさい。この調子で物を作られたら街の発展に人がついていけない」
遂に起きてしまった大人による自重の最終形態強制的な休暇……つまり『謹慎』である。
「少し周りを落ち着いて見られるようになってらっしゃい」
こうして俺は神殿での謹慎生活は始まったかのように見えた……周りの住民たちからは。
「しかし何もやるなと言われると暇だな……あっ、そう言えばまだ街のモニュメント作りがあったっけ?」
狩りにでも行けば良いものを何故かまた物作りに気が向いてしまう俺は良くも悪くもどうしようもなく不注意で仕方のない元人間なのである。
「しかしモニュメントって一体何を作ったら良いのか? 芸術を爆発させれば良いのか?」
そんな馬鹿な独り言をしていると、
「何をぶつぶつ言ってるの……本当に姉様といいマサルといい同じような事ばかりして……」
アイラが現れると同時に文句を言い始めた。
「ちょっと聞いてるの!? 本当に二人とも変なポンコツ具合なんだから……マサルも周りに迷惑かけてるんじゃないの?」
「うっ……謹慎中です」
「人に謹慎を言い渡される神って……本当に規格外なのね……残念な意味で。それで何をしてたの?」
きっちりとしっかりしてよねと釘を刺されてしまったが、あまり責める気は無いらしく俺の悩みに興味が移ったようだ。
「この港街ナトリにモニュメントを作ろうと思ってるんだけど、何を作ったら良いか悩んでいるんだ」
「候補はあるの?」
「順当なところで言うと……アデリナとザーグかな? 次点でフィナ? そしてアイラ?」
「なんで私が出てくるのよ! 却下よ! 多分、フィナも断ると思うわ。……アデリナ夫婦は順当に言うなら王都に置かないといけないでしょうし……」
そう言われたらそう言えなくもない。
「じゃあ、アデリナ夫婦は今回置いといて……この前に功績があって誰も文句を言わない人物?」
「あの二人しかいないんじゃない?」
「あの二人って……あの二人か! 確かに功績も十分だろう」
俺とアイラの悪い笑みが交わされ、モニュメントの像となる人物が決まった二日後……。
「お兄ちゃん、やっとレンズの磨き作業終わったよ」
「師匠、仕上がりの確認して下さい」
神域となっている筈の神殿の中に二人は何事もなく入り込み、一人天を仰ぎ見る俺を見付けていた。
「お兄ちゃん?」
「師匠?」
俺の前には鈍い青色に光る二体の像……威圧感さえ受けるこの青色の金属は間違いなくアダマンタイトであり、市場に出る世界最高の硬度を誇る金属だ。
「リュリュちゃんがいる」
「……でっかいメイちゃんだ」
そう二日かけて本気で芸術が爆発した俺はメイとリュリュの像を神殿無いで作っていたのだ。
「中身は空洞の少ない天然石だけど外は後に手入れや修復しやすいようにアダマンタイトで覆う事にしたんだ。この上にミスリル銀でメッキするけど、アダマンタイトの層があるから掃除ですり減ったり、転けて壊れたりする事を考えなくても良いはずだ」
「「って何で私たちの像があるの!?」」
「この街のモニュメントになるからだけど?」
あっけらかんと返す俺の言葉に頬を引きつらせるメイとリュリュ。
「アデリナお姉ちゃんを差し置いて私が像になるのは間違ってるよ!」
「そうよ! メイちゃんの言う通りよ! 女王様が先よ!」
二人は抗議するがそれくらいの事を言われるのは分かりきっていた。
「じゃあ、選ばせてあげよう。この街の中心の広場のモニュメントとしてこの像を置くか……」
「置くか?」
「王都の城下町の一番目立つところか選んでくれ。残った方がアデリナたちの像だ」
「「ナトリの方で!」」
こうしてアデリナたちの像の制作も決定したのだった。
「アデリナお姉ちゃんは女王様だから大きめで!」
「そう、序列は大切!」
ちゃっかりとしたメイとリュリュの言葉に、アデリナの悲鳴が王都で上がるのは少し先の事である。




